番外編・涙の海とアンデッド
その後の話、いわゆるエピローグというものをしよう。
ライトは港町の宿に泊まって、夜を明かした。
人間の体には、休息が必要だからね。
ゆっくりと休んで、朝が来る。
目を覚ましたライトは、ベッドの上で呟いた。
「迷宮アドバイザーの本来の報酬⋯⋯。
金貨500枚、もらってないじゃん⋯⋯」
それはそうさ。
だってまだ、仕事は終わってないからね。
欲しければノクタリオの迷宮へ行って、全ての仕掛けを調査しなければならない。
ライトは溜め息を吐いて、テーブルの上のカンテラを見つめた。
「ホタルさん⋯⋯」
「⋯⋯そんな顔をしないでおくれ。私なら、ほら、大丈夫だから」
カンテラのほうから声がする。
ライトは目を丸くして驚いていた。
「ほ、ホタル、さん⋯⋯!?」
「そうとも。ホタルだ。その様子だと、霊体化している今の私は、見えないのかな」
ホタルは微笑みながら、ライトの寝転がっていたベッドの縁へと腰かける。
「海霊族はね、こうして実体を消して魔力の消費を抑えられるのさ。
回復するまで、魔法はほとんど使えないけど⋯⋯。
君の隣に、私はいるよ」
「⋯⋯本当、ですか?
全然、何も、わからないです⋯⋯」
ライトがベッドから起き上がり、宿の部屋を見回している。
霊体化した海霊族は、魔力の密度が薄くなるため、偵察術でも探し出せない。
届けられるのは声だけだ。
ホタルはライトに、優しく語りかけ続けた。
「いるよ。ほら、泣かないで。まずはご飯を食べに行こう。
人間はちゃんとご飯を食べなきゃダメなんだから」
「ば、ばか! ホタルさんのばか!
ホタルさんも、ちゃんと魔力、食べなきゃダメです!!」
「ふふふ。そうだね。
さあ、お出掛けの準備をしておいで。
今日の案内は君に任せるよ」
ホタルは楽しげに微笑みながら、壁をすり抜けて廊下へと出た。
ライトはすぐに支度を整え、ホタルのカンテラを握り締めて、部屋から飛び出す。
「それじゃあ、行きますよ、ホタルさん!
ボクの手を離さないでくださいね!」
「もちろんだよ、ライト」
二人は朝日の下を歩いて、海沿いの食堂へと向かう。
彼との魔界生活は、まだ暫くは、終わらせる気はない。
少なくとも、彼の魂を冥府へと導く時が来てしまうまではね。
【第一章・終】