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獣法 ーアギトー

「オイラ、可愛い道化のミルディンさ。この世で最高のエンターテイナー」


「ふぅん。それ商売道具? でっかいナタ。大きさだけならお揃いね私たち」


「あぁ本当だね。……だが、力はどうかな?」


「力比べは大好きよ」


「オイラもさウヒヒ。さぁ行くぞ!! ひぃいいぃあぁぁあああッ!!」


「はぁぁあああッ!!」


 現れたのは奇妙な道化師だ。

 オルタリアは恍惚なる瞳に艶やかな殺意を宿し、先ほどまでの敵とは違う実力の彼と剣を交えた。

 

 戦闘及び解体に特化した巨大な武器を操るふたりの間に、強大な闘気の渦が巻き起こった。


 血溜まりは震え、骸の骨はパキパキと音を奏でる。

 その異常な気の流れにあおられたリーダーはその場にて腰を抜かした。


「豪快だが不思議な太刀筋をするな」


「刺激的でしょ? この方が男が喜ぶのよ」


「ウヒヒヒヒヒ。オイラも大好き、さッ!!」


「なんのぉ!!」


「そらそらそらそらああああ!!」


(お、お、おぉお。あの女と互角に渡り合っておる。……か、勝てるかもしれんぞ! そうだ私だってこんなこともあろうかと豪傑を召し抱えていたんじゃあないか! いいぞ、そのまま斬り殺せ!!)


 迫るナタの刃を挟んで受け止めると火花が飛び散る。

 オルタリアはミルディンの背後に素早く回り込もうと、踊り子のように軽やかに身を捻ると、一気にヤクシニーを分裂させて斬りかかった。


 その重みに耐えるようにナタを盾にしながら身を返し、オルタリアの攻撃をいなしていく。

  オルタリアは彼の膂力りょりょくに口笛を吹いて称賛しながら、軽い身のこなしからなる素早くも重い一撃を繰り出していった。

 パワーではミルディンが上で技能においてはオルタリアが上。


「隙あり。もらったぁあああ!!」


「あっ!」


「やった! あの女の脇をえぐったぞ! いいぞそのままやれ! 殺せ! いいかミルディン。ここでソイツの首を取れば出世は思いのままだ!」


「クヒヒヒ、言われるまでもない、ねぇえ!!」


「く……」


「どうしたんだい? 動きが鈍っているよぉ? さぁこれで、終わりだぁ!!」


 ザシュウウウウウウウッッッ!!


「か、ふ……」


 オルタリアの攻撃を見切ったミルディンが彼女の首筋に一撃入れる。

 そして武器を落とした瞬間を見計らい、勢いそのままにナタで胸を斬り裂いた。


 まさしく致命の一撃。

 オルタリアは両膝をついてうなだれるように脱力した。


「お、おぉ! 見事じゃミルディン! ハッハッハッ! まさか、貴様にこのような力があったとは」


「クフフフ、まぁだだよリーダー様。あの女、まだやる気……クフフフ」


「当ったり前よ……。この程度で、くたばるわけないじゃない」


「いーっひっひっひっ! 大ウソつき~。今のお前にそのデカブツを振り回せるほどの力がある、と────」


 ────ジョキン。


「ん、なんだこの音は?」


「んぐ? ……ぎぃ?」


 ジョキン、ジョキン、ジョキン……。


「な、なんだこの痛み、うぐ、ぎ、ぎぃいいい!?」


「お、おいミルディン……どうしたオイ! しっかりしろ!!」


「ぎぃぃいあああああああああああッ!?」

 

 断末魔を上げて身体を掻きむしり始めるミルディンにリーダーはなにが起きたかわからずオドオドし始める。


「い、痛い……ッ! 痛゛い゛痛゛い゛痛゛い゛痛いぃいいいいいいいいいい!!」


「ひ、ひぃいいいいいいい!! ち、血がぁあああ!」


 身体のあらゆる部位から血が噴き出し、稚魚の群れのように出てきたのは"真っ赤なハサミ"だ。

 血でできたそれはミルディンの身体を食い破っていた。


 腕から、腹から、足から、背中からと、異様な金属音とともに肉体を斬り裂いて地面へと落ちていく。

 体外へ出たハサミは役目を終えたのか、元の血液へと戻り、血だまりになっていった。


「な、なんだこれはぁぁああッ!? なぜ、オイラの血が……ッ!」


「ま、まさか魔術か!? それとも呪いか!?」


「どちらでもない……これが私の能力。いいえ、獣法アギトと言ったほうがわかりやすいかしらね」


「あ、アギ……」


「特異、体質者……だと!?」


「私は血を操れる……火の獣法アギト。私を殺した者は、その血を以て償うこと……それじゃ、数秒後まで……ごきげん、よ、う……」


 ドシャリと倒れた直後、ミルディンを襲ったのはハサミよりももっと大きなものだった。


 今にも弾き出そうに、それはミルディンの腹の中で蠢いている。

 ボコボコと波打ち、火のように熱い。


「あぐッ! あぐぉおおッ!! なんだ、どうなっている!? ぐぉぁああああッ!!」


「ひぃいいいッ! こ、今度はなんだというのだ!! もう終わったのではなかったのか!?」


「ぎぃいああああッ!! ぎぃぃいいいあああああッ!! ……────ゴバァッ!!」


 ミルディンの腹が急激に盛り上がり、一本の腕が内側から突き破って出てきた。

 血と臓腑を噴き出しながら出てきた存在に、リーダーは形容しがたい悪寒に襲われる。


 ボグチャアアアアアアアアッッッ!!


「ひ、ひぃいいいいいい!?」


「ハァ~イ、リーダー様。さっきぶりね。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 血に濡れながらも快活な姿を見せるオルタリアだった。

 これが彼女の持つ不死の能力、『火の獣法』である。


 血とは生命の熱。

 体内を円環するエネルギーにして、魂が宿す光明と暗黒を暗示する因子の通称。


 彼女はそれを操る術を持っていた。

 術者であるオルタリアを傷つけた敵は、自らの血を以てその罪を償う。


 仮に彼女を仕留めたとしても、彼女の死体もしくは殺した敵の血肉を媒体に再誕させるのだ。


 まさしく殺しても死なないとはこのこと。

 心臓を抉られようと、身体を細切れにされようと、何度でも復活する。

 それはさながら不死鳥のように。 


 オルタリアの格好は、相手に精神的な刺激を与えることにも役立ってはいるが、それ以上に能力を活かすことでもあった。

 極限まで防御力を落とすことで、獣法が発動しやすくなる。


 そしてなにより、最高のスリルが得られるのだ。

 もぎ取った勝利だけでなく、ときとしてそれは痛みや死からも感じ取れる。


 戦うたびに、自らの血も滾るのだ。

 その勢いは鋭い槍で貫くように留まるところを知らない。


 そして今、ミルディンに向けられていた眼光と歪んだ口角はリーダーへと向けられる。


「ま、待て……待ってくれ!」


「なによバースデーケーキでも焼いてくれるの? ダメ、待てない」


 そう言うや足元の剣を蹴り上げるようにして手に取り、リーダーににじり寄る。

 恐怖で自由が利かなくなったリーダーは声を張り上げながら命乞いを続けようとするが、口の中に切っ先を入れられた。


「はがッ……が……」


「じゃあ、ふたつだけお願い聞いて?」


「……ッ!」


 リーダーはこれが最後の希望と言わんばかりに、口内を斬らぬよう頷いた。


「……オフロどこ? 血でべっとりだから洗いたいの。あ~あ、こんなことなら自分の死体から出てくればよかったわ、もう」


 リーダーは風呂場のあるほうを指差した。

 詳しく聞くと下の階の割とすぐ近くだ。


「はいありがとね。じゃあ最後のお願い」


「は……はは……」


「アンタの首ちょうだい」


「へ? ……────ぐばッ!!」


 直後、リーダーの首なし胴が力なく倒れる。

 驚愕の表情をしたリーダーの頭部は廊下の突き当たりまで勢いよく転がっていった。


 オルタリアは任務を終えた。

 自分の死体は突如火を噴いて燃え始める。


 能力によって一定時間放置するとそうなるようになっているのだ。

 灰、そして塵芥ちりあくたとなったのを見届けると、オルタリアは軽快に口笛を吹きながらリーダーの首とヤクシニーを手に取り、浴場へと降りて行った。



「なんて女だ……」


「アギト……」


「どうしたティアリカ。アイツの力がそんなに気になるか? そういや、数千人にひとりの割合のもんって聞いたことがあるな。……旅で敵として出会わなかったのが奇跡だったのかもな」


「そう、なのかもしれなせんね」


「ハハハ、驚きを隠せないって感じだなぁ。まぁ俺もそうだ」


 オルタリアの実力を知ったことで満足したゲオルは彼女を連れてその場を去った。

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