0043 イベントと水のダンジョン4
「助かったでござるよ……」
溺れてしまったところをなんとか助けてもらったマサムネは、床に寝転がっていた。鎧の隙間からは少しずつ水が流れていっている。
「マサムネが準備できたら先に進んでみよう。多分だけど、この先にボスがいると思うんだよね」
「私もそう思う。マスターもこの奥にいると思うな。このダンジョン、まだクリアされてないし」
ハルの言葉を聞いて、マサムネはびくっと体を動かした。
「ここ、未攻略のダンジョンなのでござるか……?」
「そうだよ〜。だから私たちここにきたんだし」
ハルは地面に転がっていた石ころを蹴りながら、そう言った。
このダンジョンは、あの最強プレイヤー、リヒト率いるパーティですら、攻略することができなかった、超難関ダンジョンだった。次につながる道が地上、水中とわかりにくくなっているのに加えて、どこもかしこも水の区域が広大で深い。
探索に相当な時間と労力を要する。
そのため、そもそも挑むプレイヤーは少なかった。
「吾輩はもう大丈夫でござるよ。行こうでござる」
マサムネが立ち上がると、鎧の隙間から大量の水がドバァーと流れ出た。
ハルとシズは顔を見合わせた。本当に大丈夫なのか心配だったのだ。
「わかった。いきましょ、こうしてる時間が勿体無いし」
「ちょっ……シズ……!」
シズはそう言い、先に一人で歩き出した。
シズにとって、これはマサムネに対する優しさだった。武士だったら露骨に心配されるよりも、頼りにされていると伝える方がいいことをわかっていた。
それもさりげなく伝える、シズなりの信頼の伝え方だった。
「頑張るでござるよー!!」
マサムネは元気よく両手を突き上げた。
見えないはずのマサムネの顔が、ハルには晴れやかになったように見えた。
◇ ◇ ◇
シズにようやく追いついたハルとマサムネは、目の前に広がる光景に圧倒されていた。
進んでいた先にあった広い空間。
そこは、水の中にある場所とは思えないほど明るく、草花が広がっている。
緩やかに流れている川からは、せせらぎが聞こえる。
「なんで……こんな場所にこんな空間があるのでござるか……?」
「多分だけど……ここがボス部屋の前のセーフティエリアね」
セーフティエリア。
限られたダンジョンにのみある場所で、次のボス部屋に向けて安全に休憩できる。モンスターや罠といったものはなく、ダンジョン内で唯一、確実な安全を確保できる場所なのである。
シズは休憩するそぶりも見せずに、どんどん反対側の扉へと進んでいく。
マサムネとハルもその様子に戸惑うこともなく、シズについて行った。
この3人にとって、休憩はもう必要なかったのだ。
「準備はいい?」
「もちろんっ!」
「バッチリでござるよ!」
シズは力を込めて、勢いよく扉を開け放った
◇ ◇ ◇
一方その頃、紬たちは……。
「紬ー!なんか変なのいるよー!」
「えっ!?今行く!」
紬が急いでナギの元へ向かう。
通路の上でしゃがんでいるナギの近くには、ピチャピチャと跳ねている金色の魚がいる。
「あっ、あっ、ちょっ、ちょっと待ってほしいぎょ……ちょっ、逃げないで欲しいぎょ!」
「喋った……?」
逃げようとしたナギを見て、金色の魚は喋りかけてきた。
「ちょっ……っと待つぎょね……今そっちに行くぎょから」
金色の魚はよいしょっよいしょっ、と言いながら、紬とナギへ近づいてくる。
なんとか紬の足元にたどり着くと、金色の魚はヒレを大きく上に上げた。
「初めましてぎょ!ぎょはこのダンジョンのマスターぎょ!名前はまだないぎょ」
「やっぱりか……」
紬は額に手を当てて、天を見上げた。
金色の魚という特異的な時点でそうではないかと疑っていたのだった。
「それでどうしてマスターが自ら姿を現したの?僕、君を倒してコアを取ろうとしてるんだけど……」
「ぎょっ!?そうなのでござるか!?」
金色の魚、長いから金ちゃんと呼ぼう。
金ちゃんは考えているかのように目をキョロキョロと動かした。
「……まぁ、うん……いいでござるよ。そんなことより助けて欲しいのぎょ!」
「えっ?」
紬はどうやらまた厄介なことに巻き込まれたみたいである。
金ちゃんという謎のマスターに。




