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0016 ダンジョンとゴーレム

紬が絶賛するほどのゴーレムの名前。

それは、


「シルト」


である。

シルトというのは、ドイツ語で盾の意味をもつ単語で、言語学で最近ドイツ語を勉強していたから、という理由で琴音につけられたものだった。

しかし、意外にもゴーレムの雰囲気にあった名前だったため、紬も絶賛していたという訳である。


「シルト、やっぱりいい名前だなぁ……」


琴音との電話を切った後も、紬はゴーレムの名前が墨で達筆な字で書かれた紙を見て、一人でニコニコ笑っていた。

この名前をつけたらゴーレムはどんな反応をするのかな、喜んでくれるかな、最高だって言ってくれるかな、とゴーレムのことを考えながら。


「よし、早速伝えにいくか!」


紬は椅子から立ち上がり、ベッドの上に置かれていたハードを装着した。


「ゴーレムー!いるー?」


紬はゲームの中に入るなり、勢いよく管理部屋から飛び出し、ゴーレムたちのいる大部屋へと向かっていく。

勢いよく大部屋に繋がる扉を開けると、そこにはゴーレムとグレイトウルフが10人を超えるプレイヤーに攻撃されている光景が広がっていた。


「嘘っ……どうしよう、これ……」


紬が姿を見せれば、魔法の使えるマスターが出てきたと、自分に攻撃の矛先が移るだろう。もしそうなったら、自分はやられる。それをわかっていた紬は何もできずに扉を閉め、その場で立ち尽くしていた。


どうするべき?今僕は何をするべきなんだ……。


紬は扉の先で今にもゴーレムとグレイトウルフがやられそうということを意識すればするほど、焦ってどうすればいいのかわからなくなっていた。


そんな時だった。


「んっ!」


おそらくゴーレムに管理部屋の中に入れられたのであろう、レッドスライムが紬の目の前に現れた。紬が身につけられるくらいの所々破れたコートを手に持っている。


紬は、何をするべきなのかようやく理解した。

スライムの持っているコートを身に纏い、フードを被り顔を隠した。


「出陣だ」


紬はレッドスライムと共にさっきより勢いよく扉を開け放った。



◻︎ ◻︎ ◻︎


「お前ら心の準備はいいか?」

「もちろんだ。今日のためにいろんな準備をこなしてきたんだからな」


紬がログインする10分前。

ダンジョンへと足を踏み入れたのは、計12人のプレイヤー達だった。

彼らは紬のダンジョンの最初の犠牲者であり、火球の犠牲者でもあるプレイヤーの2人によって集められた、このダンジョンの犠牲者達である。


とある一つのスレ、「打倒、最強スライムダンジョンー集え、犠牲者達よ」というダサい名前のスレで集められた彼らは、紬のダンジョンを長い時間をかけて対策していた。そして今日、とうとうダンジョンへとリベンジするのである。


「よーし、いくぞ!」

「隊長!一応装備の確認をしたほうがいいかと!」

「おう、そうだな。魔法防御の防具、ポーション、身代わり人形は2つずつあるか!」


隊員である11人のプレイヤーはそれぞれ頭を縦に振った。


「よーし、それでは進むぞ!」

「おー!」


彼らは心にリベンジの炎を灯して、ダンジョンへと入っていった。


ダンジョンに入ると、スムーズに進んでいき、トラップに引っ掛かることもなく、ゴーレムとグレイトウルフが待つ、大部屋へと辿り着いた。

そして、ゴーレムが気づく前にと奇襲攻撃を開始した。


「水球」


ゴーレムの弱点である水属性の攻撃で先制攻撃を仕掛ける。

しかし彼らの想像とは違い、ゴーレムは軽々と攻撃を避けた。それもそのはず、ゴーレムは彼らがダンジョンに入ってきた時点で戦闘の準備を始めていたのである。


「水撃」


剣士や斧使いが水属性を纏わせて攻撃する、水撃を発動させながらゴーレムめがけて走っていく。ゴーレムは腕で攻撃して、数人に大きなダメージを与えながら自分の身を守った。しかし、ゴーレムも全ての攻撃を避け切ることはできなかった。

水撃を喰らったゴーレムは大きなダメージを負った。


グレイトウルフもゴーレムが攻撃されている中、怒涛の攻撃を受けていた。

足の速いグレイトウルフを対策するように、範囲攻撃を持っているプレイヤーが範囲攻撃を連発し、グレイトウルフの逃げ先を制限していた。


あと5分もすれば2体とも討伐できる。

そんな時だった。


バァァァーン!!


「何事だ……?」


勢いよく奥の扉が開き、彼らの前に一人のボロボロのコートを身に纏った人型の何かが現れた。


「マスターが来た!全員、魔法対策をしろ!」


隊長のプレイヤーが声を出す。

しかし、もう遅かった。


「「火球」」


ボロボロのコートを身に纏った人型、紬とレッドスライムが同時に火球を発動した。

みるみるうちに火球は大きく、そして形を変えていく。1秒も経たずに、火球は周りに炎の刃を纏った大きな火の玉となった。


プレイヤー達が防具で守ろうとしているところを目掛けて、その火球は飛んでいく。


きっと彼らが準備した魔法対策の防具の性能が悪かった訳ではないだろう。

しかし、そう思わせるように放たれた火球は、直撃したプレイヤーを一撃で葬った。


「総員、退避ー!!」


隊長の掛け声で残ったプレイヤー、5人が背中を向けて逃げていく。

当たり前のように、背中を向けた相手を倒さないはずもなく、ゴーレムとグレイトウルフによって残ったプレイヤーも光となって消えていった。


「どうなってんだよ……このダンジョン……」


◻︎ ◻︎ ◻︎


「やった、倒せた!」

「危なかったぁ、マスターくるの遅いよ?」

「ご、ごめん……」


プレイヤー達をなんとか倒し切った紬達は、喜びに浸っていた。


「そうだ、ゴーレム。今日からあなたはシルトです!」

「それ、僕の名前?」

「うん。どう?気に入らない?」

「いや、ありがとう。とっても嬉しいよ、ドイツ語で盾、でしょ?」

「ふぇっ?」


なんでゴーレムがそんなことを知っているの?と紬は驚いた。

しかし、名前をつけてもらったことで喜んでいるゴーレム、シルトを見てそんなことは吹き飛んでしまった。


「何これ、力がみなぎってくる……」

「シルト!?」


喜びも束の間、シルトの体は眩しい光に包まれていった。

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