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悪名高きホプキンスの行方



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「魔導教授で、判事も兼ねていた偉い人だったんですが……性格的に暴走しやすい人でして。最終的にはすべて失ったみたいなんです。」


「それが2年前、か」


「当時はそれからは浮浪者になっただとか野垂れ死んだだとかゴシップが絶えませんでしたけど」


「それがジョン・エドガー・ホプキンスって男の物語か……」


「私がまだ生徒会の新入りだったころの話です」


「それが今回となんの関係がある?」


「実は殺された彼、生前よく知らない人間と話している姿が目撃されているらしいんです」


「知らない人間?」


「ええ、黒ずくめで背が高い髭面の……」


「そいつがホプキンスだって?」


「確証はありませんが背格好とかも一致してるなって。以前にもそういった男性がほかの生徒に近付いてきて話しかけたってことがあったらしいんです。内容まではもう覚えていませんが……」


「そうかい……ありがとよ、参考になった」


「いいえ、その、頑張ってください」


 手掛かりを得たゲオルは再び街へと出かける。

 向かうは図書館。

 そこでホプキンスのことを調べられるだけ調べてみることに。


 ────冤罪王ホプキンス、迫害王ホプキンス、虐殺王ホプキンス、恫喝王ホプキンス、焚書王ホプキンス、妄言多謝ホプキンス、言いがかり判事ホプキンス。


 資料に乗っている7つの異名は、彼がどれだけ過激な思想の持ち主かを物語っている。


「すごい数だな。100個集めりゃ豪華商品と交換ってか」


 むしろここまで異名を得るまでなぜ放っておいたのか。

 彼の所業に呆れながらも情報をまとめていく。


 時刻は正午。

 近くの出店でヌードルを箸ですすっていたときだった。


「いよう、新入り」


「ウォン・ルー、だったな」


「おう、オレにもコイツと同じのくれ」


 そう言ってゲオルの隣にドカリと座り、首にかけていたタオルで顔を拭う。


「オレへの挨拶もなしにまだ仕事続けてやがるとは……」


「またやろうってのか? やめときな、今度は恥じゃ済まねぇぞ」


「ふん強がり言いやがって」


 店主に渡されたヌードル勢いよくすすりながら悪態をつき続ける。


「礼儀ってもんがあるのを知らねぇらしいな。この街じゃ同業の先輩の顔を立てるもんだぜ? オレもそうしてきたんだからよ」


「あいにくそういうめんどくせーのはお断り」


「ふん、長生きできないタイプだな」


「かもな。で、なんで俺と飯食ってんだ。払わねぇぞ」


「そういうことじゃない。お前、人探ししてんだろ?」


「さぁな」


「とぼけんない。お前は情報網の扱いがなってねぇ。そんなんじゃ先回りされてすぐに手柄を横取りされちまうぞ?」


「また情報網か。お前も街中に情報網を張り巡らせてる口か?」


「当たり前だ。だからちょいと調べりゃお前がなにしようとしてんのかすぐわかる」


「プライバシーもへったくりもねぇな。探偵とストーカーは紙一重ってか?」


「人聞きの悪いこと言うな! 横取りなんて不粋なことは仁義に反するってんだ。だがお前みたいな礼儀知らずはすぐに食い物にされちまう。先輩からの忠告は聞くもんだ」


「なるほど……一理ある、か」


「この街で新しいことやろうとすんのは大変だぞ」


「だから俺の仕事に関わらせてくれって? あわよくば分け前も寄越せと?」


「ご明察!」


「こんなことでご明察って言葉聞きたくなかったよ」


「へへ、いよっし。そうと決まればオレも手伝ってやろう」


「おいまだなにも……」


「なぁに心配すんな。オレは探偵の腕も一流だ。調査に荒事なんでもござれ! どうだ、これでもまだ拒むってのか?」


「……しゃーねー。人出は多い方がいいかもな」


 やれやれと肩をすくめながらヌードルをすすり切り、スープも飲み干す。

 コンビでの行動が始まった。


 ウォン・ルーの持つ情報と土地勘はかなり有利に仕事を進められるかもしれない。

 

「ジョン・エドガー・ホプキンスねぇ……、そういや聞いたことあるなあ」


「知ってるのか」


「嫌なお偉いさんってことだけ」


「十分。そいつがある事件にからんでるかもってのが俺の調査だ」


「ふふふ、ますます匂ってきやがったな。そいつをとっちめりゃいいんだな」


「いや待て。そいつがどこにいるのかすらわからねぇんだ」


「おいなんだよ自信持て! とにかく怪しそうな奴を見つけりゃいいんだろ? こういうときこそウォン・ルー様の出番だ」


「どうすんだよ」


「決まってるだろ。オレの情報網を使うんだよ」


 ウォン・ルーは事務所のある住宅区のさらに奥、貧民区のほうへと足を運んでいった。


「おうウォン・ルー、仕事かい?」


「よう爺さん。これ土産だ」


「いつも済まないね。……あのガキンチョどもなら今広場にいるよ。ちょっと様子がおかしかったがね」


「ありがとよ……なんだろ」


 顔なじみが多いようで、互いに気さくに挨拶を済ませていく。

 時折ゲオルに対して鋭い視線を送る者もいるが、ウォン・ルーの手前手を出してくることはない。


 身を潜める飢えた狼のような気配だ。


「ここいる連中はオレの兄弟分みたいなもんだ。この街じゃ浮浪者の存在なんて珍しくもない。だからここから色んな地区に送り込んでオレの仕事の手伝いをしてもらうこともしょっちゅうさ」


「なるほど……これがアンタの言う情報網か」


「向こうに広場がある。ついてこい。あと、あんまりキョロキョロすんな? よそもんには厳しいからな」


 広場に着くとそこには数人の若者。

 だが妙に殺気立っている。

 不審に思ったウォン・ルーは駆け寄って理由を聞いてみると、彼もまた血相を変えた。


「おいどうした?」


「……殺された」


「なに?」


「コイツらのダチが……いや、オレの弟分が殺されたんだ! お前が追ってるっていう……黒ずくめの背の高い髭面にな!!」


「なんだって!?」


 場所は貧民区より北の方角。

 奴がひとりで壁に寄りかかっていたところを集団で因縁をつけにいったときだった。


 突然妙な浮遊物が現れ、赤い光線めいたエネルギー波で胸を一撃。

 その後奴は逃げたという。


「奴はどの方向に?」


「ここから北東だ。確かあの地区は魔術師の家やら研究施設が立ち並んでいる」


 研究施設と聞いて嫌な予感しかしなくなった。

 若者たちにも調査の足を向かわせたあと、ふたりも北東の区画へと向かうことにした。


「ふぅ、だいぶ走らせやがるな。おいウォン・ルー。そんな血眼になって動き回るな!」


「うるせー! 弟分をぶっ殺されて落ち着いていられるかってんだ!」


「仮にも探偵だろ? 変に目立てば奴に勘付かれるぞ。……いいか、これは俺の仕事だ。アンタは手伝い。できねぇんならとっとと降りろ」


「……チッ」


「……しかし、どいつもこいつもインテリでござれな奴が多いなぁ。俺たちみたいなのはお呼びでないってよ」


「関係ねえ。怪しい奴がいたら片っ端からぶん殴ってやる」


「ぶん殴るな。まずは聞き取りだ」


 地味で地道な聞き取り調査。

 二手に分かれて足を使って進めるがそれらしい人物は見つからなかった。

 夕方まで続き、その地区の広場で集合する。


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