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ヘリアンテスへの道

「今回の女の子探しにゃオレたちのような貧民層の人間にも声がかかってる。知り合いの何人かは金を貰って参加してるらしいが。手がかりはゼロ」


「アナタは参加されなかったのですか?」


「金がもらえるのはありがたいが、嫌な臭いがしてね。こういうときの嗅覚は鋭いんでさ」


「この街のならず者だけか?」


「いや、実際はそうじゃないらしい。どうやら外から招き寄せたのもいるらしいぜ。街の荒れくれ者はある程度把握してる。どの地区にどんなやつがいるかはな。だが、どうも別の土地から来ましたって臭いの奴もちょくちょくいるんだ。ケッ、気色悪いったらねえ」


「外からも勢力を集めてるってこたぁ。今回の黒幕はけっこう顔が効くな」


「そいつの好き勝手にされてるようで居心地悪いんだよオレぁ。だが、連中はやりすぎた。とうとう死人がでたぜ」


「死人ですって?」


 ティアリカの顔が険しくなる。


「それぞれの区には区長だったり、それに該当するようなリーダーがいるのは知ってのとおりだ。だが、そこの区長がめっちゃ怖いのなんの……」


「そこはどこだ?」


「ティアリカさんはたぶん聞いたことあるだろう。────ここから北東の、『ヘリアンテス』って言われる場所でさ」


「ヘリアンテス? ……まさか、そこが」


「知ってんのか?」


「そうですね。少しばかり。ゲオルもこの街で住む以上、今のうちに知っておいたほうがいいかもしれません」


「ヘリアンテスか、どんなところだ?」


 ゲオルの質問にウォン・ルーはニヤリとし、


「ヘヴンズ・ドアで最も治安がよく、最も危険な区さ」


「おいおい、矛盾してるぜ!」


「してねえさ。そこの区長に会えばわかる」


「な、なんだぁ?」


 ヘヴンズ・ドアにきてだいぶたつが、まだまだ知らないことだらけだ。

 その中でもヘリアンテスなんてものは今日聞いたばかりのワード。

 それだけおぞましそうに表現されるというのに、今まで街の話題にならなかったのはどういうことだろう。 


「ゲオル、この街にはこういう暗黙の了解があるのです。────ヘリアンテスには用もなく立ち入るべからず、と」


「な、なに? 隔離されてんの?」


「そうではありません。ヘヴンズ・ドアは一応この区を観光地のひとつとして開いているのですが……」


「なんだよ。観光料がべらぼうに高いとかそういうのか?」


「ほかの層や区に比べて、異様なまでに統制がキッチリしてるというか……プライドが高い魔導衛士すらもその場所では大人しいくらいに」


 ゲオルはミスラを想像してみる。

 キーキー文句を垂れる彼女がその場に送り込まれただけで、一瞬にして借りてきた猫のようになる姿を。


「…………興味がわいてきたな。で、そこで死人が出たって?」


「ならず者どもが処刑されたのさ。区長の命令でな」


「なに? 区長にそんな権限があんのか?」


「どうだろうな。でも、やったってのは事実だ。それに、あの街じゃならず者以外にもトラブルがあった。知ってるだろ? 死者の行進だよ」


「おいおい、そんな場所でも出たのか!?」


「ありえねぇ話だぜ! ヘリアンテスであんなことがあっただなんてガキのいたずらじゃ済まされねぇ」


 さまざまな思惑が交差するヘヴンズ・ドアに異色の存在感を放つ場所ヘリアンテス。

 ゲオルは新たな道筋を見つける。

 

「ここから北東だったな」


「え、おいおい、まさか行く気か?」


「行かねえわけにはいかなくなった。連中の企みを暴くにゃ情報が足りねえからな」


「ウォン・ルー。どうもありがとうございました。大したお礼もできませんが、今度私の奢りで一杯いかがです?」


「マジで!? もうっ! もうっ! いくらでも頼ってくださいよ!」


「おう悪いな」


「お前にゃ言ってねえサッサと行け」


「この……ッ!」


「さぁ、行きましょうゲオル。案内しましょう」


 ティアリカの案内のもと、ヘリアンテスのある区画までの道のりをゆく。

 道なりを進むにつれて人込みを増えては減ってを繰り返すも、どこか空気が重くなったような感覚を覚えた。


 いつもの楽し気な賑わいの中に、死の気配が見え隠れしている。

 心なしか行きかう人々の表情にも、どこか緊張の色があるのがチラホラ。

 特に今から向かう方向からやってきた人間に、その兆候が見られた。


 ヘリアンテスに近づいていくにつれ、ヘリアンテスを囲む城壁めいた塀と門が見えてくる。

 黒々しく、それはほかの区域を拒絶しているかのような威圧感をはらんでいた。

 市場を通り、並木道の先にあるその門の隣には……。


「なるほど、こりゃあ……」


「私もここまでくるのは初めてです……」


 ふたりの険しい表情の先にあるのは絞首台だ。

 ウォン・ルーが言っていた殺されたならず者たち3人。


 それぞれの遺体に札がかけられている。


『敬意』


『反省』


『罰』


「……美的センスはなさそうだ」


「行きましょうゲオル」


 ティアリカは遺体に向けて祈りの印を指で切る。

 ゲオルは顔をしかめながら門のほうへと歩いた。


 幾人かの行列がある。

 2つにわかれており、荷車などが入る門と人のみが入れる門とがあった。


 門番の衛兵の目はつねに厳しく、入ってくる人間ひとりひとりを注意深く見ている。

 とてつもない緊張感とわずかだが苛立ちすら感じられる顔で、順番が回ってきたゲオルたちを見つめた。

 

 街の住民も旅行客も一切関係ない。

 まるで国家間の関所だ。


「ようお兄さん。ステキな飾りつけだが、ヴァルプルギスにゃまだ早くないかい?」


「黙ってろ」


「連れが失礼しました。なにやら重苦しい雰囲気でしたので少し気になって」


 ティアリカの申し訳なさそうな顔と声色に衛兵がひと息つくと、


「あのならず者をいれたのと、死者の行進のせいで区長直々におしかりを受けてんだ。衛兵の怠慢だとね」


「そりゃそりゃ」


「だから今まで以上によそ者に厳しくなってる。悪く思うなよ。嫌ならほかの区へ行くんだな」


「いんや、ここがいいんだ」


「オタクら、このヘリアンテスに来た目的は?」


「仕事だよ」


「それを証明するものは?」


「ない」


「ふざけてんのか?」


「俺ぁ、『何でも屋っぽいの』ってのをやっててな。それなりに顔がきくんだが」


「……名前は聞いたことあるな。だがそれって、荒事を起こそうって意味なんじゃないのか?」


「俺は今回の件を解決しようと頑張って動いてるんだぜ?」


「アンタらが? にわかには信じられ────」


 そのとき、門の向こう側から新人とおぼしき衛兵が彼の元へやってきて耳打ちする。


「なに?」


(…………?)


「……区長がお呼びだ」


「なんだと?」


「ヘリアンテス区の長が私たちを? なぜ?」


「知らんよ。区長が通せと言っているんだ。俺たちはそれに従う。さぁ通れ」


「なんかわからんが、行こうぜ」


「は、はい……」


 門の向こう側、ヘリアンテスへ通じる門をくぐる。

 その先にある光景は、これまで見てきたヘヴンズ・ドアのものとは一線を画していた。


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