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キャロライナとの遭遇

 4人は倉庫から出ると、地下に設けられた壮大な基地に度肝を抜いた。

 あまりに広く、物々しいまでの造り。


 大樹が根を下ろすように、鋼鉄の建造物が貼り巡って地下空間を支えていた。

 鋼鉄と岩の壁がどこまでも続き、武装したならず者とシェイムについた科学者たちが廊下を行き来していた。


 地下研究所とは聞いていたのだが、規模がデカすぎる。


 ヘブンズ・ドアとは比較にならない異質さは、かつての魔王城を彷彿させた。

 人が闊歩しているのに、人が安寧を享受できる場所ではない。


 暗黒に続く地下へ続くこの場所は、まるで地獄の入り口にすら見えた。


「うし、ここからは二手に分かれよう。俺とティアリカは左、お前らは右だ」


「ガッテン!」


「目的はシェイムの討伐ってことでいいかしら?」


「それもあるが、マヤって小娘とボーイフレンドも探してほしい。写真見せたろ」


「あぁ、あのカワイ子ちゃんね」


「それと、ここに囚われてる女たちもだ」


「そうですね。皆で力を合わせて頑張りましょう」


「……いいか、ぶっつけ本番だ。この仕事にやり直し(アンコール)はねえ。地上からの支援や増援も期待するな。信じられるのは自分の力だけだ」


 ゲオルの声のもと、二手に分か最後の決戦へと向かう。

 潜入に近いので、ある程度の隠密性は求められる。


 とは言え、見つかるのは時間の問題かもしれない。

 ゲオル自身もスニーキング・ミッションに向いているとは思っていなかった。

 いや、この4人のメンツそのものがそうだ。そもそもそういうプロじゃない。


 各自判断、なんかあったら叩き潰せ。

 我ながらバカげた方針だとゲオルは心内で笑った。


「さて、まぁた分かれ道だ」


「なら私が右を行きましょう」


「一緒に左行って、なんもなかったら右ってのもありだぞ?」


「そんなことをしている場合ではないのは、アナタがよくわかっているでしょう?」


「ハハハ、そうだな」


「私を信じて」


「……カッコいい仮面だな」


「どーも」


 ゲオルは一抹の不安を拭い捨て、左へと向かう。

 見張りはならず者だけでなく、裏切った衛兵たちもいる。

 彼らの指導で、わりときっちりとした見張り体勢が敷かれていた。


「ほうほう、あそこがああも厳重ってことは、なにかあるな」


 忍び寄り、全員を陰で仕留めた。

 死体は、一か所に集めて隠した。


 彼らが守っていたのは、誰かの部屋。

 個人の研究室と自室が地続きになっている、言わば特別室だ。

 銃を片手に、研究室から自室のドアの前まで。

 中から水の流れる音がした。


 キィ……。


「開いてる……ん? おっとぉ」


「ふんふふ~ん……」


(あれま、シャワー中だったか。こりゃまた。お、出てくるか)


 シャワールームはオープンな造りだ。

 カーテンはあるが、彼女は閉めていない。

 その後、キャロライナがあられもない姿でシャワールームから出てこようとしたとき、


「おっとそのままだ!」


「……ッ!」


「叫ぶなよ。動くなよ。おう、いいね。そのままだ」


「……」


「そのまま話を聞いてほしい。おっとタオルも巻くな?」


「安心しなよ。武器なんて持ってないって」


「そういうことじゃない。ここまで来んのに大変だったんだ。これくらいのサービスは、いいだろ?」


「────ふふん」


 少し間をおいてから、キャロライナはほくそ笑みながら、バスタオルを身体に巻いた。

 ソファーに座り、楽そうに足を組む。


「風邪ひいちゃうでしょうが。おバカ」


「そいつは失敬」


「なにしに来たの? レディのシャワーシーン覗きに来たわけじゃないんでしょ?」


「道に迷ってね。ここが迷子センターだと思ったんだ」


「困ったウサギさんだこと。誰の手引き?」


「お前らに恨みを持つ奴だよ」


「ありゃ~、該当者が多いね」


「単刀直入に言う。たったの4つだ。シェイムはどこ? マヤはどこ? ローランどこ? 捕らえられた女たちはどこだ?」


「質問多いね。ひとつにしてよ。ひとつだけなら、答えてあげる」


 キャロライナに銃口を近づける。

 ここで彼女からも笑顔が消えた。


「悪い。あんまり遊ぶことはできないんだ。大人は仕事で忙しいもんでね」


「……ねぇゲオルさん」


「はいなんザマス?」


「アタシ、元々はグリンデルワルド魔術学院の卒業生でね。在籍中に科学に興味持ったの。なんでかわかる?」


「さぁね。新種のアイスクリームでも作りたかったからか?」


「アハハ、面白いねえ。でも残念ながら違う。きっかけは本当に些細なことだよ」


 時間稼ぎをされているのかと、一瞬引き金を引きかけた。


「それはね。『ニワトリは雑食だった』って初めて知ったとき。投げナイフの練習をひとりでやってたらすっぽ抜けてさあ。飼育小屋のニワトリにブッ刺さったわけ。ヤバいと思ってナイフ引き抜いて猛ダッシュよ。しばらくしてどうなったか見に行ってみたらさ、なんと、ほかのニワトリがそいつの死体をついばみながら食ってたってワケ。……あのときだね。知らない世界の美しさってのを知ったのは」


「そりゃあ素敵な体験だな」


「そこから知的好奇心ってのがワキワキ! フライドチキンって食べるのかな? 豚肉は? ゆで卵は? ……人肉は? もう必死で観察ノートつけたね」


「そこから神を創りたいなんてほざけるんだ。大したもんだよ」


「えへへ、ありがと」


「で、俺の質問には答えてくれる?」


「ひとつだけなら、いいよ。確実な答えをあげる」


「引き金引いたっていいんだぜ? 生かしておく意味はないからな。お前も悪党だ」


「じゃあなんでさっさと撃たないの?」


「サービス分だ」


「あぁ、じゃあタオル外したらもっと優しくしてくれる?」


「やってみろ。ビックリして引き金ひいちゃうかも」


「……ふたつ。ふたつだけなら答えてあげる」


「オーケー」


「ローランはアタシの研究の手伝いをしてくれてる。今ごろ素敵なボディに生まれ変わってるよ?」


「なんだと!?」


「マヤって子は牢屋。でもどこの牢屋かは知らない」


「おい」


「待って待って。わかった。じゃあシェイムの居場所も教えちゃう。この一番上。地上に最も近い部屋にいる」


「ほぉ、そうかい。ありがたいね」


「あ、撃つ気なんだ」


「生かす意味ねえっつったろ」


「やってみたら? その代わり、痛い目見ちゃうかも」


「どういうことだ?」


「なんの策もなくおしゃべりすると思う?」


「────そういうこと、かッ!!」


 部屋に備えられた隠しドア。

 気づいたときには真っ赤な巨漢が、そのドアから現れゲオルに襲い掛かった。


「アハハ! アンタのお求めのローランだよ!! しっかり遊んでいきな!!」


 人体実験で変わり果てたローランを相手する間にキャロライナは着替え終わり、その場を立ち去ろうとした。

 もって数分は時間を稼げるだろうと考えていたのだが……


「殺しちゃいない。気絶はさせた。おお~痛え」


「え、……もう?」


「さぁ今度は? 追いかけっこするか?」


「……こんなに大きな音がしたんだから、たくさんの兵隊がやってくる」


「別にいいぜ。コソコソ隠れるのも飽きた」


 キャロライナとの戦いと同時に、多くの敵兵がやってきた。

 ならず者に衛兵。ゲオルはたったひとりで挑む。


「切符を拝見。こっから先は、地獄行きだ!」

 

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