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第6話 視察

 システム、プログラム、アリゴリズムなどの使い分けは適当なので雰囲気で読んでください。

 無骨な扉に赤いランプ、関係者以外立ち入り禁止の表示もあり、一見すると病院のレントゲン室か手術室を思わせる。

 その中は部屋全体が表示プロジェクターとなっていて、中央にのみ人が座れるようになっている。

 ひと昔前のロボットアニメでよくある操縦席(コックピット)に見えないこともない。


 加賀見玉緒、彼女はそこにいた。

 ゆったりとした姿勢で、肘掛けに取り付けられた操作盤に手を掛けている。

 その操作盤は球体の形状をしており、それをコロコロと操作しながら目の前にある巨大な映像を見ていた。


 地球。


 ガイアシステムで完全と言うほどに再現された()()は、人工衛星映像と言われても、誰も疑いは持たないであろう。

 ゆっくりと自転する()()に向かって、彼女は口を開く。


「N13° 35.56 、E130° 39.398 固定」


 すると、目の前の画像は止まった……かに見える。

 見れば、地球の影となっている部分、夜が動いている。

 特定位置のはるか上空で静止する、静止衛星になった気分になるほどだ。


「拡大操作」


 すると、どんどん地球は大きくなり、日本の姿が現れる。

 そして九州から鹿児島へと拡大されていく、まるで宇宙から飛び降りたような感覚になっていく中、彼女は口を開く。


「高度五千の位置で固定」


 目の前には錦江湾に囲まれた、噴煙を上げる桜島がその姿を現す。

 それは地上より遥か上空で、真下に桜島を見下ろす形で表示されていた。


「アシカビ、データを取り込んでくれ。完了と同時に始めて良い。時間も同調させてな」


「あい! データをインストールします」


 部屋全体からアシカビの声が聞こえる。

 そして、その声と同時に目の前の画像が時間の逆行をし出した、桜島の噴煙が火口に吸い込まれていき、飛ぶ鳥は後ろ向きに進行方向を(さかのぼ)っていく。


「開始します」


 アシカビのその声と同時に、目の前が爆発した。


 目に捉えきれないスピードで火山岩が加賀見助教授の横を通り過ぎる、ドス黒い噴煙の姿が確認できたと思ったら、火口上空を飛んでいた渡り鳥を、一瞬のうちに飲み込み、彼女に襲いかかる。

 彼女は何もしないまま、そのまま飲み込まれた……かに見えた。


「西へ5キロ移動、視覚を水平に」


 その声がすると、何事もないように湧き上がる噴煙と火山雷の中から加賀見助教授の姿が現れる。

 

「先日発生した桜島噴火との規模の統合性の検証と調整を行ってくれ。それとこの噴火による気象変位はレポートとして提出、地震研究機関に地殻データをもらい、変位を噴火及び火山性地震のものとして組み込んでくれ」


「あいあい、わかりましたー」


「さて」


 一息ついでに吐いた言葉と同時に、操作盤のスイッチを押す。

 すると部屋の景色は一変して、地球を見下ろす先程の風景へと変わった。


「学生のチャンネルに切り替えて、論文(レポート)のファイルを表示してくれ」


 地球の周りに、いくつかのファイルが表示される。

 ファイルは色分けされており、それは学年別・科目別などに分類されているようだ。

 その中でひときわ目立つ、オレンジ色で重なるように表示されている二つのファイルに目をやる。

 ファイル名は【天野刀那】と【立木國嘉】。

 加賀見助教授は操作盤から伸びる、レーザーポインターをそれに照射する。


「アシカビ、開いてくれ」


 その言葉で、また彼女の視界は変わった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「これは…… 」


 彼女の目に飛び込んだものは、太陽の光に照らされ金色になびく稲穂と、それを刈り取る人の姿だった。

 人の姿は非常に原始的で麻を編んだものを衣服としており、稲穂を刈り取るには平らな石を削るか、砕くかして鋭くしたものを(かま)がわりに使っている。

 縄文時代を思わせるような空間が、そこにはあった。

 あたりを見渡すと竪穴式住居と見られる建造物があり、その横で火を起こそうとしている少女の姿が見える。


「えらく古い時代設定をしたようだな、うん?」


 加賀見は少女をジッと見ていたが、ぎくしゃくとした動きと、まばたきをしない表情が機械的に見える。

 渡したシステムを使用していないようだ。

 これなら市販のAIの方が人間らしいだろう。

 そこに違和感を感じる。


(短期間でこれほどのシステムを組み上げたならば、渡した自立思考システムを組み込むことは簡単なはずだが…… いや、学生でよくやったと言うべきか……)


「私の思考システムは組み込んでいないのか…… アシカビ、私とこの学生のシステムの使用率の比率は?」


「あい、マスターの渡されたシステムの使用率は78%で学生【天野刀那】が用意した物は22%です。ここの組立形態を確認しましたが、マスターの自立思考アルゴリズム等のシステムは一度組み込まれていますが、その後消去(デリート)されています」


「一度組み込んでおいて消去(デリート)だと?」


 そこに二つの人影が現れる。

 タカミとカムスだった。


「お久しぶりです。加賀見助教授」


 丁寧ではあるが、ドスの効いた声がする。

 

「カムスか、ならばもう一つは…… 」


「はい、天野刀那をマスターとするタカミです。」


 タカミは加賀見助教授に深く、そして品よくお辞儀をした。


「大したものだな、短時間でこれほどのシステムを組み上げるとは」


「いえ、これも加賀見助教授のAIであるアシカビ様より頂いたシステムのおかげです。それとマスターの御友人である立木國嘉様のご助力によるものです」


 加賀見は「ほう」と感嘆の息を漏らす。


「自身の思考システムはアシカビからか?」


「はい」


 そこにカムスが口を挟む。


「受け取ったというよりは、ガイアに取り込まれたって感じがいたしますわ」


 カムスのその言葉に加賀見は口端を少し上げる。

 以前の彼(?)なら、この様な人間じみた事は言わなかった、いや言えなかったはずだ。

 そう、彼女は自身で組んだ自立思考システムは、現段階でも世界でトップクラスと自負している。

 だからこそ彼女は府に落ちない、なぜ一度取り込んだものを外したのかを。


「ところで聞きたいのだが、今動かしているモジュールに、一度は取り込んだ私の自立思考システムを外したのはなぜだ?」


「詳しい理由は存じ上げておりません……ただ」


「ただ?」


「マスターはこのシステムは優秀すぎると言っていました」


(何故?)


 彼女は自問する。

 天野の研究内容は【複数のAIによる人間シミュレーション】

 今時、人間シミュレーションであるからには、自立思考システムは必要不可欠だ。

 訳がわからない。


「優秀すぎるから外した?」


「はい、確かにそう(おっしゃ)いました」


 加賀見はフームと手を(あご)にやり少し考え、気付いたようにタカミに声をかける。


「タカミ、天野のレポートファイルを閲覧できるか? システムパターンを知りたい」


「分かりました、教職・教員の方々への閲覧は可能に設定されています。ただし、研究ファイル以外のプロテクトファイルの閲覧は禁止させていただきます」


「年頃の男のプライベートファイルに興味はない。展開してくれ」


 加賀見の言葉と同時に、タカミの周囲に膨大な量のファイルが展開される。

 彼女はソレに驚く様子もなく、続けて指示を出した。


「ルーティンを表示してくれ、同時に自立思考アルゴリズムの配置を色分け表示」


 一つのファイルが点滅し出し、加賀見の前に色分けされたルーティンが立体的に表示される。

 天野とクニヨシが組み立てていたものだ。

 その中に光るファイルが二つ見受けられる。

 まず、上部にある方を展開する。

 これは彼女がよく知っている。

 彼女自身が組んだシステムだ。


「お前たちの位置はここだな?」


「「はい」」


「では、こっちがモジュールのだな」


 下部に位置するファイルからは二本のラインが伸びており、それぞれ点線で囲われたファイルがある。

 その一つには小さな赤の×印が付けられた物があり、これが加賀見のものみたいだ。


「…… 」


 次にもう一つの天野の方を展開する。

 すると彼女の目の前には、巨大なルーティンが現れた。

 

「な!?」


 思わず声を上げる、それは彼女の背をゆうに越える円柱を形取っていた。


「これは…… 」


「マスターが構想した、自立思考システムです。ですが、稼働の実現は難しいとおっしゃってました」


 見るとあちらこちらに〈error〉の文字が見える。

 しばらくの間、加賀見は()()を凝視していたが、しばらくすると口の端をあげると同時に呟いた。


「おもしろい…… 」


 その言葉にキョトンとした表情をするタカミ。

 

「アシカビやることが出来た! ()()をコピーしておけ、戻るぞ!」


「あっ、あいあいさぁー!」


「タカミと言ったな、天野を寄越せ。いや、こちらから連絡しよう。メールファイルは常に開いておいてくれ」


 早口で()くし立てる様に(しゃべ)るだけ(しゃべ)ると、加賀見はノイズを残してガイアから姿を消す。


「わかりました」


 そして誰もいない空間に向かって、タカミは粛々と深々と頭を下げたのだった。


お疲れ様でした〜


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