追記・ときめき
その後の話⋯⋯、いわゆるエピローグというものをいたしましょう⋯⋯。
リンゲルの研究所に残されていた魔獣は全て、ノクタリオによって保護された。
獅子と大鷲は、ノクタリオが管理する迷宮の新しい住民として暮らしていくことになる。
「あ、あの⋯⋯、ノクタリオ様⋯⋯。
わたしに近づかれると、危険です⋯⋯。いつまた凶暴になってしまうか⋯⋯」
サクラがオドオドとした表情で、ノクタリオのほうを見つめた。
ノクタリオは彼女の背に乗り、夜魔らしく優美に微笑んでいる。
「大丈夫ですわよ。貴女の破壊衝動は、魔力枯渇による飢餓症状だってお医者様が仰ってたでしょう?
あんな貧相な施設ならともかく、ワタクシの居城は魔力が濃いから何も問題ありませんわ!」
「で、ですが⋯⋯」
「くどいですわね! ワタクシ、貴女を雇用するに当たって、ホタルから魔晶石も買いましたのよ!
暴走しそうになったら、そこから魔力を補給すれば収まると何度も説明したでしょう!」
「それは⋯⋯、そうですが⋯⋯。
ライト様を傷つけてしまったわたしが、こんな立派なお屋敷でのうのうと門番の仕事をするなど⋯⋯」
サクラは暗い顔で俯いた。
今の彼女は、ノクタリオの元で働く従者の一人だ。
自分ではもう編むことの出来ない髪を、他の従者たちによって整えられ、シワひとつないメイド服も与えてもらった。
ノクタリオの屋敷にいる者たちは、誰もがサクラに優しくて、だからこそ居心地が悪かった。
わたしみたいな人間は──人の道から外れた存在は、幸せになってはいけない気がした。
「⋯⋯罪悪感があるのなら、それでもいいわ。
貴女は悪魔では無いんですもの」
ノクタリオの声が、急に穏やかになって言う。
優しく甘やかすように、サクラの翼が撫でられた。
あの日、朝には森で転んで四本足。
昼にはいつもの二本足。
それからずっと四本足の、わたしが立ち直ることは、あるのだろうか。
サクラは前肢に飾られた魔晶石を見下ろした。
⋯⋯せめて、もう一度、彼に会えたら、傷つけたことを謝りたい。
サクラの胸がまた、罪悪感で締めつけられる。
涙目のまま俯いていると、リンゴン、と来客のベルの音がした。
いけない、お仕事はちゃんとしないと。
サクラは慌てて顔を上げた。門番として来客をチェックする。
「今日はお招きありがとう、ノクタリオ」
「⋯⋯お前って、本当に貴族だったんだ」
「ワタクシを何だと思ってましたのよ、この失礼人間は~!」
サクラの背から、ノクタリオが来客の人間に憤る。
ライトはさらりと受け流して、サクラのほうへ視線を向けた。
「ひさしぶり。お前の怪我も、ちゃんと治ったか?」
爽やかなその微笑みに、サクラは思わず、心臓が大きく跳ねてしまった。
【第三章・終】