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0015 ダンジョンと姉さん

「そういえば、ゴーレム喋れるようになったから名前つけたほうがいいよね」

「うん。つけてくれると嬉しいなぁ」


ゴーレムはそう言いながら、肩に乗ってきたレッドスライムを撫でる。

紬は名前を考えるために一度いなくなるね、と言ってからログアウトした。

ゴーレムはログアウトしていく紬を見送ってから、ダンジョンの警備を始めた。


「今日も頑張るかぁ……」



◻︎ ◻︎ ◻︎


「うーん、ゴーレムの名前かぁ」


ゲームをやめて、紬は人気の名前ランキングを見ていた。名前をつけるという経験が少ないため、ゴーレムにあった名前をつけるというのが難しいのである。


サイトをスクロールしていくと、一つの名前が目に留まった。


「五郎…?」


どうやらつけるセンスがないものは選ぶセンスもないようである。


「五郎!いいんじゃないか…?一郎から四郎がいないけど…」


真剣に五郎がいいと思っている紬は、早速ゲームに入って伝えようとハードを装着した。


「いや、微妙か」


紬はログインの寸前に、自分の壊滅的なセンスに気づいた。

ちなみに今までに紬がつけた名前は、実家の犬に小次郎、金魚に豆三郎、猫に花子、である。このようにセンスが芸術的とも言えるぐらいに壊滅していた。

そもそも、なぜ毎回2や、3といったようなものに関係するものを入れるのかが、意味不明である。


「仕方ない。あの人に聞くことにするか……いや、でもな……うーん……」


紬はしばらく迷ったが、結局電話することにした。


「もしもし?いまいい?」

「いいけど……突然どうしたの?しばらく音信不通だったし。もしかして…………お姉ちゃんが恋しくなっちゃったとか!?」

「大丈夫。それはないから」

「なぁーんだ……」


紬の電話の相手は紬の姉である、縁結琴音えんむすびことねだった。

彼女は、紬が一人暮らしを始めたタイミングと一緒に東京の大学へと進学した。最後に紬が会ったのは1年前で、特に連絡も取っていなかった。というより、返信するとめんどくさいのでスルーしていた、のだが。


今は大学で言語学を研究しているらしく、そんな彼女なら名前をつけるセンスもあるだろう、という算段であった。


しかし、紬は一つ大事なことを失念していた。

それは、彼女もセンスが比較的終わっているということである。


紬が花子と名付けた猫のことを、彼女は「アンビシャス」と呼んで可愛がっていた。アンビシャスというのは、当時、彼女が気に入っていたクラーク博士の言葉である。

ともかく、言語学をやっている彼女でさえ、センスは壊滅しているのである。


「実は、今ゲームをやってるんだけど、仲間のモンスターに名前をつけてあげたくて。でも、なんかいい名前思いつかなくて……姉さん、言語学学んでるんでしょ?考えてくれない?」

「ふっふっふっ……紬がお姉ちゃんに頼ってくるなんて、なかなかないからね。お姉ちゃん、頑張っちゃうよ!よぉーし!」


はぁ、と紬はため息をつく。

紬が姉である琴音のことを苦手なのは、この異常なほどの琴音のブラコン具合にあった。一緒に住んでいた頃は、毎日のように部屋に入ってきてベッドでゴロゴロしては、勉強の邪魔をして……と邪魔な存在であった。


そんなことを思い返している間、琴音は「よっしゃぁぁぁぁ!!」と大きな声を上げながら、バタバタと大きな音を立てながらどこかへと走り去っていった。


しばらくすると、琴音は再びバタバタと大きな音を立てながら部屋へと戻ってきた。そして何か大きな紙を広げた。


「紬!そのモンスターちゃんのこと教えて!名前の参考にするから」

「うん、分かった。えっとね…………」


それから紬はゴーレムのことを全て琴音に話した。

紬が言ったことを、琴音は先ほど広げた大きな紙の端に小さくメモしていく。紬が説明を終えると、琴音は、「よし!」と言うなりどこかへ再び走っていった。


「相変わらずだなぁ、姉さんは……」


琴音は昔から思い立つとすぐに行動する癖があった。

それはいいことなのだが、それに使う道具が至る所に放り投げられているのである。それを探すために家の中を走り回ると言うのは、琴音にとっては日常であった。


紬もそれによく巻き込まれていたわけで、今走り去っていった琴音が何をしているのかは簡単に想像できていた。


「ごめん!お待たせ!これでどう?」


琴音がカメラをオンにして見せた大きな紙には、墨で綺麗に琴音が考えた名前が書かれていた。


「いい……すっごくいい……」

「でしょ?よかったぁ……いやぁ、久しぶりに書道なんてやったからさ……自信なかったんだけどさ……」


「別に墨で書く必要はなかったんだけど」と心の中でツッコミを入れつつ、紬は再び琴音が考えた名前を見る。


「いいわぁ…………」


紬は近所のおばさんのような喋り方になっていた。

なぜなら、意外にも琴音の考えた名前は、センスのある名前であったからである。


「ええなぁ…………」


紬の中から関西弁の誰かも出てきていた。

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― 新着の感想 ―
拝読いたしました。 面白かったです。レベル高いと思います。 軽快なテンポと姉妹の掛け合いがとにかく絶妙で、読後にふっと温かい余韻が残りました。 何気ない“名前をつける”という行為を通して、離れて…
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