表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

竜聖、人の子に恋をする

作者: 枯花 葉

「喰らえッ!!竜聖ドラゴニアァァ!!」


 フッ


「さすが!竜聖様...」

「息を吹いただけであの愚か者を吹き飛ばすとは...」


 竜聖と呼ばれる竜は、今日も挑もうとしてくる冒険者を迎え撃つ。だが、ほとんどの場合は息を吹くだけで戦闘が終わってしまう。そんな退屈な日々を送っていた。


「お主らも早く帰らんか。でないとあの者のようになるぞ」


「ははっ!」

「みんな帰るぞー!」


 はぁ、今日もこんな感じであるか。


 最近我の噂を嗅ぎ付けて、訪れるものが日に日に増えていっておるな。友人達に会う時間がないであるぞ。


 ...ん?また、人間の気配がするな。


 むむ、おなごであるか。少々心苦しいが、この森は夜だと危険だしな。早く帰ってもらおう。


「人の子よ、早く帰らないと痛い目に合うぞ」


「わ!びっくりした!ドラゴンさん?」


「ドラゴンではない、竜である」


「こんにちは!竜さん!」


 この娘、なぜ帰らないのだ。今まで我の脅しを聞いた者は逃げ出すか、抗うかだったが、話しかけられるなんて初めてだ。実に面白い。


「お名前はあるんですか?」


「我はミュートス・ドラゴニアである」


「ドラゴニアさん!私はトウカっていうの!」


 我のことを知らないのか?少なくとも竜聖の名前は知っている者が多数いると思っていたが。


「よろしくね!」


「我は馴れ合う気はないぞ」


「じゃあ、その気になるまで話しかけるから!」


「ふん、好きにしろ。だが、今日はもう遅い。早く帰りたまえ」


「...わかった。じゃあ帰るね。ばいばい...」


 少し大人げないことをしたかの。だが、ようやく帰ってくれたか。トウカと言っていたか。興味深い少女だ。覚えておこう...


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おはよーー!!」


 ...なぜ、こやつがここにおるのだ。昨日ちゃんと帰したはずだが。


「どうして、朝から貴様がいるのだ」


「どうしてって、ドラゴニアさんに会いたいからだよ!」


「...反応に困るな」


 この娘は他の者と違い、我に力を求めてすり寄ったり、敵意を向けたりしていないからか、嫌な気分はしない。


 ...むしろ、好感さえある。


「お主の...」


「お主じゃなくて、トウカ!」


「ト、トウカの家族は心配せんのか」


「...なんで?」


 竜聖ということは黙っておくか。


「我は仮にも竜であるからな」


「...私の家族はね、みんなして私を邪魔者扱いするの」


「...なぜだ?人間という種族は家族の絆が強いと認識しているが」


「私のお兄ちゃんは、王子様でお父様とお母様が王様とお姫様なの」


「ふむ...」


 この辺の国家であれば、おそらくその者達を我は知っているし、彼らも我を認知しているはずだ。トウカと話している事が知られた暁には、おそらくだがトウカを理由にして我を討伐しに来るはずだ。

 

 トウカのことを心配していなくとも。


「それで、お父様が「女は必要ない」っておっしゃていて、家には居場所がないし、居なくても心配されないから...」


「...聞いてすまなかったな」


「ううん、全然大丈夫」


 同様を見せない、か。きっと、多く者にこの説明をしてきたのであろう。それが普通になるまで。


「わかった。トウカが居たいならここにいるがいい」


「本当!?やったー!」


「だが間違っても、我と会話していることは他人に言ってはならないぞ。我は人間と会話しないからな」


「へぇー、じゃあ私だけだねっ!」


「...そうだな」


 トウカの見せる無邪気な笑顔に、ドラゴニアの心の中で自身さえわからない不思議な感情が芽生え始める。


 そして、トウカとドラゴニアの絆は日を増すごとに強くなっていった。トウカは友達と、ドラゴニアは友と呼べるまで関係は発展していった。


 ある日は、自分の過去のことを語り合い。


 ある日は、背中にトウカを乗せ空を羽ばたいたり。


 そして、とある日のこと。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ドラゴニアさん、相談があるんだけど」


「なんだ、我に言ってみろ」


「私ね、北の国の王子様から求婚されちゃったの」


 トウカの言葉は意外なものだった。相談するということは結婚を少しでも考えているということだろう。


 北の国というと、クリオーサの所の王子か?確かに、人間基準で見れば顔が良いはずだからな。


「トウカはその者と結婚したいのか?」


 そう言われたトウカはきょとんとした顔をして数秒間黙り込む。そして、質問を返される。


「ドラゴニアさんは、私がその人と結婚してもいいの...?」


 どこか不安そうな表情で聞いてくる彼女に、ドラゴニアも少し考えたあと答える。


「トウカが幸せならそれでいいんじゃないか?」


「そっか...」


 寂しそうな顔をしてうつむいている。そんな姿を見て咄嗟に言葉が出た。


「嫌に決まっておる」


「...え?」


「あ...」


 ドラゴニア自身言うつもりもなかったことを言ってしまい困惑する。なぜ、嫌なのか。それは、今まで一緒に過ごしてきたトウカへの気持ちが変わり始めていたことを意味していた。先ほどの、求婚の話を出された時も胸が苦しくなったことを思い出す。


「...我がいるではないか。結婚なんてしなくとも、我の方が強いし知名度もあるはずだ。なら、我といればいいではないか」


「...っふ、あはは!」


「何を笑っておる...」


「ごめんごめん、ドラゴニアさんがそんなこと言うと思わなくて」


「...だめか?」


「...ううん、嬉しい」


 お互い少し沈黙した後、トウカが話し始める。


「求婚のことは、私のお兄ちゃんがどうにかしてくれるって。お母様とお父様は、結婚させようとしてくるけど...」


「そうか...」


「まぁ、何かあったらドラゴニアさんがなんとかしてくれるよね!」


「ああ、我に任せろ!」


 そう言い、お互いが顔を見合わせた後、二人とも笑い始めた。こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのに。


 そうして、話す日がないほど平穏な日常が続いていた。


 はずだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その日は雨が降っていた。トウカの住む国と、クリオーサで戦争が始まったのだ。当然、そんな状況ではトウカがドラゴニアの元を訪れるのは難しくなってしまう。ドラゴニアは知らずに過ごしていた。


 トウカ、今日は遅いな。来ないのか?

 いや、そんな日は今までなかった。体調も昨日見ていた感じでは問題なさそうに見えたが。


 心配だ。我の旧友と違い、人間は儚く脆い。


 それをわかっているからこそ、極力戦闘を避けて追い払っていたのだ。

 久しぶりに、国まで見に行ってみるか。


 ドラゴニアは翼を羽ばたかせ、トウカの住んでいる国を偵察しにいった。ドラゴニアは、自らの能力で人間の姿に変身することができる。ただ、自分の力が少し弱まってしまうため、使う機会がなかったから外見を見られても竜聖と気づくものはいない。


 ようやく国が見えて来た時、何があったかを聞かずとも町の惨状で、戦争があったことは容易に想像できる。長く生きた竜聖でも見るに耐えないほどの死体と瓦礫の山々だ。


 ならトウカは?


 ドラゴニアはこの国のことなど、どうでもいい。想うはトウカのことばかりであった。

 人間の姿になり、城へ向かい急ぐ。


「おい!待て」


 誰かが呼び止める声がした。だが、そんなものにかまっている暇などない。トウカを助けにいかないと。

 

「待てって言ってんだろうがぁ!」


 そう叫んで追いかけてくる。我をこの国の人間と勘違いしているらしい。


 一瞬立ち止まり、後ろを振り返り飛びかかって来た兵士の攻撃を軽々と避けると、頭を思いっきり殴った。衝撃波とともに殴られた人間は空中に打ち上げられ地面に叩きつけられた。

 城の方を再び向き、全速力で走っていく。


 城の直前で、隊長らしき男が前を塞ぐ。しかし、そんなことは些細なことだ。他の人間となんら変わらない。だが、こいつがもしトウカを、と思うと拳を振り下ろさずにはいられなかった。その男も一撃でその場に倒れ込む。


「お前が急いだところで...この国の王は今頃...」


 掠れた声で話している。その次の言葉が紡がれることはなかった。だが、何を言おうとしたのか想像することは難しいことではない。城はすぐそこだと言うのに入っていくのが怖い。足が竦んでしまう。人間の姿だからだろうか、長き時を生きた中で初めての経験であった。不安でいつもより息があがる。


 もし、そこにトウカの死体でもあったら我はどうなってしまうのであろう。


 ようやく城に到着すると、そこはもぬけの殻と言っていいほど静かで誰もいなかった。


「トウカー!!」


 静寂な城にドラゴニアの声が反響して聞こえてくる。そうすると、微かに声が聞こえてくる。


「ト.....」


 声の出どころを探り、近づいていくと、この国の王子が瓦礫の下敷きになっていた。


「トウカはどうなったのだ!」


 相手は瀕死だと言うのに、ドラゴニアは声を荒げて問いただした。


「トウカは、顔が良いからと、相手の国の王に連れていかれてしまった...」


 ドラゴニアは人間の姿でありながらも、怒りを抑えることができずオーラが溢れでしまう。それは、その近くにいた者ならば竜聖がいるとわかるほどには絶大なオーラだった。


「ドラゴニア様...?来てくださったんですね...お願いです...僕の大切なトウカを...救ってください...」


 もう、王子には目もほとんど見えておらず、いつ息絶えてもおかしくない。そんな状態でも自分の命より、妹の身の安全を心配するそんな姿勢に心をうたれる。本当なら、自分の手で妹を連れ去った人間の首をはねたいと思っているはずなのに、会って初めての竜に託すとは、その心をしっかりと受け止める。


「あぁ...承った」


 城を飛び出し、再び竜の姿に戻ってクリオーサに向かう。どうか、無事でいてくれ。


 飛ぶこと数十分、ようやくクリオーサに到着する。トウカのいた国に対して、こちらはのうのうと国民が笑い、町が動いている。腹立たしい。だが、今はトウカだ。


 竜の姿のまま、王城の上まで行き、空中で人間化すると強い衝撃とともに着地した。もちろん、周りはざわつき始め混乱を巻き起こした。


 王城に入っていくと警備している者達が何かを言おうとして止めに入るが、怒っていたため覇気だけで気絶させることができた。


 ようやく、王が座っている玉座までたどり着いた。


「なんだ貴様?警備の者達はどうした!」


 王は下の位の者と違い、女神の加護がついている。故に、我の覇気は効かない。なら、直々にこいつを殺せるということだ。


「トウカをどこへやった」


「トウカァ?あぁ、あの女か。今頃私の息子とお楽しみ中じゃないか?」


 ニヤつきながら、王はそう言った。ドラゴニアは気がつくと拳を強く握っていて、手から血が出ていた。


「貴様もしかして、あの女の恋人か?それは申し訳ないことをしたな」


 高らかに笑い始める王は兵士を自分の前に集める。


 どうして、同じ人間でもこんなに差があるのだ。

 どうして、こんなクズとトウカは同じ種族なのだ。


 我を殺しにかかる兵士を片付けるのに、数秒もかからなかった。やはり、人間は弱い。


「なっ、なんだ貴様!何者なんだ!」


「...我は竜聖、ミュートス・ドラゴニアだ」


「ドラゴニア様だと!?お、お許しください!息子は奥の扉を開けて左側の部屋にいますから!」


 こいつ、どれだけ我を怒らせれば気が済むのだ。これだから人間を相手にするのは嫌なのだ。死は償いにすらならない。まだ、何か喋っていたが瞬きしたとき王は既に倒れていた。


 こんなやつどうでもいい。トウカを助けないと。


 王に言われたとおり、奥の扉を開け左側の部屋に入る。そこには、服がはだけ、虚ろな目をしたトウカと、服を脱ぎ襲いかかろうとしていた王子がいた。


「あぁ?誰だお前?警備はどうした?」


「全員殺した。お前の父も、そしてお前も殺す」


 王子が何か言おうとしたが喋る前に首を掴み、窒息させる。そう、これでいいのだ。どれだけ、悪名がつこうともトウカを救えれば。


「ドラゴニアさん...?」


「あぁそうだ、この姿を見せるのは初めてだったな。少し恥ずかしいが...」


 我に返ったトウカがドラゴニアの声を改めて聞くと、自然と涙が溢れでて抱きついていた。


「もう大丈夫だ...我がついておる」


「怖かったよぉ...」


 案外、人間の姿も悪くないな。こうやって、トウカと同じ目線に立って慰めることができる。我の胸のなかで泣くトウカの頭を撫でていると、自分の気持ちに気がつく。友というだけではここまで怒りが爆発することはなかったかもしれない。


 そうか、我はトウカのことを好いているのか。


「トウカ、この先ずっと、我と一緒にいろ。そして、二度と我を不安にさせるな」


 驚いたトウカがドラゴニアの顔を見ると、泣いて崩れた顔を気にして顔を反らし、服の裾で顔を拭った。


「うんっ!」


 そして、いつもの笑顔でトウカは我に微笑みかける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ