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第ニ話 ハリウッドアクションと福井系なろう作品

 ――そこからは怒涛の勢いであった。


 誰が呼び始めたのかはけんけら並に諸説あるものの、圧倒的なカリスマである蟹井 珠子率いる"ふくい革命殺戯団(リベリオンサーカス)"による快進撃を超えた蹂躙劇が繰り広げられることとなる。


「ば、馬鹿な!!――黒部ダムには国連軍所属の機動兵団が常駐していたにも関わらず、なす術もなく殲滅だと!?」


「新潟や草津に並ぶ世界都市である我が金沢が、こんなところで……!?――ベントウワスレテモ、カサワスレルナァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」


 壮絶としか言いようがない断末魔が、北陸全域に響き渡る。


 どれほどの戦力を有していようと、"分岐点"となり得る要素をすべて削ぎ落とし所有者の望んだ結果を引き寄せる"未来のカケラ"が珠子の掌中にある以上、抵抗は無意味そのものであった。


 瞬く間に北陸三県は、"カニタマ"の御旗のもとに統一されることとなる――。





 長い年月で三竦みの均衡を保っていた石川・富山・福井。


 それらの勢力図が一気に書き変わったことを契機に――琵琶湖という巨大な湖に面した快適な立地の草津、そして、唯一北陸という概念力場に抗い得る可能性のあった新潟までもが奮戦むなしく蟹井(かにい) 珠子(たまこ)率いる"ふくい革命殺戯団(リベリオンサーカス)"のもと陥落していく……。


 北陸三県のみならず、草津と新潟といった日本が世界に誇る国際的二大都市までもが敗れた以上国内で珠子に勝てる勢力などおらず、日本全土が福井一色に染め上げられるのは時間の問題であった。









 ふくい革命殺戯団(リベリオンサーカス)の進軍はそれだけで留まることを知らず、



・『ならず者達の最後の砦』と称される死と灰に覆われた都:デツネグラード


・住民の大半が、岩塩とブラックペッパーを程よくブレンドした調味料をステーキにかけることで美味しく食べられることを知っている驚異的な隠れ里:ヒミツリ


・アヒル型のおまるに騎乗しながら道行く行商人を襲撃する盗賊が蔓延る危険な砂漠地帯:モレタロ



 これらの世界的に悪名高い武装地帯をもなし崩し的に併合していったことにより、国際社会は『武力で珠子達に抗うのは無謀である』という共通認識を得ていた。


 さらに日本全土が未曾有の事態ともいえる福井カラー一色に染まったことにより、国内最大手の小説投稿サイトである『小説家になろう』において勝ち馬に乗るのが大好きな上位ランカー勢により、空前絶後の福井ブームが到来。


 福井を題材にした作品でなければランキングに上がることすら困難なほどであり、その影響で漫画やアニメといったメディアミックスも爆発的大ヒットとなった結果、ついにはその人気が海外にまで急速に広がることとなったのである。


 武力だけでなく文化面からの侵食に危機感を覚えたアメリカは、この動きに対抗するためにハリウッド映画の力を用いることを計画。


 ソリティア大統領の『なろう作品を一撃で倒す!!』というコンセプトに縛られ過ぎた影響によるものか、大多数の者達にわかりやすい勝利の形というインパクト重視に傾倒したハリウッドはアクション映画一辺倒に力を入れ、それ以外のジャンルをすべて削ぎ落とす選択へと突き進むこととなる。


 その結果、アクションジャンルでありながら思わせぶりな続編を匂わせるラストばかりで尻切れトンボそのものなハリウッド映画よりも、単調ながらもわかりやすい爽快感とそれまでの世界各国の人々が持つ日本のイメージにあまり馴染みのなかった"福井"という未知なる新たな文化が融合したなろう発の映画作品の方に軍配があがる形となっていた。


 さらにその結果を受けた影響によるものか、福井の文化的侵攻からこれまでの既存文明を守護する最後の障壁として見なされていた生成AI技術がハリウッドすら凌ぐ人気となったなろう作品を取り込み解析しようしたことにより、内部から完全に侵食される事態となっていた。


 『福井至上主義』とでも言うべきプログラムに染まったAIは創造主である人類の管理から離れハッキングで既存の社会インフラを乗っ取っただけでなく、人間では到底追いつけぬ超速かつ膨大な量の高クオリティの福井系なろう作品を世に放つことで、とうとう市場だけでなく在野の創作の場からも既存のジャンルを一掃するほどになっていた。


 ハリウッドの敗北と生成AIの陥落は、『最強のブランドと最新の技術すらも福井には敵わない』と世界中の人に印象付けるのに充分すぎる認識をもたらしていた。


 現実だけでなくフィクションにおいてもまったく太刀打ち出来ぬまま、世界中の何もかもが福井という大いなる潮流に急速かつ確実に呑み込まれていく……。








 世界そのものを呑み込む潮流そのものと化した福井。


 その影響が出たのは、人類の文明社会――だけではなかった。


 まるで地球そのものが『蟹井(かにい) 珠子(たまこ)こそがこの星の真の支配者である』ことを認めるかのように、あらゆる生態系や自然環境が屈服するかのように彼女が望む福井県民好みの性質へと適応進化し始めていたのである。


 その様子はさながら、新鮮な蟹をといた卵でふんわり包んだ丼が味わえる東尋坊の人気メニュー:蟹玉丼を彷彿とさせるが如き包容力に満ちた推移であった。


 実際のところ、この現象が本当に自然現象として引き起こされたものなのか、それとも珠子が持つ"未来のカケラ"によって強制的に引き寄せられた結果なのかはわからない。


 だがこの頃から珠子は、まるで"権能"としか言いようがない物理法則を超越した力を何の制限も代償もない状態で行使出来るようになっていた。


 地球が珠子の支配下に完全に置かれたことで未来のカケラの力が活性化したのか、未来のカケラを行使し過ぎたがゆえに地球そのものがおかしくなってしまったのか……。


 卵が先か蟹が先なのかは、誰にも答えが出せない。


 それでも確かなことがあるとすれば、それは珠子は物理法則すら超越した権能を行使することにより、それまでの人類の文明技術では非常に困難だった人類の大規模な宇宙進出を成し遂げるまでに至ったという事である。


 恋愛も闘争も青春も既存の価値観を超えた先――かつて福井で聴衆に向けた天啓(レヴェラシオン)通り、遂に宇宙という未知の領域にまで人類全体を引き上げた蟹井かにい 珠子(たまこ)という存在は、もはや神格化されるまでになっていた。

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