幼馴染のレーナ1 吟遊詩人だよレーナさん
「マシナ、起きなさいよ!早く起きなさいよ」
レーナが伯爵たる俺の部屋にズカズカ上がり込んで俺を叩き起こしやがった。
レーナはお抱え庭師の娘で幼いころから一緒に遊んでいた同い年の娘なのだが、昔からとにかくムチャクチャな女の子なのだ。この行動自体お手打ちにあっても文句が言えない事だろう。
マジ助けてちょうだい
俺の心の声は誰にも届かない。誰もレーナを止められないのだ。
「で、どうしたんだよレーナ?」
「ワタシとマシナで組んで吟遊詩人になるのよ!」
なんで?うん。意味が分からない。
いや、まともな解答なんかどうせ帰ってこないのだから聞くだけ無駄だ。
だから聞くことを変える。
「で、どうやってなるのさ」
「簡単よ!歌って楽器を弾けば良いのよ!」
いや随分ザックリっすねレーナさん。
「二人でデュオ吟遊詩人になって王国で人気になれば領地が盛り上がる事間違いなしよ!」
そんな吟遊詩人さんを見たんですね分かりました。どうせレーナはそんな程度なのだ
「あー。でも楽器も曲も歌詞もないなー残念だなー」
「楽器はワタシ持ってきたのよ!」
そう言ってレーナが俺にタンバリンを、自分にカスタネットを装備した。
「こんな楽器で吟遊~~~?」
レーナは更に止まらない。そこら辺の書棚から本を一冊引き出した。
「歌詞なんてこの中から適当に抜き出せば良いのよ!」
「え?哲学概論?」
レーナは問答無用で開いては適当に書き写してあっという間に歌詞を紡いだ。
無題
作詞/レーナ
万物の元の物は劇場のイドラ 神は死んだというドクサ
産婆論法を生み出すに至る
ルネッサンス時期のスコラ哲学 われ思う故にプラクマティズム
社会契約論サルトル
流れるものは流れヘーゲル 私が何も知らないというツァラトゥストラ
もっと光をアリストテレス
書き留めた物をわざわざ音読したレーナ。自分でも何が何だか分からなかったらしい。
「早く曲作りなさいよ!」
いきなりこっちにぶっこんで来やがった。
「あー。じゃあとりあえず……」
ゆっくりタンバリンを2回叩くとレーナがカスタネットを1回鳴らした
トントンカン トントンカン トントンカン トントンカン トントンカン トントンカン トントンカン
「曲が始まらないじゃないのよ!」
「いやパーカッションだけ集めてもさぁ」
全くあなたと言う人はと散々言い散らかしてやっとレーナは帰ってくれた。
「今日の所はこの位で勘弁してあげるわよ!」
なんか出来損ないの悪役みたいな捨て台詞まで吐いて行った。
「なんでアイツ通したんだよ」
メイド長に聞いてみればメイド長の答えはずるい物だった。
「あの子の邪魔なんてしたら豆腐の角に頭ぶつけられて殺されてしまいますから」
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