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追われ身の少女

第4回一二三書房web小説大賞にて銀賞いただきました!!

 ある日の朝、ゲオルはドアを叩く音に目覚める。

 酒は飲まなかったのに、頭痛がした気がした。

 少し開けたドアの隙間から見えたのは、ショートヘアの女の子だ。


 グリンデルワルト魔術学院の制服に身を包んだ少女はゲオルを見上げるように見つめ、


「かくまって」


「ハァ?」


「いいからかくまってってば」


 少女はイライラしたように貧乏ゆすり。

 そんな落ち着きのない彼女を足から頭のてっぺんまで見る。


「面倒事なら親か教師にでも頼むんだな」


「ちょっと、大声だすよ?」


 ゲオルが閉めようとするドアに足をはさませ、最後の手段と言わんばかりに睨んだ。

 どんな大人にも社会的立場というものがある。

 それを失うことはすなわち死を意味する。

 大人にはこれが効く────そうふんでいたのだが、


()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「え?」


 思いもよらない返答に少女はつまった。

 ゲオルはドアから出て鍵をかけてから屋上へと向かう。


「ちょっとどこいくの?」


「朝の運動」


「ハァ? だからかくまってって!」


「やめとけ、素人が考えそうなこった」


「どういう、意味?」


「誰かに追われてんだろ? 相手は数人、たぶんチンピラじゃねえな」


「な、なんで……」


「足」


 ゲオルは端的に答える。


「あの区域からここまでで来るのにそこまでソックス汚れるレベルにはならねえ。となれば慣れない裏路地を走りまくったか」


「そ、そうじゃないかもよ?」


「チンピラだったらそのへんの衛兵にでも頼みゃいいだろ。でも俺のところに来るってことはもっと厄介なこと……どうだ? 半分くらい当たってるだろ」


 屋上についたゲオルは屈伸やアキレス腱のばしなど軽い運動をしながら推理を広げる。

 朝日を浴びながら寝起きの筋肉がほぐれていくのを感じつつ、少女のほうへ向き直った。


「……まぁ、アタリかな」


「おお、俺ぁ朝型じゃねえんだが頭の回りはいいみてえだな。じゃ、そろそろ移動すっか」


「移動ってどこへ? 私、助けてほしくて」


「ん、だからこうする」


「え、キャァ!」


「しっかりつかまってろ。大声出すなよ。最期の朝食(モーニング)が自分の舌なんて嫌だろ?」


「だからってお姫様だっこって……ちょっとなにする気!?」


「飛ぶんだよ」


 少女の反応よりゲオルの行動が早かった。

 少女を抱え屋根から屋根へ、屋上から屋上へ。

 駆けて、飛んで、下りて、また駆ける。


 腕の中の少女がどんな顔をしているかなど知らない。

 生きていることはたしかだが。


 彼の涼しげな視線の先に、朝日と建物の陰影映る。

 いつもと違う通勤路もいいものだと、少女の恐怖なぞいざ知らずのん気に考えていた。


 そんなこんなでたどり着いたのは、キャバレー・ミランダがある区画の裏路地。


「ほい、おつかれさん」


「…………」


「おい、怒んなよ。誰にも見つからないで済んだんだからいいだろ?」


「よくないよ! 死ぬかと思ったんだから!」


「しょうがないだろ。俺だって出勤だったんだぜ? ワガママ聞いてやっただけでもありがたく思ってほしいね」


「……ふん」


「お前、名前は?」


「マヤ。グリンデルワルト魔術学院2年」


「ほーん、俺のとこへ来たってことは、俺けっこう有名人だったり?」


「噂にもなってたし、通学路でも何度か会ったよ?」


「マジで? 覚えてねぇや」


「…………放課後、会える?」


「さぁねぇ? 今日は朝から厨房の仕込みの手伝いに、荷物運びの手伝い、あとは夜の準備の手伝いと清掃、えーっと……ま、大人は忙しいんだよ」


「わかった。じゃあ頼みがあるの」


 タバコに火をつけようとしたときだった。


「アンタが働いてる店にかくまって」


「うっ、ゲホッ!」


「そんな驚くこと? 追われてるんだから当然じゃん。いいでしょ?」


「いいわけねえだろ! 学校行け!」


「行けると思ってんの?」


「家に帰れ」


「そんなの、無理だし」


「なにがあったかは知らねぇが俺の出番はここまでだ。あとは自分でなんとかしな」


「ちょっと! アンタ便利屋なんでしょ!」


「依頼受けてねぇ」


「じゃあこれが依頼! 私を守って!」


「金はどうするんだ?」


「それは……」


「いいとこのお嬢さんっぽいが金に関しては全権握られてるって感じか? 悪いがヨソいきな」


「待ってよ! アンタ、人情とかないの!?」


「さっきので品切れだ」


 タバコをくわえなおして路地裏から出ようとするゲオルの背後でマヤは泣きそうになる。

 だが気にもとめようともせずにそのまま進む、のだが…………。


「なんでついてくる」


「そっちが仕事場なんでしょ」


「お前さぁ、俺がどんなとこで働こうとしてるか知ってるのか?」


「知らない。バーとかそういうの?」


「それにギャンブルと女を足した場所だよ。ついてくんな」


「いや!」


「おうおう、大声だせだせ。そんで見つかりゃあいいんだ」


 金持ちの厄介事はろくなことがない。

 しかも報酬があるかないかもわからない。

 朝早くに押しかけられてこうなのだからゲオルもいまいち気が乗らなかった。


「お願い! 人を助けたいの!!」


 この言葉を聞くまでは。

 立ち止まってメンドクサそうに頭を掻く。

 店はすぐそこ。無視して中へ入る簡単な動作で終わるというのに。


 声色で直感した。

 そして振り向いたときに見た彼女の泣きそうな顔で確信する。

 

「話だけ聞いてやる。ついてこい」


「……うん」


 このあと、店の従業員から奇異の目で見られたのは言うまでもない。

 

 

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[一言] なんか、便利屋がする仕事じゃないような…
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