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事件の黒幕、シェイムとキャロライナ

 ゲオルたちがヘリアンテス区へおもむく前の日。

 この大都会ヘヴンズ・ドアを一望できるビル群のとある階にて、ふたりの主犯が酒を優雅に舌鼓をうつ。

 この階にはワインセラーはもとろん、ウイスキーのボトルまで数多くの酒が陳列していた。


 一見バーと見まがう部屋だが、これでプライベートルームだというのだから驚きだ。

 そのプライベートルームの持ち主というのが『シェイム』である。

 

 無論、金持ち。

 しかし誰もが考えるような年老いた悪人面ではない。


 むしろルックス最良の爽やかな青年実業家。

 青い高級スーツに身を包んだ、おおよそ悪事にはなんの縁もなさそうな。

 そんな純粋ささえ感じるのだが……。


「そうかー、マヤって娘を見失ったか」


「あれだけアンタのならず者(オトモダチ)を導入したのに、残念だねー」


「まぁ仕方ないよ。このヘヴンズ・ドアは甘くないってことがわかった。ふふふ、面白い」


 もっさりとしたボリュームの赤髪をたずさえるアダルティックな女魔術師『キャロライナ』が酒をつまみながら彼をからかってみる。 

 だがそれを爽やかに受け流した。


「なんかウチらをかぎまわってるみたいだったけど……別に放っておいてもよくない?」


「いやいや、彼女のパパは前のパーティーで見たことがあってね。これはきっと思し召しってやつさ」


 そう言って軽快に上顎を舌で弾いてみせる。

 「コッ」と音を鳴らしながらウインクが様になるのは、きっと彼の才能なのだろう。


「ふふふ、マヤって娘さらって、人質にしてから利用するってわけね」


「人聞き悪いなぁ。……そっちの研究はどうなってるの?」


「そんなほいと聞かれて"はい順調です"なんてあると思う?」


「あっはっはっ! 違いない! でも許しちゃう。君の実験は面白そうだから」


「そりゃどうも。……んで、そういうアンタの計画は?」


「もうすぐさ。このままいけば、街の支配権のほとんどは僕にうつる」


「アンタに? でもさ、たしかアンタの計画ってあれでしょ? 他国のギャングとか隣の国のお偉いさんとかに街の権利を一部売り渡す、だっけ」


「あぁ、そうだよ。でも完全にじゃない。そうすることで僕のバックに彼らのパワーをつける。そうなればどうなる? この街のパワーバランスは大きく変わるッ! ハッハー!」


 まるで友達に誕生日プレゼントを自慢するかのようなはしゃぎようだ。

 やり方や目的の薄汚さはあれど、彼の雰囲気からは悪人特有の邪悪さや不気味さはない。

 むしろ本当に、子供のように無邪気なのだ。


「そんなことしていろんなとこから怒られないの? この街の上位層とかさ」


「今すっごく怒られてるよ。でも気にしない気にしない。それに、僕がやっているのはこの街のためなんだよ?」


 大仰な手ぶりでまた「コッ」と音を鳴らしてからの指パッチン。


「僕はこの街をもっと素敵にカスタマイズしたいのさッ! ヘヴンズ・ドアの魅力はまだまだこんなもんじゃあない」


 そのための金と権力。

 たとえダーティーなやり方であっても、彼は支配者層に逆らい、街を自分色に染めたいと考えていた。

 なにより、この状況をとても楽しんでもいた。


 彼自身、優男という風に見られることは知っていた。

 なのでそんな男が裏ではダーティーなやり方をしているという、一種のダークな設定の自分が彼の心をくすぐっている。


「ハッ、だから最近ならず者を好き放題動かして地上げ屋まがいなことしたりしてたわけね」


「それだけじゃないよ。店も家も取り上げたこともあったし、潰したこともある。あ、一家心中なんてものもあったかな。でも、そんなのこれからのヘヴンズ・ドアに比べれば大した話じゃない。ふふふ、忙しくなるなぁ。これからヘヴンズ・ドアはとんでもない未来へ進むよ。ワクワクしないかい?」


「アタシはべっつに~」


「君は研究さえできればいいからね。もったいない」


「アンタが街をどうしようが勝手だけどさぁ。約束は守ってよ? ────この街をアタシの実験場にするっての」


「もちろんさ。君とはいいビジネスパートナーになれると確信しているしね」


「オッケー。じゃあ全力尽くすから」


「面白いじゃあないか。……じゃあそろそろヤードの動きを制限しないとね」


「おー、圧力ってやつ?」


「そのとおり。ふふ、こういうの見るの初めて?」


「そりゃ権力とか持ったことないもん」


「任せておいてよ」


 キャロライナは上機嫌で部屋を去っていく。

 シェイムはにこやかに見送った。


 このように彼の大きな特徴として『誰とでも仲良くなれる』というものがある。

 それは文字通り、ギャングや悪徳商人、ならず者といった悪人まで。


 善人の目線と悪人の目線、このふたつを同時に見て世界を見渡すことができる。

 そんなスリリングな経験ができる自分は特別な存在なのだと思うようになった。

 

 だから自分の住んでいる場所に悪人がいても、彼が怯えたりすることはない。

 むしろ人生がより刺激的になったと大喜びするのだ。

 彼らのふところにすんなり入り込み、取り入り、仲良くなる。

 

 "────皆、怖がるなんてもったいないなぁ。どうしてスリルを楽しまないんだろう? ギャングとか凶悪犯が自分の近くに住んでたりするなんて、演劇(ドラマ)みたいでクールなのにさ。僕なら喜んじゃうね"


 彼が悪人からも好かれる理由。

 善人も悪人も住むスリル溢れる区画を勝手に作ろうとして、結果悪人がその区画を乗っ取った。

 無論、彼の勝手な行動に抗議する者もいたが……。


 もはや実業家という枠を超えている。

 それほどまでに彼はこの街の闇というものに魅入られていた。

 

「ふふふ、ははは、ハハハハハハ!!」


 高笑いしたあと、バサッと上衣を脱ぐ。

 それなりに整った筋肉をたくわえた上半身をさらし、巨大な窓から街を見下ろす。


「僕の人生は"スポーツ"だッ!! ヘヴンズ・ドアという競技場で有終の美を飾る歴史上最高のアスリート。誰も僕を止められない…………………たとえあの、()()()()()()()といえどもね」


 興奮したように、そして悦にひたる顔で深呼吸をひとつ。


「悪く思わないでくれよヘヴンズ・ドアの諸君。この僕にターゲティングされた……それが運のつきなのさ。──BANG」


 指鉄砲の形を作るようにして街のネオンに狙いを向けた。

 またしても一癖も二癖も強い敵が、ゲオルたちの前に現れようとしていた。

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