0002 ダンジョンとバグ
「なんだろう、これ。宝石みたい……」
紬は台座へと近づき、台座の上で鎮座している宝玉に見とれていた。
そうしているうちに「攻撃力強化Ⅰ」の効果時間が切れ、また紬のSTRは3になってしまった。
「あーっ!切れちゃった……この宝玉にもSTRが必要だったらどうしよう……」
使用したことで「攻撃力強化Ⅰ」は、再使用時間に入ってしまっている。残りのクールタイムは30分で、もし宝玉にもSTRが必要だったら、30分暇な時間を過ごす必要があった。
「とりあえず、触ってみようかな」
紬は特に他にできることもないため、目の前にある宝玉に手を触れた。
『プレイヤーの生体認証を確認。このダンジョンはツムグのものとなりました』
「うわっ!びっくりした…やっぱり何回聴いても慣れないな、これ」
宝玉に手を触れると、紬の頭の中に直接アナウンスが流れた。
紬はよほど驚いたのか、胸に手を当てて深呼吸をする。
他のVRMMOゲームでアナウンスを聞いたことがあるとはいえ、やはりなれなかった。
「そういや、ダンジョンがどうたらこうたらっていってたな。確認してみるか」
紬はログを開き、さっきのアナウンスをもう一度確認する。
「えっ、ダンジョンが僕のものになったっていうこと?このゲームってプロローグでそんなことできたっけ?」
紬は疑問に思いつつも、実際にそうなっているのだからそうなのだろう、と思い、考えることをやめた。
何が変わったのかと思った紬は、ステータスを開き、変わった点がないか確かめた。
「嘘……ジョブにダンジョンマスターが増えてる……」
紬が驚くのも無理はない。
このゲームは世界の各地にあるダンジョンを攻略して、ダンジョンのクリア報酬である強化石を集めて、さらに難しいダンジョンを攻略していくのがテーマのゲームだ。だからダンジョンマスターなどというジョブになれることは、あり得ないのだ。
紬は気づいていないが、ダンジョンからスタートしたこともダンジョンマスターになれてしまったことも、通常では起きないことだった。
「もしかして、これバグ?」
紬も流石に何かがおかしいと気づいた。そう、この一連のことは全てバグなのだ。
「でもわかってもどうしようもないしな……うーん……」
しばらく考えた結果、とりあえず進めてみることにした。
◻︎ ◻︎ ◻︎
「なるほど、ダンジョンマスターはダンジョンを作り替えていけるのか」
紬が宝玉、このダンジョンのコアに再び触れると、ダンジョンのチュートリアルが表示された。
ダンジョンマスターは、ダンジョンを管理する管理人で、ダンジョンが攻略されないようにするのが、ダンジョンマスターの役目である。
ダンジョンというのは、ダンジョンの外から入ってくる人、プレイヤーによって、DPというものを得られる。そのダンジョンポイントで、ダンジョンの部屋を変えたり、モンスターを新しく召喚したり、罠を設置したり、色々できる。
要するに、ダンジョンというのは攻略されてはいけないけど、人や動物にダンジョンの中に入ってもらわなければ成長できないということである。
一応、それ以外にモンスターが死ぬことでDPが発生するのだが、それも人によって討伐してもらう必要があった。
「うーん、これ難しいな」
今このダンジョンは、最初紬がいた部屋の湖部屋と、天井に魔晶がある大きな部屋、そしてこの最新部である管理部屋の3つしかない。しかも、このダンジョンの最大の欠点として、入り口がないのである。
本来は入り口があるのだが、バグで飛ばされたこのダンジョンは製造途中のダンジョンなため、入り口が存在しなかった。
「手詰まりだな、これ。入口出せないしな……」
紬は今初期ボーナスでDPを10000持っているのだが、入り口を増やすには100万のDPが必要で、入り口を出せなかった。
「とりあえず、モンスター出してみるか」
紬は特にできることもないので、モンスターを出して自分で討伐してみることにした。1対1体出すと自分に従順なモンスター、部下が出せるのだが、今回は自分で討伐するので、時間でモンスターをポップするスポナーを出すことにした。
スポナーは結構DPを消費するのだが、やることがないからしょうがない。
紬はとりあえずとスポナーの中でも一番安いDP500のスライムのスポナーを選択し、魔晶の大部屋に設置した。
決定を押すと、大きな振動と共にスライムスポナーがどこからか設置される。
設置が終わったと同時に、紬に一つのアナウンスが流れた。
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次回の投稿は9月20日12:08です。




