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マヤ発見、シェイム発見

 オルタリアは部屋にあった見取り図を暗記して、牢屋へと足を運ぶ。

 騒動のせいで見張りはほとんどいないため、すぐにたどり着くことができた。


「ここね。……こんばんわ仔猫ちゃん」


「え?」


「私はオルタリア。ゲオルは今別行動を取ってる。だから私が来た」


「ゲオル……じゃあ、ホントに!」


「急ぎましょう。ちょっと待ってて。鍵探すから」


 すると、通路の向こう側で声が聞こえた。


「その必要はないよ」


「誰?」


「いや、待って。その声……まさか、アナタは!」


「君がさらわれたと聞いて久々に肝が冷えたよ。ごめんね。ボクがもっとしっかりしていればこうならなかったのに。ここからはボクも参加する」


「そんなことないですユリアスさん。それに、ゲオルもちゃんと約束守ってくれました」


「……鍵はボクが持ってる。ねえ、アンタはゲオルの仲間でしょう? マヤを外まで連れ出してあげられない?」


「お安いごようと言いたいけれど……」


「私は、ここに残ります! まだ彼と会ってない!」


「危険だよ?」


「いいじゃない。なにかあっても私が守るわ」


「そうか。ゲオルの仲間だ。信用しよう。でも、ボクは一緒には行けない。やることが残ってる」


「わかった。この子のことは任せて」


「私、シェイムって奴にあったの。でも、どこの部屋かはわからない。いや、この地下研究所だったのかな? うーん」


「それなら心配ない。私、見取り図覚えてるから。この最上階よ。地上に最も近い場所。たぶん、そこに行けばシェイムに会えるんじゃない?」


「わかった行こう!」


「マヤを、よろしくね」


 ユリアスは目を伏せるようにして、ふたりとすれ違うように奥のほうへと歩いていった。


 一方、シェイムはというとこの予想外の侵入に盛った猫のように興奮していた。

 

「いいねいいね、こういう展開! 人生にアクシデントは付き物だ! くうううう!! ライバルとライバルが鎬を削りあう。その中に僕もいる!! やはり僕の人生はスポーツだ!! 勝ってやる! 勝ち抜いてみせるぞぉ! プォォォオオオオオオオ!!」


 奇声を上げていると、何人かが入ってくる。

 この街の富裕層、そして成金だちと言ったシェイムの協力者たちだ。

 だがシェイムは特に興味なさそうに、


「なに? 僕は今忙しいんだけど?」


「お、おい! 大丈夫なんだろうな!」


「なにが?」


「なにが? じゃない! これじゃ話が違うじゃないか!」


「なにも違わないよ? 仮に違ってたからなんだって言うんだい? そのほうがスリル満点で面白いじゃないか」


「わ、我々を騙したのか!?」


「君たちはつまらない。だから君たちの土地も財産も全部いただいたよ? もう君たちは僕のお客さんでもなんでもない。ただの無能さ」


「き、貴様! まさか初めからそのつもりで」


「もういいだろう。帰ってくれ。今から僕は電話するんだ。わかるだろ? 電話。まず交換手と話さないといけないから面倒なんだよね」


 彼らを取り囲むようにならず者が現れ、彼らを引きずっていった。

 殺されるかどうかなど知ったことではない。


 それよりも電話だ。

 まず最初に誰にかけるのかというと、自身が組んだ弁護士団だ。


 これは以前酒の席で、キャロライナに言ったことがある。

 金を持った悪党が1番に金をかけるものはなにか。


 それは『逃げ道』である。

 物理的な逃げ道の確保はもちろんのこと、法的な逃げ道も用意する。


 こう言った陰の動きが、長生きの秘訣なのだ。

 シェイムは大胆だが、そこらへんは用心深くもあった。


(でも、僕には必要ないと思うけどね。だって、僕には闇の力がある。真に選ばれし者の証。どんなに脚光を浴びる人間であってもちょっとしたスキャンダルをでっち上げられればそこで終わりだ。そんなものは選ばれた存在とは言えない。僕には、選ばれた者の自覚がある。なにをしても許される運と時代の流れを味方にできる)


 交換手から電話に繋がるのを待つ間、シェイムは思い出と物思いにふける。


(懐かしいなぁ。最初はちょっとしたズルからだっけ? そこからだ。人を死においやったり、店を潰したり、女の子を売り飛ばしたり……でも、僕はこれまで一切裁かれなかった。咎める奴らは皆殺しにした。それでも裁かれなかった! もちろん、この世には悪党を許さない法律は存在する。でも、そんな法律すら僕の運命を変えることはできなかった。そう、魔術や才能じゃ絶対になしえない因果の力。僕はこの力をコントロールする叡智と才覚がある。まるでリレーで爆速で最前を征くアスリートのように!)


 ニヤニヤしていたが、あまりにも繋がらないため、ふと我に返った。


「なに? 繋がらない? おかしいな。この時間なら大丈夫と思ったんだが、おっと! どうやらまたお客さんがきたようだ」


 電話はあとにしよう。

 シェイムは振り返ると、そこには仮面の女性がいた。

 変装したティアリカである。


「これは珍しいお客さんだ。初めまして麗しのレディ」


「アナタが、シェイム……」


「そうだよ。この街を素敵に生まれ変わらせるスーパーな男さっ!」


「今、街がどのようなことになっているか、アナタはわからないのですか?」


「わかってるよ。でもね、変化に犠牲はつくものだろう?」


「その犠牲は今を懸命に生きようとしてきた人々であって、アナタやならず者じゃない。この土地で生きるためにどれだけの努力と根気が必要だったか……。そうやって得た幸せを、アナタたちは!」


「僕が招いた連中だって、懸命に生きてきたんだ。ホントだよ? なにが違うんだい? あ、もしかして店が潰れちゃったとかレイプで女の子が傷ついちゃったってことに怒ってる? ん~、でも、それは仕方ないね。だって彼らに人道教えたってわかるわけないもんアハハハ!」


「それがッ!! 人間のやることですかッ!!」


「君って生きづらそうな性格してるね。いいかい? これはビジネスであり、スポーツなんだ」


「違うッ!」


「違わない。例えば、かつて僕らの先祖がやったとされる『原住民殺し』。これだって同じだ。自分たちが栄えるために一体どれだけの国がこの事業に加担したと思う? でも、重要なのはそこじゃない。彼らがどんな気分でやっていたかを想像するんだ。────大義? ゲーム? ノンノンノンノン! 答えはスポーツだ!! 侵略というスリリングなスポーツを楽しんだんだよ! それを悟ったとき、僕は興奮を抑えきれなかった! ひと晩中眠れなかったくらいにね!」


「先祖の代でそれが行われた……否定はできませんし、してはいけません」


「だろう?」


「でも、それを今の世でやるのは間違っています。確かにこの街は治安が必ずしもいいとは言えません。ですがそれでも、懸命に今日と明日を生き抜こうとしている人々の命や尊厳を奪っていい理由にはなりません!!」


 こんなことのために、世界を救ったのではない。

 こんなことになるために、皆が命をかけて魔王を倒したのではない!!


 ティアリカの心の叫び。

 だが、シェイムの心には届いていなかった。


『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』


 彼の耳から受け取った、自分にとって耳障りな情報は脳内でこういう風に処理される。

 言葉はわかるが、言葉の意味を理解しまいと脳が自動的にシャットアウトする。


 だからだろうか、彼と対立する人間との会話はほとんど嚙み合わない。

 

「今すぐに、この街を出て二度と来ないでください。ならず者たちを連れてどこへなりとも行きなさい。もうこれ以上、皆から笑顔を奪わないでください。この街をこれ以上穢さないでください! でなくば、ここでしとめます」


「……ちょっと興奮し過ぎじゃない? 頭大丈夫?」


「────ッ!」


「言っておくが、僕は手強いよ? なんたって、法で裁けない悪のヒーローだからねっ!」


「まだ戯言を」


「法で裁かれる奴なんて三流だ。金と権力で減刑される奴は二流、僕のようなスーパーアスリートは、法『ごとき』じゃ勝てない。どんな悪事を働いても、『裁きは』『ない』。それがこの僕さ。なら、やることはひとつだね!」


 シェイムは黄金に輝く拳銃を二挺取り出し、ビシッと構えてカッコつける。


「アスリートにピンチは付き物さ! さぁ、レッツ・ダンサブル!!」


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