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ファンタジー、コメディ、その他+α(短編)

『言葉のナイフ』には『ざまぁのマシンガン』で反撃よ!

作者: いのりん
掲載日:2025/08/20

架空世界の1960年代くらいをイメージ

なので、倫理・道徳観は現在とは少々異なります

 夫を失ってから早3年。

 終戦からはもう15年。


 彼がいなくなってしまったことはとても悲しい。

 けれど、夜中に警報で飛び起きることもなく、飢餓に悩まされることもない平和のありがたみを噛みしめているわ。


 戦時中はいつも思っていたの。

「戦後の人々は、こんなにつらい思いをした後の人たちの世界は、きっとお互いをいたわり合うようになるだろう」って。


 だけど……





「ニーナが言うの。アンタのお父さんは戦争に行っていない卑怯者だって」

「まあ、ひどいわね」


 一人娘のマイヤが泣いている。クラスメイトにひどいことを言われたようだ。

 確かにすこし年上だった私の夫は身体が弱かったこともあり、多くの同世代が動員される中、戦争には行っていなかった。

 でも、それは生まれつきの体質によるものだし、本人は出征を希望していた。優しいのに勇敢で、それに頭も良かったから、戦時中も戦後も頭脳労働で人の役に立ってきた人だった。


 娘や夫がいわれない侮辱をされては、私も黙ってはいられない。

 大げさかもしれないが、言葉のナイフと言うのは心に大きな傷を残すものだ。


 それに、そのままにしておくのはニーナと言うその娘にとっても良くないことだと思う。

 なので、まず学校に相談してみることにした。




「う、うーん……子供どうしでのトラブルですし、当校としては本人達で自然と解決するのを待ちたいと考えています」

「こういう時に大人が出ずして、いつ出番があるというのですか!」


 クラス担任の言葉に耳を疑ったわ。

 問題が起きても全て放置では、教師の存在意義がないじゃないの。


「で、では……場を設けるので当事者同士のご家庭で一度話し合って頂く、というのでは……その、ダメでしょうか」



 歯切れ悪く、しどろもどろにそんなことを言う教師をみて理解した。

 これは、この若い教師個人は罪悪感があるものの、上から止められている感じね。たしかニーナと言う娘の父親は、工場経営をしていて、学校にも多額の寄付金を払っていて……なるほど。それで、お得意様の娘のワガママを止められないと。


 シュンとした顔をするマイヤ。

 大人の事情でこの子にこんな表情をさせるなんて、度し難い。

 早く解決してあげたいと思う。


「ええ、かまいませんわ。是非、そうしてくださいな」


 ならもう、直接話をするしかないわね。

 親の方は話が分かる方だといいのだけれど。






「事実だろう。俺のオヤジと違って、アンタの夫が戦争に行ってなかったのは」

「そうよ、戦地に行っていない人が何を言っても説得力がないわよ」


 ニーナという娘の両親は、レーニンとスタリナと言ったのだけど、どちらも「話の分からない方」だったわ……いや、いけない。せっかく平和になった現代だもの。ぎりぎりまで「対話」して円満な解決を目指す努力をしなくっちゃ。

 気は進まないけれど、内心ではらわたが煮え滾っているけれど、とりあえず共通の話題をふって——


「えっと、レーニンさんはどの部隊に所属していたのですか」

「おいおい、開戦当時、俺はまだ16だぞ。徴兵がかかるのは20からなのに参加できるはずがないだろう」

「……そうですか。私は同じ年ですが17から2年間、戦地にいましたが」

「なんだと!?」


 何よコイツ、男性は志願すれば16から直接戦地に行けるのよ。私が戦地に赴いたのは看護師として1年間研修を受けてからだけど。


 勿論、志願は強制でははない。

 でも私の夫を侮辱したのだから、当然コイツも参戦していたのかと思っていたら……本当に口先だけじゃないの。


「どうせ花婿探しにでも言っていたんでしょう、結果は芳しくなかったようだけれど。まあ、そうよね、女が戦いに行きたいなんてどこか異常だもの」


 スタリナのその言葉を聞いて、カッと頭に血が上るのが分かった。


「……それは、私以外の従軍女性に対する侮辱でもあるわ」

「な、なによ。従軍男性と従軍女性の結婚が少ないのは事実でしょう」


 コイツも、ケンカ売ってるわね。どうしてくれようかしら。


「お母さん、もういいよ。もう、いい」


 隣に座ったマイヤがそう言って袖を引いて、はっと我に返った。

 ……そうね、きっとこの人たちにこれ以上何かを言っても時間の無駄ね。

 むしろ、不毛なやり取りを聞き続けるマイヤが傷つくだけだわ。



 それで、「もう結構」と会話を切りあげて帰路に就く。

 帰り際、「論破してやった」なんて見当違いなことをクズ夫妻とその子供が宣っていた。

 マイヤは涙ぐんでいる。


 いやな思いをさせてしまったわね、マイヤ。

 ごめんなさい。でも、これから母さんは絶対に貴女の事を守ってあげるわ。

 だからあと少しだけ我慢して頂戴、せっかく平和になったこのご時世に言葉のナイフを振り回して悦に入るような奴らは、ざまぁのマシンガンで蹴散らしてやるからね。




 ★★★


 ~ニーナの父、レーニン視点~


「取引が中止とはどういうことだね!?」

「上役からの指示でして、私の方からは何とも」


 そう言ってガチャンと電話が切られた。

 畜生、どうなっているんだ。大口の契約破棄が今月に入って3件目だぞ。

 いらいらしていると、今度はニーナが泣きついてくる。


「お父ざん、学校ですっごい怒られだ」

「なんだと!?」


 くそっ、何のために寄付金を払ってやったと思っているんだ。

 教育局から圧力でもかかったのか?

 いや、それは今は後回しだ。



 なにせ今月に入ってから、やることなすこと全てが上手くいかない。



 仕入れ先からは売り渋られ、街を歩いていると毎日のように職務質問を受ける。

 先日などは税務局からはとてつもなく厳しい監査が入り、バカ高い追徴課税をかけられた。



 オヤジに泣きつくか?いや、それは怖い…… くそ、銀行からまた借り入れをして、従業員の給料を切り詰めなくては——


「貴方、大変よ!」

「どうした、今忙しいんだぞ!」

「従業員がストライキを起こして、銀行からは融資が停止されたって。あとお義父様もひどくお怒りになられているわ!」



 ★★★


 ~マイヤ視点~


 あの日、お母さんは帰ってすぐに温かいご飯を用意してくれて、その後は一緒のベッドで寝てくれた。

 でも、やっぱりショックですぐに目が覚めちゃったの。そしたらお母さん、ベッドにはいなくて……リビングを覗いてみたらいろんなところに電話をかけたり、手紙を書いたりしていた。


 次の日「辛かったらしばらく学校を休んでいいわよ」って言われて、1週間くらい休んだ。

 けど、それから勉強はしないととなって頑張って登校してみたら……クラスの様子が大きく変わっていたの。


 まず、先生はニーナの事をきちんと叱るようになっていた。もう、特別扱いじゃなくなったんだ。それで、クラスの皆も特別扱いしなくなった。お母さんが何かしてくれたのかな?

 それからのニーナは、いじめられたりはしないけど、遠巻きに距離を置かれる子になっていた。そしてある日、なぜか彼女は突然いなくなったの。

 先生は「どうやら、家庭の事情で引っ越すことになったようです」と言っていたけど、急すぎて皆ポカンとしていた。





 それから少しして、家に軍服を着た、アシモフと言う人がやって来た。

 胸元に沢山、星が着いているクマみたいに大きい人だった。


 強面だけど、お土産に、大きな花束とクマのぬいぐるみを持ってきてくれたから優しい人だと思う。

 でも、それよりも目立つのは、頭にある大きな傷跡。


「昔、この傷を受けた時にね、君のお母さんに助けてもらったんだ」


 お母さんに「話してもいいかい」と前置きをしてから、アシモフさんは教えてくれた。

 お母さんは昔、衛生兵として激戦地にいたらしい。


「銃弾の飛び交う中ね、君の母さんは俺を背負って運んでくれたんだ。武器に、外套に、軍靴……80キロ以上あったと思うよ。しかもそれを、多い時は一日に5、6回は繰り返していたんじゃないかな」

「今はもう、自分でも信じられませんわ」


 そう言って、ころころ笑うお母さん。

 アシモフさんによるとお母さんが戦時中に救い出した人数は、400人を超えているらしい。

 なにそれ、初耳なんだけど……


 それで、「その人たちは君のお母さんにとても感謝しているし、お母さんにはそういう元衛生兵の女友達も沢山いるから、君のお母さんが困ったときは、本当に多くの人が力になってくれるんだよ」とアシモフさんは言った。



 あれ、ならもしかして、ニーナの件ではアシモフさんも……






 ~アシモフ視点~



 戦線に出ていた女性にも、美しい人が沢山いたよ。

 しかし、女としてではなく、仲間として見ていた。

 

 前線での戦死者についての統計を見ると、歩兵大隊の次に医療班が多い。負傷者の救出中に、無防備な背中を狙い打たれるからだ。あそこは、そういう場所だったんだ。

 だから『花婿探しでもしていたんでしょ』なんて言うやつは、現実を知らない馬鹿だよ、とんでもない大馬鹿者だ。



 でも戦後10年が過ぎたころ、ふと思った。



『彼女』ならいい女房になったろうに、なんで俺は戦後になっても求婚しなかったんだろうってね。

 それはきっと、悲惨な日々を思い出したくなくて、戦地を知る女性から無意識に目をそらしてきただけなんだな。そんな己の逃げ腰に気づいた時は後悔したものさ。



 前妻は馬鹿な女ではなかったが、戦争に行った女達の活躍については懐疑的だった。


 それが原因で結局うまくいかず、今になって戦地にいた彼女を思い出している。

 はきつぶした軍靴と男物の綿入れを着ている姿しか知らないが……あれ以上にいい女を俺は知らない。


 ちなみに俺の中の「いい女」の定義は、大切なものを守るために戦える奴の事だ。


 そんな彼女から連絡が来たときは驚いた。

 彼女は20年前と同様に「いい女」だった。

 もっとも守る対象は、祖国からマイヤちゃんに代わっていたようだがね。


 

 旦那は何をしているんだと憤ったが、もうこの世にいないらしい。くそ、やるせねぇな……



 それで、依頼された諸々が終わった後に再会を希望したら家に招いてくれた。



 再会を希望した理由?



 一つ確実なのは、俺も彼女も『生きている』ことだ。そして、幸せに生きるためには時として知恵を絞り勇敢に戦わないといけない場面ってのがある。


 ……まあ、そういう事さ。

 友情や恩の他に、そういった諸々も含めて、これからは『彼女の傍で力になりたい』と、俺はそう思ったわけだな。



 だから俺もこれから、知恵と勇気を出さないといけないわけさ。まあそれでも、今更受け入れてもらえるかは分からんがね。

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― 新着の感想 ―
従軍したから立派で、しなかったら卑怯なんて道理は本来無いのですが 向こうの親御さん、特に父親の方は戦争当時から五体満足健康体なのに従軍して無いとか、つまりは卑怯を超えたド屑って自分の娘が言ってる様なも…
架空の世界の話だからこそ、鏡で見るが如く現実の要素が炙り出される。 実体験もしていない奴が、自分の不努力を棚に上げて、他人をこき下ろすとか愚かの極み。 よくよく私も自制の心を思い出さねばと、胸に刺さ…
この8月に読むべきものを読んだ、という気持ちですわ。 戦中も戦後も人の営みは続くものですわね。 >君の母さんは俺を背負って運んでくれたんだ。武器に、外套に、軍靴……80キロ以上あったと思うよ 腰に…
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