補講・忘れないで欲しいこと
その後の話、いわゆるエピローグというものをしよう。
ライトがシャワーを浴びている間に、ホタルは部屋に戻ってきていた。
夕飯は、チーズがたっぷりと乗せられたピザだ。
丸い領地が四分割され、それぞれ違う具が乗っている。
ライトにはよくわからない食材ばかりだが、どれも美味しそうに見えた。
ピザの隣にはホタルの怪火が揺らめいており、アツアツの焼きたて状態がキープしている。
「⋯⋯ホタルさんの分のご飯は?」
「勿論、あるよ。火属性の魔石を一緒に買ってきた。
キミは、私と一緒にご飯を食べるのが好きだからね」
「もう、ホタルさん! ボクだけが好きみたいな言い方、しないでください!
ホタルさんだって好きでしょ?」
「ふふふ、そうだね。確かに、私もキミと同じだ」
ホタルが微笑んで、ライトを見つめる。
その眼差しは、いつもよりちょっと、幸せそうだった。
二人は同じ食卓を囲んで、他愛ない話をしながら、それぞれの料理を平らげていく。
全て食べ終わり、食後のまったりとした雰囲気浸っていると、部屋の扉がノックされた。
ホタルが扉を開けると、パピヨン族のスタッフが丁寧に頭を下げてくる。
フロントにいた女性のパピヨンだ。彼女は穏やかな声で言った。
「癒しの鱗粉サービスに参りました」
⋯⋯そう言えば、そんなものを頼んでいた。
ホテルスタッフは微笑みながらベッドに座って、招くように両手を広げた。
「さあ、お客様。こちらへどうぞ。
しっかりと鱗粉を浴びられるように、膝の上に座ってください」
「あー⋯⋯。ホタルさん、お先にどうぞ」
「そちらのお客様は火属性の魔力をお持ちですので、サービスの対象外となります。
どうぞ、こちらに座ってください」
パピヨンがライトの顔を見つめて、ポンポンと膝の上を叩く。
魔界だとよくあることなのだろうか。
ライトはホタルの顔を見上げた。
「⋯⋯なんだい、ライト?
私の膝に座りたいなら、後でいくらでも乗せてあげるよ」
からかうようにホタルが微笑む。
ライトはまるで子供のように頬を膨らませてしまった。
「もう、またそういうこと言って⋯⋯。
ホタルさんって本当に、人間を構うのが好きですね!」
「⋯⋯ふふ。機嫌を直してくれ、ライト。
キミに家出でもされてしまったら、私は路頭に迷ってしまうよ」
「なんですか、それ。大袈裟ですね。
ボクはずっと、ホタルさんの隣にいるので、安心してくれていいんですよ」
ライトはくすくすと微笑んで、ホタルの手袋を優しく握った。
小さなお守りを握り締めるより、こちらのほうがやはり落ち着く。
「⋯⋯ホタルさんこそ、家出なんかしないでくださいね」
ライトはホタルの顔を見上げて、言った。
ホタルは柔らかに頷いて、ライトの手のひらを優しく、しっかりと、握り返してきてくれた。
【第四章・終】