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シェイム・ハザード終息

「あぁぁ、どうするどうするどうする!!」


 髭もじゃの隊長は自身の執務室で焦っていた。

 軍の権力が回復し、内部粛清に近いことが行われ始める。


 裏切り者の炙り出しだ。

 ゲオル・リヒターと相対したとき以上の焦りが、彼をいすくませる。


 そして、運命のときがきた。

 ミスラが衛兵を引き連れドアを蹴破る。


「アナタね? 連中と組んでいた男って」


「うっ!」


「アンタのやったことは、立派な反逆よ。自分がどうなるか、もうわかるでしょ?」


 青筋を走らせるミスラにすごまれ、ついに……


「う、うええ」


「……は?」


「うえええぇぇぇぇ……ッ、うえええぇぇぇぇえええッ!!」


 目を潤ませ、子供のように泣きじゃくる。

 大の大人の凄まじい姿に引きつつも、衛兵に命令し彼を連行していった。

 

 シェイムに与した軍人の大部分が、処刑されたという。

 この大規模な粛清は、ヘヴンズ・ドアの影の力もあり、たちまち街中に広まり信頼回復の証ということで認知されていった。


 街はと言うと、シェイム派閥の貴族やならず者たちが捕えられたことで、一定の治安を取り戻しつつある。

 以前のような活気が見られ始めるが、その傷跡はあまりにも深かった。


 壊された家屋。

 引き裂かれた絆。

 

 そして戻らぬ命。

 過去に類を見ない被害に心を痛めながらも、人も時間も流れていく。


 そんな中でも、キャバレー・ミランダに被害がなかったのは救いだろう。

 もっとも、今回のことでティアリカは少しの間、ふさぎ込んではいた。


 そう、あれから早20日だ。


「よう」


「ああ、ゲオル。アナタも今日はお休み?」


「ボランティア活動。人手が足りないところもあるんでな」


「まぁ、働き者ですね」


「そりゃそうだ。ヘリアンテス区の区長にゃたっぷりと弾んでもらったからな」


 暗にこれからも街のために動けということなのだ。

 それを汲み取ってゲオルは休みなくずっと働いている。


 ミスラも、ウォン・ルーも、オルタリアも。

 嵐のような日々から、這い上がろうとしていた。


 その姿を見続け、ティアリカも元気を取り戻していく。

 その内ゲオルと一緒に活動するようにもなった。


「おう、そういや明日の朝だったな」


「明日……あぁ、そうでしたね。ローランさんも元に戻ったみたいですし」


 マヤとローラン。

 薬はたったの3日で効いて人の姿を取り戻した。


 その後安静にして、みるみる回復。

 彼が無事だったことへの安堵で号泣するマヤを陰で見ていたゲオルからすると、どこか寂しさを感じた。


 というのも、ふたりはこのヘヴンズ・ドアを一緒に出るのだそうだ。

 ちょうど次の日の朝、ヘヴンズ・ドア発の機関車で西のほうへと旅立つとのことだった。


「おふたり、よかったですね」


「まぁ、親父さんがちょいと危ないみたいだしな」


「情状酌量の余地はあるとは思うのですが」


「そんなことはお偉いさんどもが決めりゃいい」 


「ふたりは西になにか伝手はあるのでしょうか?」


「さぁね。それも知らん。俺らの仕事はもう終わってる。それ以上は干渉なしだ」


「そうですか……」


「よせよ。ハネムーンに行かせてやると思えばいいんだ」


「クス、アナタらしいですね」


 次の日、ゲオルとティアリカは駅へと向かう。

 ちょうどふたりがホームに立っていた。


「ティアリカさん! ゲオル!」


「マヤさん!」


「おう」


 ふたりを見てパッと明るくなるマヤは手を振った。

 その横でローランが一礼。


「身体のほうは?」


「はい、もうどこも異常はないです。本当に、皆さんには感謝してもしきれません」


「大変だったんだぞ~。最初にコイツが俺のところに飛び込んできた日から目ぇ回りっぱなしだ」


「もう! そういう言い方する!?」


「あ、あはは。マヤ、そんなに言うものじゃないよ」


「……マヤさん、ローランさん。遠くへ行ってもお元気で」


「うん」


 寂しそうに笑うマヤ、それに寄り添うローラン。

 父親がどうなるかはわからない、西のほうへ行ってもやっていけるか。


 一番不安なのはこのふたりなのかもしれない。

 マヤを抱くローランの手にも緊張が見えていた。


「しっかりしろ」


「えっ、あ、すみません。その……」


「コイツは、お前を助けるために命を懸けた。それこそ人殺しになりかねないくらいにな」


「……」


「そこまでしろってわけじゃないが、恥ずかしくねえくらいには、引き締めろ」


「はいッ」


 汽笛が2回鳴らされる。

 マヤとローランは車両に乗り込み、窓際に座る。


「皆さん、ありがとうございました! お元気で!」


「ありがとう! 本当に! 本当にありがとう!」


 マヤたちに手を振ると同時にまた汽笛が鳴らされた。

 機関車は動き出す。


 マヤもローランも身を乗り出すようにして、一生懸命に手を振った。


「ありがとう!! ありがとう!!」


「ありがとうございました!!」


「あーあ、まだ叫んでるよ」


「いいではありませんか」


「ゲオルー!! 浮気はダメだからねーーーー!!」


「おまっ!! こんなときにふざけやがって……オラァ! 戻ってこい説教だぁ!!」


「えへへ、ベーッだ。……えへへ! ────……ありがとう、元気でね」


 やがて機関車は見えなくなった。

 ふたりを乗せて、新天地へと運んでいく。


「…………」


「行っちゃいましたね」


「さて、俺は帰ってひと寝入りするかな」


「まぁ、仕事は?」


「今日は休む。支配人にも言っといてくれ」


「もう、仕方ないですね」


「ところでよぉ、最近ユリアス見てねぇんだけど。どうした?」


「休暇をとっているらしいです。お陰で厨房が……」


(もしかしたら、過去の清算にでも……)


 ふたりもまた、日常へと戻っていった。

 無数の汽笛とドラフト音が鳴り響く駅構内を抜けて、ふたりは歩く。


 しかし、また新たなトラブルも舞い込もうとしていた。

 その兆候はこの地点で現れている。


 向かい側のホーム。

 ヘヴンズ・ドア着の機関車から降りてきた黒いコートの男。

 

 ────彼もまた、ゲオルと出会うこととなる。


 

 


 一方……、



「くそ、クソクソクソ!」


「捕まれば殺されるし、このままでも……どうすればいいんだぁ!」


「うるせえ! 泣き言言うんじゃねえ!」


「約束が違うじゃないか! シェイムの野郎は俺たちを……」


 キィー、キィー、キィー


「な、なんの音だ?」


 ヘヴンズ・ドアの隅にある巨大倉庫のエリア。

 その中で、ユリアスにとっての因縁の組織残党が怯えて縮こまっていた。


 見つかるのも時間の問題なのだが、それ以上に仲間が殺されていく恐怖に打ちのめされている。

 そして暗闇に響くなにかが軋む音。

 彼らの神経は急激な緊張を覚える。


「お、おい、上……上に人が」


 ひとりが指をさす。

 人が宙を歩いていた。


 ポケットに手を突っ込み、口を覆うように布を巻いている。

 その瞳は殺意で黒々としていた。


「う、うわぁぁぁあああ!!」


「チクショウ、チクショウ!!」


 残党たちは銃を乱射。

 しかし弾丸は途中で切り裂かれあらぬ方向へと飛んでいく。


 その人物がユリアスであることなど露知らず、彼らは悪夢を見たかのように狂乱した。

 ユリアスはため息交じりに懐から銃を取り出し、残党めがけて発砲。


 正確無比に着弾し、何人かは死に絶える。

 残りの弾丸で、始末をつけようとユリアスは残党から銃口を外し、真っ直ぐに向けた。


 種明かしをすれば、ユリアスはあらかじめ仕掛けた魔導ワイヤーを張り巡らせ、歩いていたのだ。

 今狙っている部分を撃てば……、


 ガシャーンッ!!


 屋根の一部が残党に向かって落ちていく。

 元々部分的に老朽化していたので、これなら不幸な事故で片づけられる。


 ユリアスの持っている銃は、元々彼らのだ。

 それを地面に放ってから、ワイヤーを回収。


 

 その場から姿を消した。


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