0031 イベントと1人目の管理人
「よーし!早速、召喚していくぞー!」
2日目の23:00。
管理部屋にずっと一人で閉じこもっていた紬は、肩をブンブンと回しながら部屋から出てきた。
「誰を召喚するか決めたの?」
「うん、いい感じの子を見つけることができたからね」
「たのしみー」
よし、と気合を入れるようにして服の袖を捲る。
そしてウィンドウを開き、お目当ての子を選択した。
「いざ……召喚!」
「わぁー」
紬の声に応じて、召喚陣が現れる。
召喚陣は紫色の光を放ち、段々と大きくなっていく。
紬が眩しさにやられて閉じていた目を開けると、そこには召喚陣から出てきたのであろう、モンスター、いや人の姿があった。
「あなたが私のマスター……?」
「うん、そうだよ。これからよろしく頼むよ!」
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ!あ、あの、私はエルフ族のカオルっていいます!よろしくお願いしますっ!」
「マスターは、召喚するのエルフ族の子にしたんだね」
そう、紬が新しく召喚することにしたモンスターの片方は、エルフ族の《《この子》》だ。
エルフ族と言うのは、ファンタジーお馴染みの種族の一つで、耳が尖った森に住む森の精霊のような種族である。
このゲームのシリーズにおいては、風、水、の2属性の魔法を得意とし、プレイヤーにさまざまな恩恵を授ける。プレイヤーにとっての便利屋さんのポジションにつくはずの種族なのである。
「エルフ族って、プレイヤー側のイメージがあったし、魔法のイメージがあったんだけど、この子は違ったからさ。ちょっといい感じのアクセントになる気がして、この子にしてみたんだ」
「えへへ……そう言ってもらえると、私嬉しいです……」
「ごめんだけど、僕もよくわかってない部分あるし……できること教えてもらってもいいかな?」
「もちろんです!それでは、説明させていただきますっ!」
紬に一礼すると、カオルは少し焦りながら何かを準備し始めた。
カオルはどこからともなく現れたバッグに手を入れる。ごそごそとバッグの中で手を動かし、しかし何かが見つからないのか、眉間をしかめ始めた。
しばらくすると、ようやく見つけたのか、バッグから元気よく手を取り出した。
パチンッ!
カオルが指を鳴らすと、カオルの今まで着ていた緑色のドレスのような、ドレス風ワンピースから一転。
オフィスカジュアルな格好に早変わりした。
そして、さっきバッグから一生懸命探っていたものであろう、丸い縁のメガネをかけ、ポケットからメモ帳を取り出した。
「それでは、始めさせていただきます!」
「はーい」
「ぱちぱちぱちー」
「まず、私ができることを大きく分けて話しますね。私が大きく分けてできることは2つ。近接戦闘による戦闘参加、そしてマスターが私を選んだ大きな要因であるはずのダンジョンの《《管理》》です」
「えっ、ダンジョンの管理ってことはマスターと同じようにできるってこと?いやぁ……すごいな……」
カオルの説明を聞いていたシルトは、思わず感嘆の言葉をこぼした。
モンスターたちにとって、自分のマスターと同じことができると言うのは高貴で素晴らしいことだった。
「はい、質問です!管理ってどこまでできるんですか?」
「管理はマスターができることは一通りできると思ってもらって大丈夫です。もちろん、マスターの指示されたことしかしませんので、ご安心くださいね?」
カオルは大丈夫ですからねっ、と心配そうに念押しをする。
紬はわかったよ、と言い、カオルに説明の続きを促した。
「えーっと……それじゃ……次に私の戦闘能力について、なんですが……。マスターに関してはステータスを見てもらった方が早いのではないかと思います」
「あっ、確かにそうだよね。ステータス」
カオル
Lv.1
HP 180 / 180
MP 245 / 245
STR 128
VIT 97
AGI 163
DEX 9
INT 84
スキル
「魔法剣」
「空間感知」
「風魔法:超級」
-「風の囁き」
-「風の誓い」
-「風の願い」
「うわぉ……すごいね……なんか精霊的な名前の魔法多いし……」
「そうなんですよぉー……私だけなんでか、普通の風魔法は覚えられなくて……この精霊魔法でもない、よくわからない風魔法しか使えないんですよ……対して強いものじゃないですし……」
「でもすっごい強いよ!多分シルトと互角かそれ以上じゃないかな?」
「うん、僕を超えていると思うよ」
それでもやっぱ嫌なんですー、とカオルは嫌そうな顔をした。
「そうだ、説明続けますね。戦闘面はステータスでなんとなくわかると思うので、おいといて…………管理の方の説明に入りますねっ!」
「ぱちぱちぱちー」
「管理なんですが、私はマスターから命じられた箇所の管理を部分的にやる形になります。全部やってしまうと、マスターの意向と違うことをしてしまう可能性がありますので、そうしてます。部分的というのは、例えばこの部屋、階層の管理とか……こういうコンセプトでこう言うギミックのある部屋を作って、というマスターの要望を形にする、などになると思います」
カオルは一通りの説明を終え、ふぅ、と息を吐いた。
彼女は元気に振る舞っていたものの、突然ここにくることが決まったこともあり、かなり緊張していたのだった。
「なるほどね……いろいろとわかったよ!カオル、ありがとね」
「いえいえ、今後ともよろしくお願いします」
紬はカオルと握手を交わした。
カオルは、荷物を片付けてきますっ、と言って管理部屋へと走って行った。
「手、震えてたな……」
紬はカオルが緊張してることをさっきの握手から感じ取っていた。
そして一つのことを、信じたくないことを、少しずつ感じ取り始めていた。
「いや、まさかな……」
「ねぇ、マスター。カオルって何DPだったのー」
「えっーとね、確か10万DPだね」
「えっ!?」
管理部屋から着替えて戻ってきたカオルは、自分の召喚額を聞いて目を見開いて固まった。まさか、自分がそんなに高額なDPを使って召喚されたものと思っていなかったのだ。
「ねぇねぇ、マスター?カオルってダンジョンのそとにいけるんだよねー?ならね、つれっていったらいいとおもうー」
「うーん、でもねバル、カオルを連れて行ってごらん?美人が歩いていたらみんなの目が集まるだろう?さらにエルフときたら…………もうね、みんなの注目の的になっちゃうから」
「たしかにー」
バルはなっとくー、と言って満足そうに遠くにいるシルトの方へと跳ねていった。紬もバルを見送ったのち、管理部屋へと戻っていく。
「マスターに……美人って言われたんだけど…………私、もしかして頑張ればいけたりする?」
一方、カオルは紬のせいで頭がこんがらがっていた。
「どうなんだろ……?」
彼女は、考えすぎる癖のある子である。要するに、
「いつまで経ってもわかんなーい!!」
皆様、いつもお世話になってます。
ユルヤカと申します。
なんと、私が肺炎になってしまって……。ちょっと更新が遅れるかと思います。ほんとに申し訳ないです。
ペースが戻ったら、「あ、肺炎良くなったんだな」と思ってください。
それでは、突然お騒がせしましたー!




