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ガキのお守りはと思ってたんだが

「Oh、ゲオル……とうとう子供に手を出したカ」


「しかも、ギャルっぽい、カナ? ティーンエイジ・ガール、ネ」


「ティアリカに背後から、グッサリ」


「おいそこうるせぇぞ!!」


「あ、あの……」


「あぁいい。入れ入れ。とりあえず支配人室いくぞ」


 支配人のところへいくと当然の如く驚かれた。

 自分のところの用心棒が到底縁がないだろう学生を連れてきたのだ。

 その社会的な危うさが一瞬で支配人のシナプスを駆け巡る。


「待て、みなまで言うな」

 

「待ってほしいのはこちらだよ。その制服、あ、あ、あれだろう!? 親御さんに知れたらどう説明するつもりかね!」


「別に働かそうと思って連れてきたんじゃねえ。安心しろ。コッチの仕事だ。応接室を貸してほしい」


「なら君の事務所でやればいいんじゃないのかね!」


「そうしたいのは山々だったんだが…………あぁ~」


「……ハァ、なるべく早く、そして見つからないようにお引き取り願うように」


「あいよ。いつもあんがとな」


 応接室を貸し切り、ゲオルはマヤから話を聞くことに。

 終始、慣れない店の雰囲気にソワソワしていた彼女だが、向かい合いながら出された紅茶をひと口ふくむとようやく口を開いた。


「人を、助けてほしい。私の大事な人……」


「恋人?」


「そ、そういうんじゃない! えっと、その……」


「わかりやすい反応しやがって。それで?」


 マヤは写真を取り出し、


「この人はローラン。研究者で、私の憧れの先輩。すごいんだよ。私が学院に入学したときから有名人で、卒業してからもずっと連絡取り合ってたんだけど……」


「連絡が取り合えなくなったのねん」


「そう。自分の研究で世の中を良くするんだって張り切ってて。でももう……」


 話を聞いているうちに脳裏によぎるこれまでの事件にゲオルは目を細める。

 研究所がホプキンスの襲撃を受けたとき、もしもそのローランが被害にあっているとしたら。


「研究所は以前、賊に襲われて大変なことになってたらしい」


「え!?」


「あれ、知らなかった? 一応聞くが最後に連絡をとったのはいつだ?」


 ゲオルの情報に一縷(いちる)の望みを抱く。

 マヤは封筒を取り出した。最後の消印はあの事件の以降となっている。


「ひとつ聞くぞ。いや、ふたつか」


「……なに?」


「お前に覚悟はあんのか?」


 覚悟。

 それはローランの死を意味していた。

 彼女はそれをわかっているのだろうか?

 小説や言伝に聞いた死とは違う。

 身近な人間の、ましてや憧れの人間の死だ。

 直面したとき、心身にどれほどのショックを受けることか。

 その可能性もあるということを捨てきれないということ。


 つまり最悪の事態も想定せよとのことだったんだが。


「わ、わかってる」


 余計不安にさせたようだがゲオルはかまわず続ける。 

 

「もうひとつ。金。依頼するには金がいるんだ。報酬だよ」


「報酬……そうだよね」


「高いぞ。研究所に忍び込むことにもなりそうなんだからな。ツテはあるのか? 親は払わないんだろどうせ」


「…………」


 マヤはうつむいてしまった。

 そこらへんにもまた複雑な事情があるようだ。

 

「働く。学院辞めて、少しずつ払っていきます! だから!」


「……帰んな」


「ッ!」


「ガキの人生壊してまでやる気はおきねぇな。いいか、行方不明探しなら衛兵(ヤード)に頼むか、親にキチンと相談するかなんなりしろ」


「……アンタも、そういうんだね」


「100人中100人そう答えるさ」


「でもわかってんでしょ? 人探しするってだけで、私の父親の部下とか、研究所が送り込んだ人とかが私を追っかけまわしてる。衛兵にだってきっと手を回してる! そうに決まってるよ!」


「じゃあどうしようもねえ」


「便利屋なんでしょぉ……?」


 だからそんな潤んだ目で俺を見るな。

 そういうように目を細めながら言った。

 

「そこまでの規模で動いてるってことは敵もそれ以上の戦力を備えてる。わかるか? よく知らねぇ奴のために戦争するようなもんだ。ガキの小遣いで割に合うもんじゃない。……こっちも商売でね」


「だったら! ……その、えっと」


 代案はなさそうだ。

 応接室のドアを開けてお帰り願おうとしたとき、


「入るよ」


 意外、ユリアスだった。

 どうやら気配を消してずっとドア越しに聞いていたらしい。


「どうした?」


「いや、君が女の子を連れ込んだって聞いたから、どんな子かなって」


「語弊!」


「冗談だよ」


「ほら、お前も突っ立ってないで、さっさとお勉強でもしにいきな」


「あ、断ったんだ」


「軍服どもの管轄だ」


「……そっか」


 ゲオルが立ち去っていく。

 そんな彼のどうしようもない憂いを帯びた横顔を見ながら、ユリアスはマヤに近づき、


「ねぇ、君さ……」


「…………?」


 ユリアスがマヤになにかを聞いたあと、『ある提案』をした。

 それはマヤにとっても最後の希望だった。


 その次の日、ゲオルは顔をひきつらせることになる。


「あのー、ユリアス…………さん?」


「なにかな?」


「なんで……そのガキが、厨房に?」


「みればわかるでしょ。皿洗い要員」


「いや、そういうことじゃなくてだな」


「いいから早く仕事してよ。仕込みとか大変なんだからさ」


「あぁ、はい」


 ゲオルはジャガイモの皮むきを開始する。


「おい、おいったら」


「なに……?」


「どういうつもりだよ。学院どうした?」


「休んでるに決まってるじゃん。今行けるわけないし」


「……ユリアスだな? アイツになに吹き込まれた」


「依頼を受けてもらうために私だって……」


「いや、あのなぁ~~。あーあ、支配人の胃がヤバそうだなこれ」


 愚痴っているとユリアスが割って入ってきた。


「別にいいさ。人手不足なのにずっと人員補充しないのが悪いんだ。……別段珍しいことじゃない。もしかして子供が働くの見るの初めて?」


「そういうことじゃねぇ。学院のガキを働かせてんだ。ヘタすりゃタダじゃすまねぇぞ?」


「そうなる前になんとかしてよ。……今回はマヤだけじゃなく、ボクからの依頼にもさせてもらおうと思ってさ」


「……どういうことだ?」


「仕事が終わったらきちんと説明するよ。さ、仕事仕事!」


 色々とモヤモヤを抱えつつも時間は過ぎていき、3人は落ち着ける場所で話し合うことに。

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