補記・妖精を忘れていた
その後の話、いわゆるエピローグというものをしよう。
炎の熱で雪女もろとも冷却装置を破壊したホタルは、ライトのそばへと駆け寄った。
氷結魔術が途絶えたことで、ライトの体は地面の上へと倒れている。
ホタルは彼の真横に膝をつき、健康状態を確かめた。
氷漬けからは解放されたが、体の芯は未だに冷えきったままで、生死の境にあるようだ。
「ライト。迎えに来たよ、ライト⋯⋯」
ホタルは彼が纏っているマントを飛翔術で引き寄せて、腕の無い体で抱き締める。
火属性の魔力を湛えたホタルの穏やかな熱が、衣服越しにライトの肌へと伝わっていく。
「そんなところで彷徨ってないで、帰っておいで⋯⋯」
優しく声を掛けるホタルの頭上で、カンテラの青白い種火が揺れる。
ライトの体が少しずつ温まっていき、やがて彼は目を覚ました。
「ホタル、さん⋯⋯?」
「ああ、ホタルだよ。おはよう、ライト」
ホタルが嬉しそうに微笑む。
氷漬けにされてしまった後のことはわからないけど、きっと、ホタルさんが勝ったんだ。
ライトはそう結論を出し、嬉しそうに笑みを返した。
「体の調子は大丈夫そうかい?
魔術による氷漬けだから、凍傷にはなっていないと思うのだが⋯⋯」
「はい、そうですね。特に痛い場所とかはありません」
「そうか。それは何よりだ」
ホタルは言いながら、立ち上がる。
彼女は宙に浮かせた手袋を、ライトの前へと差し出した。
「そろそろ、お腹が空く頃だろう?
早く帰って、ご飯にしよう」
「そうですね、ホタルさん。今日も二人で、ちゃんとご飯を食べましょうね!」
ライトはホタルの手袋を握って、彼女の隣に並び立つ。
ホタルの口から、穏やかな小唄の旋律が零れる。
温かなマントの裾がひらひらと、弾む足取りで揺れていた。
【第二章・終】