0046 イベントと魔晶ゴーレム
紬たちがコアを獲得する30分前……。
「ここがボス部屋……?」
セーフティエリアを抜けて、ボス部屋に入ったマサムネたちは、目の前に広がる部屋の風景に圧倒されていた。それは同じダンジョンの中とは思えなかった。水晶のようなもので覆われた部屋。真ん中にあったのであろう湖は水晶で埋め尽くされ、水に触れることができなくなっていた。
「ねぇ、あれって魔晶ゴーレムだよね?」
ハルは部屋の真ん中に佇んでいる水晶の塊を指差した。
シズとマサムネは顔を見合わせた。
紬のダンジョン以外で魔晶ゴーレムはもちろん、水晶ゴーレムでさえも目撃されていなかった。故に、このダンジョンにいるのは衝撃の出来事だったのだ。
「そうでござるな……どうやら主人以外にも、召喚自体はできるみたいでござるな」
「これは大スクープね……またポイント稼ぎに使われてもおかしくないわ」
シズは嫌そうな顔をしながらそう言った。
あの時やっていた身としては、楽なポイント稼ぎというのは魅力的なものであることをわかっている。しかし、決して許されることではない。そのことも理解していた。
「とにかく倒そう!コアを探すのに時間をかけたほうがいいし」
「そうね。さっさと倒して報告しに行きましょう」
シズが剣を引き抜く。
すると反応したように、水晶の塊は大きな音を立てながら体を起こした。
「キサマラ、ワレニ、ナンノヨウダ」
「しゃ……しゃべったでござるか!?」
3人は目を見開いた。
紬のダンジョンの魔晶ゴーレムは喋ることができない。このモンスターが喋れるとは思っていなかったのである。
「ココノボス、ワレガ、タオシタ。ワレガ、ボス」
このダンジョン情報は何もないため、このゴーレムの言っていることが本当なのか。それはわからなかったが、このゴーレムがボスということは3人はわかっていた。
ただ倒すだけ、そう思っていたゴーレムが話せる。
たったそれだけのことで、ハルの心は微かに揺れ動いていた。
「このゴーレム……本当に倒さなきゃいけないのかな?」
「ハル……何を言い出してるの……?」
シズはハルを信じられなかった。
今まで自分たちがここまできた目的を放棄しようとしている。そうシズは捉えたのだ。
「倒さなきゃここまできた意味がないじゃない。倒さなきゃ」
「でも!きたことで、魔晶ゴーレムがいて、喋れることがわかったよ?きた意味あるじゃん?」
「そういうことじゃないでしょ!」
シズは声を荒げた。
ハルは特に動揺する様子もなく、シズを凝視している。
ハルにとっては、こうして揉めることなどいつものことで慣れていた。そう、ハルにとっては。
「これ、これ、吾輩はどうすればいいでござるか……?」
マサムネは目の前で始まった喧嘩を止めるべきか、放置するべきなのか、どうすればいいのかわからなかった。どれだけ考えても、頭の中が散らかっていくばかりで、考えはまとまらない。
しかも、喧嘩のしている場所がボス部屋、さらにボスの目の前である。
マサムネは気が気でなかった。
「オマエラ、ワレノテキ。リカイ。オマエラ、コロス」
ゴーレムはそう言うと、シズとハルに向かって突進していく。
シズは剣で迎撃の準備をし始めた。しかしハルはシズを押し、迎撃を止めた。
「何するのッ!あなた、死にたいのッ!?」
「違うって!私はただ、話をしたいだけ!きっと話せばわかってくれるよ!」
「わかってくれるのなら、どうして今攻撃されてるのッ!?説明しなさいッ!」
「まだ話してないからでしょ!?少しはその使えない頭で考えたら?」
喧嘩はどんどんヒートアップしていく。
マサムネにはもうどうすることもできず、ただ茫然としていることしかできなかった。
攻撃すれば、ハルから何か言われる。喧嘩を止めれば、二人から何か言われる。
マサムネは何もしないが正解だと気づいたのだ。
「ねぇ!あなたどうしてこんなことしてるの?」
「そんなのダンジョンを守るために決まっているでしょッ!あなたこそ、その粗悪な頭で考えたら?」
「ちょっと黙ってて!うるさい!」
シズは溢れ出さんばかりの怒りを堪えるように、拳を握りしめた。
そして上を見上げてため息をついた。
「ドウシテ?ワレハ、ナゼシテイル?ワカラナイ……」
ゴーレムはハルの質問に答えられなかった。
自分がなぜ暴れているのか、ボスを倒したのか、目の前のマサムネたちを倒そうとしているのか。何もわからなかった。
「わからないなら、私たちと一緒に行こう?きっといい世界が待っているからさ」
「ソレハムリダ。オマエタチ、オレノテキ」
「違うよ。私たちは敵じゃない」
ゴーレムは少し戸惑ったように、「ナゼ?」と言い、動きを止めた。
「オマエラ、テキ。ワレ、タオス」
「もうだめよ。そいつに何を言っても無駄ということがよくわかったでしょ?」
「何言ってるの?今心が揺れ動いてるじゃない!」
2人はまたケンカを始め、ヒートアップしていく。
マサムネはもうどうすることもできずに、ただただ立ち尽くしている。
「紬からメッセージが来ているでござるよ!」
マサムネの声に反応して、ハルとシズはマサムネのほうへ振り向いた。
「ダンジョン崩壊まで、残り1分らしいでござる……」
「「えっ?」」




