0045 イベントとゴミ屋敷
「どうしたものかなぁ……」
紬は目の前に広がっているゴミの海を前に思わずそう呟いた。
紬の家は超潔癖症の母がいたため、汚いという状況が許されない。
そんな状況下にいた紬もいつの間にか、潔癖になるのは必然のことだった。
「はやくするぎょ。ここで時間使うの勿体無いぎょ」
「いや、まあそうなんだけど……!」
金ちゃんがとってこれれば話は早いのだろうが、ダンジョンマスターという肩書きのせいで取ることができない。
紬はゴミの海に入ることを躊躇っている。それはナギも一緒で、金ちゃん以外、誰もこのゴミの海には入りたくない。
完全に手詰まりだった。
まあ、紬かナギが行けばいいだけではあるのだが。
「よし……!いくぞ……!」
紬は拳を握り締め、ゴミの海の中に足を踏み入れた。
その瞬間、グチャという何か柔らかい物が潰れたような、液体が飛び出したかのような、想像したくはない音がした。
「やっぱ無理無理無理!」
「もういいぎょ!タマ、出てくるぎょー」
「わんっ?」
一体このゴミの中のどこに隠れていたのか。
部屋の隅から可愛い子犬が姿を現した。子犬は金ちゃんを見て、わんと吠えると、その場でぐるぐると回り始めた。
「タマ、そこの丸いのとってきてくれるぎょ?」
「わんっ?」
「その丸いのぎょ」
「わーんっ?」
「だーかーら!その丸いのっていってるぎょ!?」
「くぅーん……」
タマは悲しそうにその場で丸まった。
どうしてこうなったのかというと、ご察しの通り、この部屋がゴミ屋敷なせいで丸い物が至る所に多いからである。しかも、金ちゃんがあそこど言葉で言うものだから、まだ幼いタマにそんなことができるはずもなかったのである。
「ちょっと!この子が可哀想でしょ!」
ナギがタマに近づき、タマをぎゅっと抱きしめた。
タマはナギの腕の間から顔を出して、手でナギをパンチしている。しかし、そのパンチはナギに届かずに空中で空ぶってしまっている。
「あっ……」
「お前、あんだけ嫌がってたくせに、部屋の中入れてるぎょ。早くコア取ってくるぎょ」
「えっ……?あーっ!!」
ナギは今更すぎるが、小さい悲鳴をあげてゴミ屋敷の中から慌てて出た。
タマは離れていくナギをみて、寂しそうな目をしている。どうやらさっきのパンチは愛情表現だったらしい。
「なんで出てくるぎょ。そのまま取ってくるぎょ」
「もう出ちゃったから無理!ナギは絶対行かない!」
「今行ってたぎょよね?絶対いけるぎょ」
ナギときんちゃんが言い争いをしている中、紬は一人、頑張ってゴミの中に入っていこうと気持ちを落ち着かせていた。
紬は深呼吸を繰り返し、コアのところにダッシュで行って帰ってくるだけ、と自分に何度も言い聞かせた。
「いけるっ……!」
紬は全力疾走でゴミの海の中に入っていき、コアに向かってただ進み続ける。
ただ、いくら進んでも進んでも、コアは近くならずに、生ごみの匂いや何かが腐った匂いが紬の鼻を刺すだけだった。
それでも紬は諦めずに進んだ。
必死に逃げ出したい気持ちを抑えながら、ただ進んでいく。
それは簡単そうで、紬にとってはかなり難しいことだった。
「触れるっ!」
紬が手を伸ばすと、紬の手は無事にコアに届いた。
コアは紬の手に吸収されるように消え、紬のインベントリの中へと移動した。
「よくやったぎょ!それでこそ漢ぎょ!」
「まだ話は終わってないよっ!」
ナギはまだ金ちゃんと口喧嘩を続けていて、紬がコアを取ったことなど些細なことになりつつあった。
「ナギ、コア取ったし帰ろう!」
「そうぎょ!落ち着くぎょよー」
「ふんっ……!もう知らない」
紬は知らなかったが、金ちゃんがナギに対してノンデリ発言をしていたことで、ここまでの喧嘩になっていた。
「あっ!マサムネたちに連絡するの忘れてた!」
紬は急いでマサムネたちにメッセージを送った。
もし間に合わなかったら、彼らはダンジョンの瓦礫の下敷きになる。
紬はとんでもないことを忘れていたのだ。
「頼む……!間に合って……!」
紬はただマサムネたちがダンジョンを出ることができるよう、祈ることしかできなかった。
【ダンジョン崩壊まで、残り1分】




