0027 イベントと水晶の鍵
「うぉー!結構すごい造りだね!」
ボス部屋に入った陽毬たちは、ボス部屋の造りに思わず感嘆の言葉を漏らした。
このダンジョンのボス部屋は、一つだけ大理石で作られた神殿のような見た目になっていて、これまでの迷宮のような見た目とは大きく異なっていた。
「ここのボスは結構強いらしいから、油断すんなよ?」
「わかってるわ。ここのボスは……」
「ギギギギギッッ!!」
茜の言葉を遮るように、奥からこのダンジョンのボスが姿を現す。
「おーっ……なかなかかっこいい見た目だねぇ……」
陽毬は現れたボスを見て、そう言った。
体は大きな歯車で作られていて、腕や足などの細かく動く部分は小さい歯車が噛み合ってできている人型のモンスター。それが、このダンジョンのボスである、「ピニオン」である。
茜と迅が剣を構える。
すると、それを待っていたかのようにピニオンは突然動き出し、体の一部から歯車の剣を作り出した。
「くるぞ!」
迅が声を上げた次の瞬間。
一瞬にして、3人の前にいたはずのピニオンは茜の前へと移動した。
「茜!」
「攻撃誘導!」
ピニオンが剣を振り抜く。
茜は即座にスキル「攻撃誘導」を発動し、ピニオンの攻撃を近くの石に曲がらせることに成功した。
しかし、避け切ったのも束の間。
ギリギリで避けたせいで一瞬だけ隙が生まれた茜に、ピニオンは目にも止まらぬ速さで剣を振り抜いた。
「嘘っっっ……!」
剣を正面から受けた茜の体からは、ダメージエフェクトが大きく舞っている。茜はどうにか耐えたものの、すでにHPは1割を切っていた。
「陽毬、叩くぞ!」
「任せて!」
茜に攻撃を加えた隙を見て、陽毬と迅はピニオンめがけて突っ込んでいく。
陽毬はスキルによって火をまとった右手を放ち、迅はすでに錆びている銅剣を振り抜いた。
キンッ
甲高い音が部屋に響き渡った。
2人の放った攻撃はピニオンの手によって軽々と止められている。
しかし、止められても発動する効果があった。
「銅剣の効果くらいやがれ!」
迅の銅剣の追加効果が発動し、ピニオンは行動不能と毒を負った。
行動不能のおかげで陽毬の拳と迅の剣は、ピニオンの手から離れた。そして毒を負ったピニオンは、弱点だったのか、先ほどよりも動きが鈍くなっていた。
「今がチャンスだよねっ!」
いち早く反応した陽毬が、ピニオン目掛けてスキルを放った。
「牙狼」
陽毬の両手の周りを狼の牙が包み込み、陽毬の攻撃と共にピニオンに向かって進んでいく。
ピニオンは反応しようと体を動かした。
しかし毒の効果と行動不能によって、体が動かなかった。
「ギギギギギギギギ!!!」
牙狼を喰らったピニオンは、大きな甲高い叫び声をあげた。
叫び声が止むと、命が尽きたかのようにピニオンは動かなくなった。
「倒した……のか?」
「私が確認するわ。どうせ生きていたら私は近いうちに死ぬでしょうし」
茜が動かなくなったピニオンに近づいていく。
「動かないわ!倒してはいないみたいだけど、一時的にダウンしている状態みたいだわ!」
「それは勝った……ってことなのかな……?」
「まあ、動かないなら勝ったんだろ!さっさと奥に進もうぜ!」
迅は一人で部屋の奥へと走っていった。
陽毬と茜は念の為、ピニオンの周りを十分に確認して、特に危険はないと判断した。そして迅の後を追ってダンジョンの奥へと向かった。
「ふぅ……迅くん、何かあった?」
「うーん……あったにはあったんだけど、なんだかよくわからないものなんだよな……」
迅の目線の先には、宝箱があった。
宝箱の中を見ると、中にはボロボロの歯車と小さな四角い箱のようなものが丁寧に置かれている。
「インベントリに入れてみたらわかるじゃない?」
「おー、確かにな。思いつかなかったわ」
「バカすぎるでしょ……」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもないわ」
言い争いが始まりそうな2人だったが、一方では陽毬がインベントリに入れたアイテムの説明を読んでいた。
「うーん……使い方はわかんないけど、四角い箱は水晶の鍵だったみたい!」
「水晶の鍵……って……あれか!」
「あぁ!紬が探していたやつよね?」
3人が手に入れた四角い箱というのは、紬に探してきてと頼まれていた『水晶の鍵』だった。
水晶の鍵というのは、このイベントにおいてSSRをつけてもいいレベルの激レアアイテムであり、超重要アイテムである。
この鍵さえあれば、イベント限定のダンジョン、水晶を稼ぎ放題、限定アイテムを取り放題、といいことしかない神スポットに入ることができる。イベントの勝ち確スポットなのである。
「もう一つはなんだったの?」
「なんも説明書いてないんだよね……名前も『古びた歯車』だし」
「ハズレアイテムなんじゃねえの?まあ、帰って紬に報告しようぜ!」
「そうね」
3人はダンジョン攻略後に現れる、入り口への魔法陣に乗りダンジョンを後にした。
この時、紬とこの3人の運命の歯車は大きな音を立てて、加速した。




