0018 ダンジョンとクラスメイト
「本当に行くの?」
「当たり前だろ?このダンジョン、難しいことで有名なんだよ。腕試しにはちょうどいいだろ?」
「はぁ……私はどうなっても知らないわよ……」
そう言いながら、日高茜はため息をつく。
紬のクラスメイトである茜、陽毬、迅はあれからたまに一緒にゲームをするようになった。茜はゲームをやっていなかったのだが、紬とできなかった腹いせにと陽毬に始めさせられた結果、見事にハマっていた。
「陽毬もほらぼーっとしないで、戦ってよっ!」
話しているところに近づいてきたモンスターを切り刻みながら、端っこでぼーっと突っ立っている陽毬に話しかける。
茜はAGIを生かして戦う、シーフというジョブで短刀を使って戦っている。
自分の武器である陸上部で鍛え上げられた足をうまく使い、短い期間にして上位プレイヤーの仲間入りを果たしていた。
「ごめん!手伝うよ!」
陽毬はそう言いながら瞬時にモンスターの背後を取り、特にスキルこともなく攻撃を加え、一撃でモンスターのHPを削り取る。
「さっすが!」
「えへへ……それほどでもー」
陽毬は細々したことが苦手なのと、使ったこともない武器を扱い切れる自信がなく、ジョブは武闘家を選んでいた。
中学まで習っていた空手を体が覚えていたのか、スキルを使わずとも空手の技でモンスターを倒すことができた。その影響か、レベルはどんどん上がっていき、陽毬も上位プレイヤーの中でもかなり上位の位置にいるプレイヤーにまで上り詰めていた。
「お前ら…!まだモンスターは残ってんだぞ……!」
「あ、ごめん」
「おらぁ!!」
2人が倒し損ねたモンスターを剣で綺麗に斬り、確実に急所へ攻撃を加える。迅は周りにモンスターがいなくなったことを確認した後、その場に座り込んだ。
「はぁ……俺が言い出したことだけど、これ大丈夫か……?」
迅は特に何も考えずにファンタジーといえばこれだろ、というノリで剣士である。特に何かを習っていたわけでもなく、部活もやっていないというのに、運動神経の良さと持ち前の器用さでプレイ開始から2日にして、剣の使い方をマスターし、1週間も経てば上位の仲間入りである。
そんな3人はその後サクッとダンジョンを攻略し、次のダンジョンへと向かった。
◇ ◇ ◇
「さてと……侵入者はどこまできてるかな……っと」
紬がウィンドウを開き、侵入者の様子を確認すると、そこにはスライムを一瞬で倒していく3人のプレイヤーが映っていた。
「えっ?迅だよね?これ……」
入ってきたプレイヤーたちが自分のクラスメイトであることに気づかないわけがなかった。そもそも3人は容姿を一切いじっていない。いじれることをみんな忘れていたためである。
「どうしよう……絶対バレるよね……」
陽毬には紬の姿がバレている以上、紬が姿を見せればすぐにバレるのは確定だ。とはいえ、紬がいないとゴーレムが進化したとはいえ、負ける可能性がある。それだけは絶対に避けたかった。
「仕方ない……正直に全て話しますか」
「あの人たち、マスターの知り合い?じゃあ、僕は座ってるよ」
「うん、リラックスしてていいよ」
「はーい」
シルトがその場に剣と盾を置いて、足を伸ばして座る。
座ったのを見て、グレイトウルフとレッドスライムもシルトのそばに行き、3人で固まってお昼寝を始めた。
「ふぅ……どっから説明するべきかねぇ……」
紬がどうやって今こうなっているのか、どこまで説明するべきなのか、必死に考えた。しかし、いくら考えても考えがまとまらない。
仕方ない、と気持ちを切り替えて3人がくるのを待つ。
3人が紬のところにやってきたのは、そのすぐ後だった。
「ボス部屋到着……って……もしかしてお前、紬か!?なんだよ、お前もこのダンジョンに潜ってたのか!」
「ちょっと待って。プレイヤータグが出てないわ。もしかした擬態したモンスターかもしれない」
茜は紬のことを警戒して、短剣を構えた。
迅も剣を鞘から引き抜き、剣を手でしっかりと握る。
「いや、2人とも落ち着いて。あなた、紬くん……でしょ?」
臨戦体制に入った2人に対して、陽毬は戦う気などなかった。
なぜなら、目の前にいるのが紬本人だとわかっていたからである。
「紬くんのことだから、普通のプレイはしてないと思ったんだけど……。まさか、運営側だとは思わなかったなぁ」
「ちょっと待ってくれ?どういうことなのか、全くわからないぞ」
「陽毬、きちんと説明して?私たちはわからないわ」
「えーとね、このダンジョンのことについて昨日調べたんだ。そしたら、このダンジョンの攻略スレに、面白いことが書かれていたんだ」
「このダンジョンのマスターは人型のモンスター、だってね」
陽毬はこのダンジョンのマスターの正体について考察しているプレイヤーたちの意見を見て、とあることに気づいていた。
それは、このダンジョンのマスターは、「NPCにはできないプレイヤー独自の動きをしてくる」ということである。
今までの紬の動きの中には、明らかにプレイヤーでしかできない動きがあった。ダンジョンに出てくる時もあれば、いない時もある。さらには、複数の要素が含まれているダンジョンであり、どんどん進化していっている。
明らかに異質なダンジョンであり、異質なマスターであったのだ。
「さすがだなぁ……そうだよ、僕はこのダンジョンのマスターだ。このダンジョンは僕のダンジョンさ」
「……!まじかよ……!」
紬は何も包み隠さずに話すことにした。
今更隠したところで、気づかれるのは時間の問題である。というより、学校に行くたび詰められるのはきついからである。
「紬くん、どうしてこうなったのか教えてくれる?」
「そうだね、全部話すよ」
それから紬は今までのダンジョンの運営だったり、どうやってこのゲームをプレイしてきたのか、全て話した。
「すごい……わね。バグでそんなことになるなんて……」
「大変だったな、紬」
迅と茜は紬の肩に手を置いて、うんうんと頷く。
紬としては別に悲しいわけでも大変だったわけでもないので、複雑な気持ちでいた。
「紬、俺はお前の味方だ。なんか力になりてえけど……できること特にないんだよな……」
「私たちもダンジョン側になれたらいいのだけどね……」
「そういえば、できないのかな?やったことないや」
紬はそういえば、とウィンドウを開き運営へ聞いてみることにした。
質問箱に質問を打ち込んで質問を入れる。5分ほどすると運営からメッセージが送られてきた。
『ご質問ありがとうございます。残念ながらダンジョン運営にプレイヤーは関わることができません。もし、それでも協力したいということでしたら、情報を集める諜報員という形で協力いただくなどすると良いと思います』
「諜報員かぁ……別にそんなに必要ないしな……」
「いらなくてもいいからさ!私たち協力したいの!」
「陽毬、そんなに強制するものじゃないわ。私たちが邪魔になる可能性もあるんだし」
「うっ……でも協力したいんだもん……」
協力したいと言われても、今特に困っているわけでもないし……と考えていると、再び運営からメッセージが届いた。
「なんだろう?」
「私たちのところにもきたよ?なんかあったのかな?」
「開いてみようぜ!」
迅がメッセージを一足先に開く。
開くとすぐに目を大きく見開いて、紬たちに早くメッセージを開けるように言った。
「一体どうしたのさ……」
そう言いながら紬はメッセージを開く。
『【運営からのお知らせ】
初めてのイベント、「水晶の奇跡」の開催をお知らせします。
イベント中、特殊ルール等が起こります。きちんとこのメッセージに記載されているイベントの詳細をご覧ください。』
「えっ?イベント?」
紬たちの運命の歯車は、また一つ新たに動き始めていた。




