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ゲオルたちの代わりに

「行動隊のお出まし……とすりゃ目的はカチコミだな」


「報復、でしょうか?」


「それ以外にねぇだろ。ヘシアンがいつまでたっても帰ってこねえから返り討ちにあったと思ったんだろ。恐らくまだエジリが生きてるって考えてるか、はては……」


「私たちのことを探しているか……」


「大それたことしやがるな。並の武装じゃねえ。連中も落ちるところまで落ちたってことだ」


「そんなことを言っている場合じゃありません。このままだと民間にも被害がでます。それだけは避けないと」


「……ここは一旦退こう。アイツらだって初っ端からドンパチやらかすつもりはないだろうからな」


 ふたりは反対側の地区まで離れ、適当にカフェへと寄っていく。


「因縁が付きまとうのは俺たちの宿命ってか」


「悠長なことを言っている場合ではありませんよ。行動隊をなんとかして追い出さなくては」


「追い出したって、このままじゃ連中はいくらでも兵隊を送り込んでくるだろうぜ。根こそぎぶっ飛ばせりゃいいんだが」


「それって……戦争という意味ですか?」


「できりゃしたくはないがな。だがそこは国やら都市のお偉いさんの役目だ。それに、戦争するにしたってアイツらも金や人員をこれ以上ぶっこむわけにゃ行かねえだろうし」


「それは、確かに……」


「噂によれば偽勇者一行が死んだあと連中の地盤はかなりガタがきてるらしい。上層部が今の地位を保つのに必死で、下の連中まで()()()()()とやらが通らねぇんだと」


「……昔は、そんな教団ではなかったのに」


「俺たちが旅に出てたときにはもうすでに連中は変わっていたんだ。信仰より利益、信念より権力。まぁ兆候はあったんだろうが、誰も咎めなかったんだろ」


「どうして誰も止めなかったのでしょう。正しく教えを守ればそんなことには……」


「教えは守るよりなすりつけるほうが得って考える奴もいる。旨味欲しさにな。人間の哀しい性ってやつだよ。……改心させようだなんて考えるな? 会話が通じるとも考えるな。あそこまでいった人間はもう止まらねぇ。誰かにブチのめされるコンマ1秒前までそのまんまだ」


 ゲオルは吐き捨てるように忠告したあと、すっかりぬるくなってしまったコーヒーを喉にとおす。


「まだ時間はある。アイツらを監視して動きをみよう」


「そうですね。しょげてる場合ではありません。私たちができることをやりましょう!」


「いい返事だ」


 こうしてふたりでの監視が始まった。

 行動隊は建物を買い取りそこを根城にしているようだ。


「大がかりなことしちゃって」


「思った以上に集まってきてるみたいです」


「物量作戦で押し通す気なんだろう。こりゃ俺たちにブチ当たるのも時間の問題だ」


「どうします?」


()()()()()()()()()?」


「まぁ待て。ここは様子見をだな……おい、今の声」


「はっは~い、私だよ。さっきぶり~」


「オルタリアさん!? どうしてここに」


「カザクリがね、観光でもしておいでって。そしたら危ないニオイを嗅ぎつけちゃったってわけ」


「んで、俺たちを見つけたわけか」


「そそ、で、アイツらなんなの?」


 べったりとゲオルの背中にくっついて、ジャガンナート教団の動きを見る。

 建物の一階から三階までじっくりと観察し、思い付いたように指を鳴らした。


「ねぇ、この一件私に預けてみない?」


「なに?」


「ど、どういう意味ですか?」


「見た感じアンタたちは因縁の相手に手が出せないでいる。そして私はドンパチやりたいって思ってる。利害一致してない?」


「利害一致してない? ……っておいアンタなぁ。これは」


「じゃあほかにいいアイデアがあるの? こうして隠れてるってことは穏便にすませたいけど方法がない。それと衛兵に知られたくない」


「まぁ、知られてはいるんだろうが……手が出せないのはあっちも同じだ」


「でも時間をかけるのはよくない。でも私は違う。アナタたちが手を下さずともサパッとやれる」


 確かにまだ関わりの浅いオルタリアが行動隊を撃破すれば、連中もこの街の危険さを十分に理解することになるので、また攻め込むことは困難かもしれない。


 しかも本人は血に飢えているらしく欲情してしまったように興奮しながら身体をくねらせている。


「本来は俺たちの案件だ。そんじょそこらの荒事とは違う。……それでもやるのか?」


「そんなこと言われたら、興奮通り越してもう収まりつかないわよ」


「え、ゲオル。いいんですか?」


「本人がやりたいって言ってるし。それに、俺も実際見てみたい。オルタリア・グレートヒェンって女の実力をな」


「ずいぶん高く買ってくれるじゃない。燃えてきた。ディナーの予約しといてねぇ」


 そう言うやオルタリアは自慢の得物を背負って建物のほうへと歩いていく。

 忍び寄ることもなく、正面から堂々とナンパをしかけていくように。


 そう、異質なまでに平然としていた。

 硬い靴底は軽やかな音色を立て、さりとて敵に向けられる殺意は重厚そのもの。


 ガシャン、と音をたて武器を持つ。

 『ヤクシニー』の名を冠した、自分の背丈ほどある巨大なハサミ。

 凶悪なデザインからなる不気味なフォルムに沿うように、刀身と切っ先にかけて不気味な光を宿す。


「お、おいなんだ貴様……」


「ここをなんだと心得るか! 下品な女め……さっさと立ち去れ!」


「おい近づくな。近づくのなら容赦は……」


「イィィィイヤッホォォオオオオオオオオオ!!」


「な、ぐはっ!」


「なんだこ……ぐふぅ!!」


 電光石火、瞬く間に見張りを蹴散らしてしまった。


「さぁ、上げていくわよ!!」

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