自絶滅事件
少し怖い話なので心臓が悪い方にはオススメできません。あらかじめご了承下さい。
僕は平凡な生活を送っている極普通の高校生、鈴木アキラ。自慢できることが彼女がいる自称リア充ってくらいだ。家族は両親と兄…と、やはり家族も普通であった。
3時間目の休み時間、ある日の学校で…。
「おい、さっきのテストどうだった?」
幼なじみのモトキがコーラを飲みながら僕に話してきた。テストの答案用紙を持っているので自慢するつもりだろう。
「そこそこだったよ。ノー勉だし。」
モトキは僕の机にテストの答案用紙をバンッと置いた。
「俺は85点だ!ノー勉のお前には勝てる自信がある!」
「僕は90点。」
テストの点数は僕の方が上である。化学は得意だから。
「お、お前ノー勉って言ったよな…絶対勉強しただろ。」
「え?してないよ?」
休み時間はあっという間に過ぎて、次の言語文化の授業が始まろうとしていた。
「そろそろ席着けよ~」
学級委員長の号令がかかると生徒は黙々と席に着く。
今日も特に大きな出来事はなかった。
時が過ぎ、季節が秋から冬になろうとしていた。
モトキが病気になった。脳の病気らしく、最初は頭が痛いだけだったが、現在入院中で病状は良くない。
僕と友人のシリュウはモトキが入院している病院へお見舞いに来た。
「なあシリュウ、俺は治るのか?」
モトキはベッドで寝たまま頭だけをシリュウに向けた。
「きっと治るさ!ほら、これでも飲んで元気だせよ!」
シリュウはコーラをバッグから取り出した。
「いらない。」
「あのモトキがコーラを拒否しただと…」
右腕を触っているモトキを見ていたら、僕はあることに気づいてしまった。
そう、彼は食事を取れないのである。だから点滴で栄養を取るしかない、そういうことだろう。
「明日手術だよね。絶対治るよ。」
「ああ、ありがと。」
今日はこれで面会は終わり。手術が終わってから改めて病院に行くことになった…が、
翌日、モトキは死んだ。朝早くモトキの両親が僕の家に来た。どうやら手術に失敗したらしい。
僕はあまりにも突然の報告に涙も出なかった。ただ、生前のモトキとの思い出が蘇ってくるだけだった。
しばらくしてから僕はシリュウに連絡をした。
その頃、シリュウは自転車に乗っていた。
「あ?アイツが朝っぱらから連絡を入れるなんて珍しいな。」
着信音に気づき、自転車をこぎながらポケットからスマホを取り出した。
内容を見ると、シリュウは水溜まりでスリップしてしまった。シリュウはしばらく起き上がれずにいた。ただ、スマホを眺めているだけだった。
シリュウはこの時気付いていなかった。居眠り運転をしている車がシリュウに近づいていることを…
僕は自転車でモトキが入院していた病院に向かっていた。
その途中、救急車で誰かが運ばれるところを見かけた。
病院に着くと、先程の救急車が止まっていた。運ばれたのがシリュウだということに気がつき、救急隊員に話しかけた。シリュウは辺りどころが悪く、いつ心臓が止まるかわからない状態だという。
僕は二人の友人を失ったことを受け止めきれずに家に帰った。
家に帰ると父が母を殴っていた。なぜかはわからない。今までケンカなんかしたことなかったのに。だが、僕には関係ない。兄はのんきにソファーで寝ている。
僕は重い足で階段を上がり、自分の部屋で彼女であるサキに電話していた。
『そう…。今からアキラ君の家に行くね。』
「うん、ありがと。またね。」
僕が電話を切ると一階から母を殴る音は聞こえていなかった。ケンカが終わったようだ。僕は一階に行こうとした、が…
「はぁ、はぁ、もう知らん。次はアキラだ。」
一階から聞こえてきた声は震えていた父の声だった。「次はアキラ」ということは僕も殴られるということだ。
僕は怖くて声が出なかった。ひとまず押し入れに隠れた。
しばらくして父は二階に上がってきた。
「と、とりあえず警察を…」
僕はスマホを取り出したが、手が震えてスマホを落とした。スマホの音に気がついた父は迷いなく僕のいる押し入れに近づき、扉を開けた。
ガタンと音がしたと思えばそこには父がいた。
父の手は血だらけだった。
「アキラ、お父さんの罪を被ってくれないか?悪いことは言わん。」
僕は恐怖のあまり、震えて声が出なかった。すぐさまここから逃げたいが腰が抜けて思うように動けなかった。というより、体全体が麻痺しているような感覚だった。
「今朝、車で人を引いちゃってさ、怖くなって逃げてきてな。」
「…」
シリュウを引いて逃げた犯人…警察から聞いたが犯人は捕まっていないと言われたが、それは父だった。
「でな、お母さんとお兄ちゃんは聞き分けが悪くて罪を被る前に寝ちゃってな。頼むからアキラ、お願いできるか?」
「…」
「大丈夫だ。アキラはまだ17歳だから無免許運転ってことで捕まるだけだ。数年で出てこれる。」
「…。」
人を殺した直後の人間は普通、冷静な判断ができなくなる。父も例外ではなかったようだ。
僕は深呼吸をして立ち上がった。次の瞬間、父は倒れた。
僕は無意識に父を殴っていた。
「それだけの理由で母を殴ったのか!!!しかも僕の友人を、友人を!!!」
僕は続けて父を殴った。父の抵抗は虚しく、すぐに動かなくなった。ただ、感情に任せて行動した。
気がつくと父はもう息をしていない。さっきまで生きていた、と判断できないほど無惨な姿であった。目は開いたまま、口を見ると奥の銀歯がよく見える。血はもちろん飛び散っている。
僕は父を殴り殺していた。
我に返ってから数分後、僕は一階に移動した。そこには胸にナイフが刺さった母がいた。息はしているかわからない状況だ。
先程のソファーには兄が寝ていた…わけではなく、父に殺された兄がいる。よく見ると首もとに深い切り傷がある。僕が帰る前には殺されていたであろう。
ピンポンと、チャイムが鳴った。サキが来たようだ。
僕は工具箱にあった予備のナイフを背中に隠し、サキを向かえた。
「お邪魔しまーす。アキラ君の家に入るなんて久しぶりね。」
「そうだね。とりあえずリビングに行こう。」
僕はサキをリビングの扉を開けさせた。
サキが扉に手を取ろうとしたその時…僕はサキの背中を刺していた。
サキはその場で倒れ混み、ゆっくりと何かを恨むような目付きで僕の顔を見た。サキは痛みで泣いていた。
僕はというと、汚いゴミを見るような目をでサキを見下していた。
「もう何もかも消えてしまえ!!」
僕はサキに刺さったナイフを抜いてまた刺した。またナイフを抜いて刺した。
僕はフラフラしながら手を止め、ボーッとした。
そして、僕はようやく事の重大さに気がついた。
友人と母と兄を失くしてもまだ残っている大切な人、サキ。それを僕自ら奪ってしまったこと。
父だって殺す前に手を止めれば助かったはずだ。それなのに…
もう生きている価値がない。
激痛は一瞬であり、すぐに「痛み」という感覚はなくなった。だが、不思議なことに温度差は感じた。ナイフに付いたサキの血は冷たい。それなのに、温かかった。
これは後に新聞に大きく載ったのはもちろん、テレビでも取り上げられた、大きな事件として有名となった。