第九話
1週間、1日も休まず。1日も休まずだって? ああそうか、それで先日の、疲れたような無表情にも納得がいく。疲れるはずだよ、あんな場所で、行為を披露して、疲れないはずがない。当然のことだ。ていうか、あいつやっぱりゲイじゃあなかったのか。そりゃそうだ。彼女も奥さんもいたことあったし。ダイアナはいい子だし、身体つきも最高だし、セデュがくらくらきちゃってもしょうがないよ。うん。男ならだれでも、彼女に参らないわけがないと思う。1週間もともにすごしたらそれこそ、情が湧いたっておかしくない。1週間て言ったら、7日だろ、7日…すくなくとも7回、7回かア…うん、畜生、うらやましすぎて涙が出てくる。とんだ絶倫野郎だ。僕といるときは、仮面被っていやがったんだな。
考えていたら腹が立ってきた。どすどすと靴音を踏み鳴らし、僕はバアンと扉を開ける。
「ご指名ありがとう! 君のハウスメイドが登場だよ! さあさあ、なんでも命じてくれたまえ!!」
仁王立ちになって宣言する僕に、唖然としたような二対の視線が注がれる。
胸元の空いたネグリジェ姿で、どこかやわらかい雰囲気になったダイアナと、ボタンをふたつほど開けて無防備に胸元をさらしたセデュだ。
僕といるときにはいつも、きっちりボタンを留めていたセデュだから、印象の違いに一瞬戸惑う。
髪型も、いつもと違う。はらりと降りた前髪と、無造作にかき上げたようなオールバック。なんだか野性味が増して、なんというか、飢えた獣みたいだ。
こっちが君の、本性なんだろうか。じゃあ僕が見てきた君って、いったい、なんだったんだ?
「朝からやかましいわね。ハウスメイドならおとなしくなさい。仕事なら、そうね、髪を梳いてもらおうかしら。かまわないわね、セデュイール?」
「好きにしろ」
僕なんかには微塵も興味ないみたいに呟いて、セデュは立ち上がる。
「少し出てくる」
「今日も15時に、大広間でいいのよね?」
「ああ。迎えに来る」
淡々と言って、本当にセデュは行ってしまった。
ていうか、今日もって。今日もするつもりなのか? 堕落に慣れて、病みつきになっちゃったとか? 信じられない。僕の前でそんなこと言うセデュも、当たり前みたいな顔してるダイアナも。これじゃあ僕だけのけ者みたいじゃないか。…そうか、のけ者なのか。なんだか二人はぴったり息のあった夫婦みたいで、僕の立ち入るスキは寸分もないって感じだ。
「いたいいたい、髪が抜ける! ちょっと、力を緩めなさいよ!」
「あ、ごめん。ついうっかり…」
「うっかりですって? 白々しい。私に嫉妬してるって、はっきり言えば?」
「嫉妬っていうか。なんていうか…」
「なによ」
「君はよく、了承したなあって思ってさ。嫌がりそうだろ、見せびらかしたりするのとか…」
「恥知らずって言いたいの? いいわ、いくらでも言いなさいな。私だって、セデュイールとのはじめてが、あんな場所なんて業腹だけど、求められたら、断れるわけがないのだもの…」
「わああ、なに!? おのろけかい!? やめてくれよおマジで」
「聞かせてあげましょうか、セデュイールがどんなふうに女を抱くのか。あなた、知っていて?」
「やだやだやだ、聞きたくない! 勝手にしてくれよ、僕はもうしらない!」
「追いかける側のつらさがやっとわかったのかしら。いい気味だわ。あ、そこの香水とって」
「はい」
「これね、セデュイールの好きな香水なの。あなた、知らなかったでしょう? 興味ないものね、あのひとのことに」
「そんなこと…」
「私はずっとあのひとを見てきたの。あのひとの好きなものなら何だって言える。あなたはどう? まあ無理か、あのひとに甘えてばかりの、何も知らないおこちゃまだものね」
「…」
何も言い返せない僕を置いて、二人は大広間へとでかけていった。
そこでまた、いつものあれをやるんだろう。
ハウスメイドの僕は、夫婦のような二人を一歩引いたところから見つめている。僕はご主人様に恋をしているメイドで、まあメイドというにはかわいらしさのかけらもない、貧弱なだけの男だけど、振り向いてくれないご主人様を、いつも見つめているんだ。こっち見ろ、こっち見ろ、って願いながら。
でもセデュは僕を見てくれない。僕にふれもしない。
僕のことをどうにでもできる権利をもっているはずなのに、それを一切行使しようとしない。
もう僕のこと、飽きちゃったのかな。
僕のバカさ加減に、愛想が尽きた、のかな。
僕は唇をかみしめて、二人の邪魔をしないようにしながら、また願うんだ。
君の瞳にちょっとでも、僕が映るように。
大広間で披露した後はいつも疲労困憊といった様子のふたりはいつも、部屋に戻ると夕食もそこそこにシャワーを浴びて、ベッドに入ってしまう。
ガラス張りのシャワールームからシャワーの音が聞こえるのを、メイド部屋の僕は聞く。覗き込むことはこわくてできない。セデュの肌を、流れ落ちる雫を想像して、一緒にぐしょ濡れになった二人を想像して、苦しくてたまらなくなる。
耳を塞いで、現実から逃げたくもなるけど、それはどうしてもできなかった。
だって、すぐそこに、セデュがいるんだから。
彼が振り向いてくれなくても。彼が触れてくれなくっても。
諦めるのって、やっぱり、どうしたって難しい。




