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キャロライナの悪事

「ま、まさか、本当に?」


「ああ、どうやらシェイムってやつと一緒にいる可能性が高い」


「研究員ならば、まだ生きているかも!」


「あぁ、よかった……よかった!」


「だが敵は強大だ。金と権力に自由が効く分、魔物相手よりも厄介だ。もうなにが起きてもおかしくない。それでも────」


「それでも!!」


 マヤが力強くゲオルの言葉を遮った。


「それでも先輩に! あの人に会いたい! 正直言うとムカついてる。大人のわけわかんない都合で先輩や街を巻き込んで、滅茶苦茶にして……。でも、そんなことよりもッ! 私は先輩に会いたい! 先輩が生きているならその可能性に賭ける! お金とか権力とかどうでもいいのよ! 先輩に出会う、ただそれだけが今の私のすべてよ!」


「……わかった。その名演説の分も、バリバリ働いてやる。期待しとけ」


「うん、わかった」


「時間がかかってしまい、申し訳ありません」


「い、いえ! そんな! ……その、もうそろそろバイトなので行きますね」


「おお、もうそんな時間か」


「なんと言いますか……健気ですね」


「好きでやってるんです。それじゃ」


「途中まで送ろう」


「いいよ。自分で行ける。そのまま仕事を続けて」


「……了解」


 マヤを見送ったのち、ふたりはある場所へと向かう。

 その場所とは、マヤの家。

 その提案をしたのは、ゲオルだった。


「シェイムが支配層を伸ばし、なおかつまだマヤを探してるってんなら、親父のほうに手を回してないはずがない。一度探りを入れるのさ。なんか色々知ってるかもだぜ」


「そう言えば、マヤさんを追っかけていたのって……。もしも戦うことになれば」


「そんときゃそんときさ」


 とは言え、今いる地点からだと少し遠い。

 なんなら駅馬車を使ったほうが早いだろう


 駅馬車のあるエリアまで歩くと、円形の広場までたどり着く。

 特になにか店舗や出店が並ぶ場所ではないが、鮮やかな花々が目立ち、住民が日々の心労を癒すには絶好の場所だった。

 行く人々の笑顔には満ちているが、きっと心境は穏やかではないだろう。


 そして、そんな場所を穢す者がひとり……。


「さぁてさてさて、そろそろ素敵な実験のお時間の始まり始まり!」


 シェイムの協力者、キャロライナ。

 街を一望できるビルの上でしたり顔をする。

 知的好奇心が心拍を上げて彼女の頬を紅潮させた。


 脳と下腹部が同時にうずくような奇妙な感覚。

 これから行われるのは、彼女の研究の成果。


 神をも恐れぬ、ドス黒い人間の欲望の化身。

 キャロライナが目を付けたのは、ゲオルたちが訪れたその広場だった。


 そこへ舞い降り、大仰な動作で周囲の注目を集める。


「はいはーい、紳士淑女の皆様がた! どうぞご注目~」


 バトントワリングのように陽気なふるまいで、キャロライナは魔杖を振る。


「これから始まりますは……このキャロライナの前祝い。偉大なる研究のお披露目となりまーす!」


 陽気で愉快で優しいお姉さんの顔から、残虐な笑みを浮かべた女マッドサイエンティストの顔になる。

 黒々とした魔法陣が地面に敷かれ、そこから現れたるは巨大な化け物。

 それを目の当たりにしたゲオルとティアリカは反射的に前へ躍り出た。


 近くで見れば異様なほどに大きい。

 見た目は腐臭を口からまき散らす、肥えに肥えたガマガエル。

 顔に無数にある目はすべて潰れており、絶えず膿んだ汁を流している。


 右手には刃こぼれした大剣を、左手には右腕を斬り落とされた人間が描かれた大盾。

 カエルの形をした魔物はいくつか知っているが、あれは見たことはない。

 見たことがあれば絶対に忘れられない。生理的嫌悪感で鳥肌を立たせるくらいにおぞましい敵。


「おいねーちゃん。これは一体?」


「おやおや、血の気の多い人だね。いいよいいよ。大変結構。大歓迎。アタシの検証に付き合ってくれてなによりだよ。じゃあ、もっと気合入れてやらないとね」


 魔杖で地面を鳴らすと、いくつもの魔法陣が現れ、動く死者が這い出てくる。

 その周囲にいた人々は大騒ぎ。ティアリカは避難誘導を行い、ゲオルはキャロライナを睨みながら一歩近づいた。


「なるほど。アンタが死者の行進なんてことやってたのかい」


「答えるまでもないでしょ。これからもっと街は騒がしくなる。これはその祝いでもあるの。……このデッカイのがなんだかわかる? すごいでしょ?」


「街のマスコットにしちゃ趣味が悪いぜ」


「アッハッハッ! マスコットじゃないない。これは、『人造ニグレド』だよ」


「……な、なに?」


 これには面食らう。

 前に見た資料に書かれていたニグレドの軍用研究。

 すでに完成されていたのだ。


「驚いてくれてなにより。ま、これはまだまだ試作段階だけど、単純火力は折り紙つきだよ。でももうちょっとデータが欲しいんだよね~。だから、お祝いついでに今日やっちゃうってわけ」


「妙ちくりんなことするバカはこれまで何度も見てきたがね。お前は群を抜いてるよ」


「ども、あざっす。じゃあ、突然やってきていきなり~なことだけど、頑張ってね~。アタシは別のところで見てるから♪」


 キャロライナは姿を消した。

 彼女によって創造されしニグレドは死者たちを率いるように、カエルらしからぬ咆哮を上げ、ゲオルの元へ戻ってきたティアリカに立ちはだかる。


「ここで食い止めるぞ。被害は最小限! なるべく!」


「委細承知!!」


 ふたりでいけるか。

 数だけならともかくニグレドもいるとなれば厄介か。

 ゲオルがそう思ったそのとき、


「うぉぉおい! な、なんだこりゃああ!?」


 東の通りよりウォン・ルーが駆けつけて、


「あら、面白そうなことしてるじゃない」


 北よりオルタリアが屋根から舞い降りてきた。


「お前ら……ワケは後ではな────」


「わかってる!!」


「まずは楽しみましょう」


「心強いです!」


「気合入れてくぞコラァア!!」



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