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0012 一人の女の子

今回からまた話の展開が変わっていきます。お楽しみに!

「紬ー帰ろうぜー」

「うん、今日はどこ行くー?」


「はぁ……今日も話しかけられなかったよ……」


荷物をまとめて友達と帰っていく紬を見て、大月陽毬おおつきひまりはため息をつく。


「また話しかけられなかったの?もう諦めればいいのに……」

「そうもいかないって言ってるでしょ!茜にはわかんないよ!」


またため息をついた彼女の姿に、親友である日高茜ひだかあかねは呆れていた。

それはこの光景がかれこれ1週間続いているからである。


「明日こそ、話しかけられる!……気がするんだけどなぁ……」

「わかった、明日無理やり話しかけさせるから。話してね?」

「無理だよぉ……」


陽毬は明るい性格で、クラスの中でも男女問わずに人気がある。

しかし、そんな陽毬は紬のことになると途端に自信を無くしていた。


別に陽毬は紬に恋をしているというわけでもなかった。

ではなぜ、彼女が紬に話しかけようとしているのか。それは、紬と「dungeon Online」を一緒にやりたいからである。


陽毬は基本的にゲームをやらない。しかし、勉強の息抜きにと始めた結果、見事にハマってしまったのだ。

普通に「一緒にゲームやろ?」と誘えばいい。しかし、そんな簡単なことが陽毬にはできなかった。それがなぜかは彼女自身にもわからないのだが。


「できる気がしないよぉぉぉぉ!!!」


2人しかいないクラスの中で一人の少女の声が響き渡っていた。


◻︎ ◻︎ ◻︎


「紬、おはよー」

「おはよー……って、迅また夜更かししたでしょ」

「ああ。ちょっとやめられなくてな」


紬に話しかけた男子、門川迅かどかわじんも「dungeon Online」の沼にはまった一人である。紬は知らなかったが、それなりにゲームの中では有名なプレイヤーだった。


「紬もやろうぜ、お前とやりたいんだよ」

「うーん、今他のゲームやってるしな……」


紬はそう言って迅から目を逸らす。

実は紬は親友である迅にも、バグでダンジョンマスターになったことどころか、ゲームをプレイしていることすら伝えていなかった。


「つ…紬くん!」


紬は声のかけられた方に振り向いた。

そこに立っていたのは、クラスメイトの大月陽毬だった。


「どうしたの?」

「その……私と一緒にdungeon Onlineをやってください!」

「えっ……?何で……」

「なあ、紬はダンオンやってないぜ?」

「えっ?ツムグってプレイヤー、紬くんだよね?」


はぁ?というような視線が迅から襲いかかる。


(マジか……本当にあれやる人いたんだ……)


紬は驚きと共に感心していた。それは、ツムグというプレイヤーがいることを唯一知る方法である、プレイヤー名簿を確認した人が目の前にいたからであった。


「dungeon Online」には約100万人というプレイヤーがいる。

そんな莫大な数のプレイヤーを運営が確認できるように作り出されたのが、プレイヤー名簿である。100万人のプレイヤーの名前、姿、国籍が書かれているその名簿は、プレイヤーにも公開されている。しかし、プレイヤーには検索機能や絞り込み機能といった機能を使うことができなかった。要するに、プレイヤーが使うために作られていない欠陥機能である。

そんな中、陽毬はプレイヤー名簿を見てツムグというプレイヤーを見つけ出したのであった。


「なぁ、紬。お前、ダンオンはやってないんだよな?」

「いやいや、やってるよね、紬くん」


2人は自分が正しいというように、口喧嘩を始める。

それを見かねた紬は散々迷った挙句、白状することにした。

もちろん、ダンジョンマスターということは秘密だが。


「うん、僕はdungeon Onlineやってるよ。今まで黙っててごめんね?迅」

「はぁ、一緒にプレイすることで許してやるよ」

「それなんだけど…ごめん!一緒にできないんだ、ちょっと色々あってさ」

「「えっ?」」


2人はぽかんとした顔で紬の顔を見る。

そんな顔になるのも無理はない。「dungeon Online」ことダンオンは、基本的にマルチプレイが有利なゲームだ。マルチプレイなら、一人では倒せないような強敵やダンジョンを攻略することができる。経験値も一人の時と変わらない経験値が入るため、マルチプレイによるデメリットはないに等しかった。

しかしそれは、《《普通の》》プレイヤーに限った話である。


「キーン コーン カーン コーン」


紬にとっては最高なタイミングでチャイムが鳴った。

チャイムのおかげで話は終わり、それからは何もないまま時間は進んでいった。


放課後になると、逃げるように紬は荷物をまとめて帰った。

紬は自分がボロを出すことを恐れていた。


「陽毬、帰っちゃったよ?」

「次は絶対捕まえるんだからぁぁぁぁぁ!!」


一人の少女の声はクラスにとどまらず、学校中に響いていた。

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