第48話 教授との会話
誰もいない研究室の中。
天野は焦点の合わぬ目で、立ち上げてもいないパソコンのキーボードを見ていた。
彼は先ほどまで非常に苦しい状態であった。
「(ガイアのセキュリティーの強化により、一定期間ガイアに滞在する、いくつかのシステムを順次破棄する予定だ)」
それが確実にに現れてきていた。
いくつかのエラーが表示されるようになり、稼働状況においても人を含めたモジュールの動きもどことなくぎこちない。
酷い時にはフリーズ状態も発生した。
学園への通達では「各研究機関には影響が無い範囲でのセキュリティーの強化を行う」との事であったが、いくつかの研究室では問題が発生しており、苦情も発生しているようだ。
しかしながらガイアを取扱う研究所は学園内外で少なく、世間を賑わせるほどの事でも無かった。
その様な中でエデンシステムは正常に稼働しているが、ガイアシステムと並列処理を行なっている事により、その影響が出ていた。
彼としてはエデンシステムにまで影響が出ないか、気が気でない状態であったのだが、先ほど一つの伝達が彼の耳に入る。
[学園内のガイアを取扱う研究部において、今年度の卒業論文に関与する学生に対しては、救済措置を適用する]
つまりこれは、ほぼ卒業免除を意味していた。
普通の学生であれば、手を挙げて喜ぶところだろう、だが彼は違った。
その伝達を耳にした時、彼の胸に去来したのは[喪失感]だった。
そして彼は思ったのだ。
自分は何をしているのだろうと……
彼はその虚な目を、ただ前に向けている。
「失礼するよ」
扉から声がする。
「高木教授…… 」
研究室に現れたのは高木教授だった。
天野は背筋を伸ばして、高木教授の方に椅子に座ったまま身体を向ける。
「研究課題の方は進んでいるかね?」
その質問には、苦笑じみた言葉で返す。
「ええ…… まあ…… 」
高木教授は部屋に入ってきた時と同じ、穏やかな笑みを浮かべた表情で、近くの椅子に静かに座った。
「済まないが、ちょっと話がしたくてね」
「話…… ですか? 」
高木教授はゆっくりと小さく首を縦に振る。
「私はね…… 」
そして、高木教授は話す。
「私はもう四十年近く、地球環境学に携わってきたんだ、君と同じくらいからね。そこからずっとここまで来ている」
天野は何の話なんだろうか? と思いつつも言葉には出さず、そのまま耳を傾ける。
「今の時代、コンピューターの発展は凄まじくてね。研究の結果を出した時には、もう時代遅れの様な事になるのも珍しく無い、それでこの学園にも早期に量子コンピュータを設置して、各研究の発展に取り込もうとしていた」
この話はそんなに古いものではない、確か十年経っているか経っていないかの話だ。
「それはもう必死になって、取り組んだよ。だが、私の専門はあくまで地球環境でね。コンピューターについてはからっきしだった」
高木教授はウンウンと笑顔で頷きながら、天野に語る。
「なかなか上手くいかなくってね、焦っていたよ。そんな時だ彼女が来たのは」
まるで懐かしむ様な表情を浮かべる高木教授に、呟く様に質問を飛ばす。
「加賀見…… 先生ですか?」
その質問にゆっくりと頷くと、そのまま言葉を続ける。
「ほんの数年前の話のはずだが、なぜだろうね、非常に懐かしく感じる。私も本当に歳を取ったものだ」
「加賀見…… さんは、どんな方だったんですか」
その質問に高木教授は少し首を傾げ「ふむ」と言った感じで、話を続ける。
「彼女はね、それはもう量子コンピューターの申し子と言って良かった。我々がスーパーコンピューターに組み込む予定だったシステムやプログラムを、あっという間に彼女は『天』に置き換えてね。あれを見た時に本当に〈天才〉と言うものを身に感じました」
高木教授は片手で自分の後頭部をポンと叩く。
そして変わらず笑みを浮かべながら話を続けた。
「そして私は彼女に対して、嫉妬を感じてしまいました」
「嫉妬…… ですか」
「学生に言うのもおかしな話ですが、確かに私は嫉妬を感じたのです。それと恐怖を」
「高木教授……あなた、加賀見先生を…… 」
天野は高木教授に向ける目を、別のものに変える。
それ察してか高木教授は慌てて手を前に出し、首を横に振る。
「いやいや、私もそこまで愚かではない。それにその様な感情を抱く前に、彼女は私を追い抜いてしまったよ」
「………… 」
天野はそれ以上は何も言わず、視線だけを向ける。
「あなたには分かるでしょうか。自分の人生を一瞬で覆される気持ちという物を」
高木教授は出した手を両膝の上に置き、ため息を吐くように静かに言う。
〈人生を一瞬で覆される気持ち〉
天野の脳裏に幼き自分と少女の姿が一瞬よぎる。
それで、天野の胸に燻りかかっていたものは洗い流され、代わりに小さな悲しみが浮かび上がる。
落ち着きを取り戻した、天野は小さく答える。
「分かりません……ですが、今までと違う状況の中に一人で放り出され、取り残されるような事をいうのであれば、なんとなく…… 」
天野の言葉に少し驚いた表情を浮かべると、高木教授はジッとを天野の顔を見る。
そして、再び笑顔を浮かべる。
「天野君、君は強いな…… 」
天野は何の事だか分からないが、ただ静かに高木教授の視線を受け入れた。
「ところで…… 君は何故、このようなシステムを作ろうと思ったのかい?」
高木教授は別の話に切り替える。
言われてみれば何故なのだろう、始まりは卒論のテーマに沿った内容で思いつきからだが、その時は複数のAIを使ったものとしか考えていなかった、エデンシステムを作った理由とは言えない。
答えを出すのに、いや、答えれない事を自身が感じ、それを口にする。
「自分は…… 分かりません…… 」
「これだけの物を作っているにも関わらずに?」
天野は思い出す、最初の頃を。
「最初は単に、ガイアに、既存の〈人間シミュレーション〉を組み込む予定でした…… ですが、加賀見先生に出会ってから…… こんなふうに、なるとは思っても見ませんでした」
こんなふうに…… エデンシステムだけの言葉では無いだろう。
天野は視線を落とし顔を伏せながら言う。
その様子を見ながら高木教授は静かに言った。
「止めるのかい…… 」
卒業論文の救済措置の件は耳に入っているだろう、このまま続けても辛いだけの彼にそっと言う。
「分かりません…… 」
天野の答えに力無く頷と高木教授は席を立つ。
「つまらない話をして、悪かったね」
「いえ…… 」
天野は研究室から出て行く高木教授が彼の視界から消えると。
再び、パソコンのキーボードに視線を落とした。
うーむ、理想として読者の方たちに、読者なりのイメージを持って読んで欲しいんだけど、書き手が力量無いんだよね。
なんか自分で読み返してみても、アニメーションになる前の、雑な絵コンテを文章にしたような感じがする……orz
分からん人にはさっぱり分からないだろうなぁ、あんまり細く書いてもイメージが固定されるし、もともと力量無いし。
作家って本当にすごいっす。
全話投稿の後に、編集の嵐だなこりゃ。




