いいよね、一段下りるたびに胸が揺れてさ
※ クラヴマガとは……イスラエルで、軍、警察向けに開発された生き残るための戦闘術です。
小学校六年の時、私はクラス全員の中で一番背が高かった。
加えて、当時“クラヴマガ”にハマっていた母から、ちょっとばかりセルフディフェンスを訓練されていたので、クラスの番長格??(いつの時代じゃ!)の男の子が因縁付けて来た時に返り討ちにして、そいつを泣かせてしまった。
この私の“蛮勇”は通っていた進学塾まで広まってしまい、同じBクラスだった悪ガキから「男オンナ」と揶揄された。
この二つの出来事は私の心に、男の子に対する“ウンザリ感”をしっかりと植え付けて……私は女子校生活へ突入した。
入学した中学は中高一貫の私立の女子校で……世間では某Fェリスとまでは行かないが……“お嬢様学校”との評価を受けていた。
入学早々“背の高さ”を見初められてバスケ部に引き込まれたけれど、中等部3年の夏、OGや高等部による“後輩指導”に忍耐の限界を覚えてしまった。
共学とか男子校でもあるのかもしれないが、陰湿な感情をはらんだ先輩からのハラスメントで1学年下の後輩が失禁してしまい、夏合宿の間じゅうその子は、私を除くすべての人から負の感情をぶつけられ続け、2学期以降その顔を見せなくなった。
かく言う私も……我が身可愛さに何も言えないままその夏は過ぎて行き、冬合宿への不参加から、なし崩しに退部した。
退部はしたけれど……
“高校受験”とは無縁だったし、ぼんやりと日常を過ごしてるうちに私は高等部1年となった。
高等部になって、制服がセーラーから今風のデザインのブレザーに変ったせいなのか……ついこの間までは私達が一番“お姉さん”だったのに高等部の校舎に足を踏み入れた途端、周りはすべて大人っぽく見えた。
新たに同級になった高校受験組の外部生ですら、私の目にはそう映った。
背の高さこそ168cmと他の子より頭一つ抜けていたが……窓の“鏡”に映る私は、まるで独活の大木のお子ちゃまだった。
“中二病”とは違うのだろうが、同じ雰囲気の“病い”に私は罹っている様に思えて酷く焦った。
急に寄り縋るものが欲しくなった。
そんな時に声を掛けていただいのが演劇部部長の佐久間純玲さんだった。
その頃の私は小六の時とはまるで違って……人前で声を張り上げる事なんて考えもできず、部の発声練習にドン引きしてエビの様に尻込みして逃げ出したのだが、純玲部長の鈴の音の様な声に掴まってしまったのだ。
「どうしてもどうしても、あなたに手伝っていただきたいの」
柔らかな腕と透き通るように白い手に縋られて私の胸はトクトクと早鐘を打ち、「大道具とか裏方なら」と承諾してしまっていた。
次の日から私の日常は変わった。
スカートの下は常にジャージかハーパン履き!
“女子校あるある”で部室のここそこへスカートを脱ぎっぱにして、力仕事や小道具の片付けに右往左往していた。
肩の辺りまで伸ばしていた髪もポニテですらうっとおしくなって、初夏の日差しのゴールデンウィークのある日、バッサリとショートにしてしまった。
そのナリで休み明けに部室のドアを開けた時、バッタリと出くわした純玲部長に「キャッ!」と叫ばれてしまった。
「えっ?!えっ?!」
とオロオロする私の手を取って純玲部長は謝ってくれる。
「ごめんなさいね。そんな筈はないのにね、ホントごめんなさい」
そう言いながら、純玲部長は“戸惑う私”を見上げ、まるでドラマの中の“恋人”がする様に私の髪に手を伸ばした。
「とってもお似合い!!」
その純玲部長の表情が私の頭の中に焼き付いて……その夜はなかなか寝付けなかった
少しばかり寝不足の次の日、部室のドアを開けると、いつもは“物静かなメガネ女子”の山内副部長が軽い足取りで私に歩み寄って来た。
「純玲部長は今日、お加減が良くなくてお休みなの。あなた、代表でお見舞いに行ってらして」
「副部長じゃなく私がですか?」
「そう! あなたが! もうタクシーを呼んであるから裏門へ回って! これはお見舞いのお品! タクシー代のお支払いは佐久間家に任せなさい」
副部長から手渡されたのは、大判の美しいスカーフを風呂敷にした30センチ角の柔らかな包みだった。
「いったいどういう事だろう?? あの、一見優しそうな山内副部長も実は“部長席”に思う所があって……何かしら嫌な感じの感情を醸しているのだろうか……もし、そうだとしたら……落ち込んじゃうな……」
タクシーに揺られながらそんな事を考えているうちに純玲部長のお家に着いた。
純玲部長のお家は、とても素敵な洋館で……お家の中にはなんと螺旋階段があった。
見上げると、いつもはブレザーにサラサラの黒髪の純玲部長は……今日は緩くウェーブさせた髪をお姫様の様な室内着の肩に流していた。
そして螺旋階段を一段一段下りて来る。
「凛ちゃん! 響子さんから連絡を貰って……あなたが来るのをドキドキと待っていたのよ」
喜びがキラキラと頬を染める純玲部長は本当にお姫様のようで……そのお姿が、昨日からの私のモヤモヤの“鍵穴”にピッタリと合った。
「あの、お見舞いのお品です」
「ありがとう」と純玲部長が包みをほどくと、出て来たのは“ボトムス”だった。
「まあ!出来上がったのね!」
「あの!このスラックスって!ウチの制服の??」
「そうよ」
「部長がお履きになるんですか?」
純玲部長はゆっくりと歩み寄って来て……私のプリーツスカートの腰に手をやって囁いた。
「これはあなたの“衣装”よ」って!
その“衣装”が織り成す物語は別の機会に回すけれど……
“ツルペタ”な私が周りのコに対して、平らな胸の中でコッソリと呟いていた言葉
『いいよね、一段下りるたびに胸が揺れてさ』
この言葉は純玲部長によって大きく染め替えられ……
私は、あのウェービーな髪とドレスに包まれた香りを味わう事となるのだった。
おしまい♡
長くなりそうだったので結構、はしょっちゃいました!!
今朝、駅の階段ですれ違った女の子と……なろうの“お姉さま”からいただいた感想の返事を書いていて思い付きました(^^;)
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!