第四話 宇宙規模の権能と越前開発力
「――ッ!?」
まさかの声に、カミサマが思わず振り向く。
そこにいたのは、満身創痍になりながらも五体満足の状態で立ち上がっていた成雄の姿であった。
その様子に軽く戦慄きながらも、カミサマが成雄へと問い質す。
「馬鹿な……我が望んだ結末のみしか存在することを許されない権能を前に、何故直撃した貴様が生きていられる!?貴様、一体何をした!!」
そんなカミサマの激昂に対しても、成雄はへへっ……と軽く笑いながら答える。
「……周りのみんながあくせくと進歩やら未知への挑戦に向けて忙しく働き回っている中、川のせせらぎや田んぼと語り合い、閑散とした町中を歩きながら前宇宙に刻まれた本来の福井という在り方へと到達した俺が身につけた能力――それがこの"越前開発力"だ!!」
「~~~ッ!!え、"越前開発力だと!?」
万能の存在であるはずのカミサマが驚愕の声をあげるが、それも無理のないことだろう。
"えちぜんかいはつ"ではなく、"えちぜんかいほつ"。
その響きはさながら、電車を降りてすぐに小川のせせらぎが視界に映る駅前開発駅の光景を彷彿とさせる代物であった。
これまで"未来のカケラ"に駆り立てられるかのように――あるいは、自身についてきた者達の信仰に応じるかのようにカミサマはひたすら未知の優れた性能や成果を追い求め続けて来た。
そんなカミサマの軌跡では到底たどり着くことが出来なかったであろう、奇跡に等しい性質を帯びた能力を有した七宝洞 成雄という青年を前に、彼女は――。
「――ッ!!」
神としての荘厳さからは程遠い、獰猛とも言える笑みを無言のまま浮かべていた。
……初めに彼女の胸に去来したのは、如何なる感情であったのか。
神となり長き年月を得ても己が会得すること叶わなかった能力をただの人間が身につけたことに対する怒り?
それとも、自身の権能を用いたにも関わらずそれが通用していない事に対する未知への焦りや恐怖か?
如何なる奇跡を行使出来るにも関わらず、この感情を言い表す術をカミサマは持たなかったが――何も分からぬまま、それでも彼女は瞳を爛々と輝かせながら眼前の青年を笑みとともに見据える。
そんなカミサマに対して、一息つきながら成雄が語りかける。
「――俺の越前開発力はその名の通り、のどかな自然の風景が広がる越前開発駅の力を宿すことによって、相手のありのままを受けきる能力。……カミサマがどれほど東尋坊染みた荒々しい能力を有していようと関係ない。アンタ自身の本質が揺らがない限り、俺の"越前開発力"は必ずアンタを本来の福井へと連れていけるんだ!!」
長き人類の歴史の果てに、越前開発力を身につけた唯一の青年:七宝洞 成雄。
そんな彼を前に、今度こそ耐えきれぬと言わんばかりにカミサマがくつくつと笑う。
「……何を言い出すかと思えば、まったく説明になっていないぞ、七宝洞 成雄。……第一、受けきると言ったわりに貴様は既に満身創痍ではないか?」
その発言を受けて、ここに来て初めて成雄がわかりやすくうぐっ、と呻きを漏らす。
そんな彼を見て多少溜飲が下がったのか、楽しそうにカミサマが続ける。
「……だが私もこう見えてかつては"ふくい革命殺戯団"という勢力を率いていた身。拙くも貴様という道化が必死に用意した舞台に上がるのもそう悪くはない」
ゆえに、とカミサマは告げる。
「ここからが互いにとって最大の演目!!七宝洞 成雄よ、貴様の大言壮語と私の天啓、どちらがこの世界の礎となるべき意思かその身で証明してみせるがいいッ!!」
それまでの血を思わせるかのような真紅とも異なる、越前ガニを彷彿とさせる艶やかな光沢がカミサマを覆い尽くす。
これまでとは比較にならない神気の上昇――それでも成雄は川のせせらぎを体内に巡らせながら、自転車置き場の構えを行うことによって越前開発力を高めていく。
一乗谷を再現した周囲の空間ごと歪ませる福井力を放ちながら、宇宙の命運をかけた戦いが今、始まる――!!
成雄という存在そのものを宇宙規模で拒絶するかのように、カミサマの権能によって熱力学第二法則が出鱈目に書き換えられていく。
宇宙の熱的死を拒絶するそのエネルギーは、まさに真っ赤に茹で上がる越前蟹のごとき生命の輝きを放ちながら銀河規模の爆発を引き起こす――!!
「~~~~~~~~ッッ!!!!」
声も上げる間もなく、爆発に巻き込まれていく成雄。
これだけの威力に巻き込まれた以上、粒子レベルで存在そのものが蒸発していてもおかしくはないはずだが、カミサマは一切表情を緩めることなく右手をかざす。
刹那、銀河規模で引き起こされた爆発の熱を逃さぬように冬の東尋坊の荒波の如き激しさで空間が包囲されていったことにより、凝縮された空間全域に強固な旨味が染み渡っていく――!!
「~~~~~~~~ッッ♡♡♡♡」
……芳醇な美味に耐え切れなかったことは迂闊とはいえ、それは宇宙全体から見れば、あまりにも矮小かつ一瞬に満たないはずの生体反応。
だが、全能の神と化した少女がそれを見逃すはずもなく、カッ!と目を見開きながら殺意を飛ばす。
「――貴様が如何なる手段を用いて生き延びたのかは知らんが、このくらいで逃げられると思うてか!!」
極限の憤激とともに、空中で両手をこね始めるカミサマ。
場にそぐわぬ可愛らしい所作ではあるが、それは宇宙全体の因果そのものを丁寧な仕上がりで捏ね上げることによって、対象を羽二重餅へと仕上げてしまう権能であることは明らかであった。
「……………………………」
……一体、どうするのが正解だったのであろうか。
銀河を巻き込む規模の越前蟹じみた爆発の発動を何としてでも阻止すべきだったのか?
空間全域で旨味が凝縮されようとも何とか耐え切るべきだったのか?
……あるいは、神の座に届く力を得ようとも、挑むことなくそのまま見て見ぬふりをしながら過ごしていればよかったのか。
そんなことを、成雄だった存在と思われる羽二重餅が本当に思考していたのかはわからない。
いずれにせよこの場にある唯一の真実は、カミサマの裁定は何一つ変わることはないということのみである。
「――今度こそ、これで終わりだ」
パチン、と彼女が指を鳴らすや否や、消失した銀河の跡から数億年の時を超えて現れる勝山の恐竜化石を想起させる堅牢な岩盤が再構築されていき、フクイサウルスのような顎を形成しながら七宝洞 成雄という男の痕跡をもっちゃ、もっちゃ、と咀嚼していく――!!




