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快進撃で征く

 キャロライナ自身、シェイムのすべてを知り尽くしているわけではない。

 ただわかることは、本人は特に何も考えていない。無邪気に遊ぶ子供のように。

 人を虐げ、楽しくお金儲けできるのをスポーツのようにやってる。


 本当にそれだけだ。

 そのために様々な人脈を駆使して、事業や裏の稼業を行っている。

 彼には一定のブームがあり、破壊を伴うものの、一部のエリート層にとっては儲かる仕組みがキチンと整っているのだ。


 ゆえに、彼らはシェイムと繋がる。

 それがいつか自分たちにとって、恐ろしいものになるとしても。

 むしろ、こういった流れが彼の純粋な邪悪性をより強固にしてしまったのかもしれない。


 出来上がったのは、かつて世界を震撼させた魔王の脅威に次ぐ、『新たな恐怖』の象徴としてのシェイムだった。

 世界中の権力者たちと結束して、莫大な金と歪んだ人道で武装する。


 そうすることでシェイムはエリートたちの尖兵になった。

 狙った都市や小さな町を、事業と言う形で機能を破壊し、政治的な風穴を空ける。

 そこに新たな支配者層が群がり、利益を得る仕組みだ。


 まさに、────『歩く政治的爆弾』の誕生。

 だが、絶頂し過ぎた彼は暴走してしまった。


 魔王が旧時代の脅威なら、シェイムは新時代の脅威である。

 キャロライナもまた、彼のそういう面を利用とした人間のひとりなのだが……。


「まいったね……シェイムに協力すんのちょっと早かったかな」


 呟く彼女の眼前には、素手で応戦するゲオルによって積み重なっていく死体の山だった。

 ゲオル・リヒターが英雄であることは知っていた。

 人造ニグレドでその力の一端を垣間見たとはいえ、その勢いには技術だけでなく、街を覆う理不尽への怒りにも満ちていた。


 それは間違いなく、キャロライナにも向けられている。


「アハハ~、計算違いか」


「なんでも計算づくな奴は何人も見てきたよ。ま、そいつらの物差しは、全部俺がへし折ってやった」


「あ、そう。でも……アンタはもうちょっと計算はやったほうがいいね。算数でもいいからさ」


「あん? ありゃ……」


 キャロライナが杖を振るう。

 死霊術のひとつ、死んだ者をアンデッドとして復活させる技だ。


 また最初からやり直しかとゲオルが意気込んだかと思いきや、キャロライナはアンデッドたちの不死性を利用し、逃げるつもりだった。


 全員を引き連れ、奥へ。

 それは遥か地下へと続く巨大な穴で、深さはキャロライナのみぞ知る。


 アンデッドたちを先に飛び降りさせ、最後に自分が飛びおりる。

 その際特別な爆薬と仕込んだナイフを投擲し、追いかけてくるゲオルの天井を爆破した。


「はっ! これで追っかけてこれない! じゃ~ね~、って、ハァ!?」


 落下しながら笑うも、ゲオルがかまわず銃を向けてきたことに驚いた。

 だが、その銃では、この角度からでは無理だ。

 ライフルならともかく、拳銃で届くような射程距離ではない。


 キャロライナは一瞬焦ったが、すぐに不敵な笑みを取り戻す。

 とんでもない失態だが、生きていればチャンスはあるとゲオルから視線を反らした瞬間、


 ────ズドン! キン……ザクッ!


 ほぼ同時にも聞こえた3つの音。

 それに加えて胸部に感じる鋭い痛み。


「こ、れ……破片? 爆破したとき、の……鉄の……かはっ!」


 まるでビリヤードでそうするように。

 キューでボールを弾き、そのボールが違うボールを弾くように。


 弾丸は射程ギリギリのところで、降ってきた小さな鉄の破片にあたり、勢いよく彼女の胸に突き刺さったのだ。


 本来狙ってできる技ではない。

 いや、狙ってできるからこそ、彼は英雄なのか。


 だとしたら恐るべき神業だ。

 計算でできる代物じゃあない。


 計算を超えた、恐るべき才能。

 物差しをへし折ってきたと豪語するだけのことはあった。


 キャロライナは、ここで彼の凄さに惚れた。

 もっと知りたい。もっと観察したい。もっと、もっと、もっと……。

 だが伸ばしかけた手が届くはずもなく、これまで利用してきた者の残骸とともに奈落へと落ちていった。


「次は地獄でアイスクリームでも作ってな」


 巧みなガンスピンをしたのち、懐にしまう。

 この戦いで騒ぎはより大きなものとなったと思うと、ほかの3人に申し訳ない気持ちが芽生えたが、


(まぁ、隠れるより暴れたほうがアイツらはスッキリするかもな)


 すぐにそんな気持ちは消えた。

 とりあえず変異したローランのもとへと戻り、状態を見る。


「あ、歯が欠けてる。え、俺のせい? 違うよな? え、え、どーしよ。えーっと、そうだ。実験でそうなった! この姿にされたせいでこうなったってことにしておこう! うん! ……しばらく寝てな。アンタのお姫様がキスしにくるまで、起きるんじゃねえぞ?」


 ゲオルは次の場所へと駆けだした。

 囚われた女たちも探したいが、依頼人であるマヤの救出が先だとして。



 一方、ウォン・ルーとオルタリアは、とあるエリアまでたどり着いた。

 戦闘員であるならず者や、衛兵たちがたくさんいる。

 別のエリアでゲオルが暴れたため、ここの空気もひりついていた。


「く、これじゃ進めてねえぜ」


「皆殺しにすればいいんじゃない?」


「そりゃあねさんはそれでいいけど、オレはそうもいかねえんだぜ?」


「ふぅん、めんどくさいわね。まぁ私も鋏剣も大きすぎるからって持ってこれなかったし……」


「なにかいい手は……」


「じゃあ、私の出番ね。ここからは別行動にしましょ」


「え、どういうこと?」


「まあ見てて」


 オルタリアは陰から出て、堂々と歩きだした。

 ウォン・ルーはギョッとし、止める間もなく、それを見守った。

 

 誰もがオルタリアに注目する。

 そのエキゾチックな姿に、その圧倒的なプロポーションに、敵意や警戒とはまた別の感情を向けていた。


「ねぇごめんなさいお兄さんたち。このエリアの責任者って誰かしら?」


「え、え、あの……アンタは?」


「私、ここに連れてこられたんだけど……道に迷っちゃって。誰か案内してくれる? それとも、ボディチェックが必要かしら?」


 オルタリアのウインクが、彼らの心を射止めた。

 

「あ、あ、えーっと、とりあえず、その……こっちに来てくれるか? これは、この基地の安全のためにやることだっ! ちゃんとしっかり、チェックしないとなあ~~」


「あら、仕事熱心なのね。怖い人たちばっかりだと思ったけど。……でも、優しくしてくれると嬉しいわ。乱暴なの、怖いから」


「やりますやります!」


「お、お、俺! 手が器用だから優しくやれるぜ?」


「俺はアンタみたいな女は大事にする。ぜってぇ乱暴しねえ。うへへ」


「まぁ、素敵な殿方たち。じゃあ向こうでひとりずつ、私をチェックしてくださる?」


 こうしてほぼ無人になったこの場を、ウォン・ルーはスイスイと進むことができた。

 自分も混ざりたかったなとちんけな欲望に、歯嚙みしながら……。


 オルタリアは内側から、ウォン・ルーは外側からこのエリアを探ることにした。

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