表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/59

第4話 加賀見助教授

 皆さんは神様の存在は信じますか?

 初夏の陽射しの下、遠くの空には入道雲が湧きあがり、道は逃げ水が現れて、わずかに景色を歪ませる。

 周りの林からは蝉がうるさく鳴き、それが焼けたアスファルトに溶けていく。

 その中を豊野久美は気怠(けだる)そうに歩いていた。


「あっつ…… 」

 

 目的の建物の玄関前に立つと、胸ポケットから学生証を取り出し、扉に向かって〈それ〉を差し向ける。


「加賀見助教授まで」


 そしてインターホンに向かって、そう言うと、音もなく扉が開いた。

 中から涼やかな風が彼女の頬をなで、わずかに髪を揺らす。


「ふぅ」


 至福の表情を浮かべながら、彼女はホッと一息つくとまた歩き出した。

 表札に[ガイア開発研究室]と書かれた部屋の前に立つ、そして……


「タマチム、入るよ〜」


 彼女はノックも無しに、勝手にドアを開け中に入っって行った。


「コラ! 部屋に入る時はノックしなさい。それと学園内では、その呼び名をするなと言ったろう!」


 少し慌てた感じで振り向く女性、綺麗に揃えられたショートヘアー、フワッと浮く前髪からは、ややキツめな印象を受けるが均整な目、スッとした鼻筋に、薄く紅を引いた唇。

 どこぞの女優と言われても遜色のない、知的な女性がそこにいた。


 彼女の名前は加賀見玉緒(かがみたまお)

 ここ、高木研究室の助教授であり、ガイア開発部門の責任者でもある。

 この学園の中でも、最も優れた頭脳の持ち主と言われている才女だ。

 実は彼女、歳は久美と〈さほど〉離れていない、というのも、彼女は海外留学先で飛び級で博士号を取っており。

 それを()って、この学園の准教授として赴任(ふにん)したのだ。


「ご〜め〜ん〜な〜さ〜い〜」


 てへぺろ感満載で反省のかけらもなく久美が答える。


「まったく!」


 そう言いながら睨む目をする。

 外部の人が見たら、相当怒っているように見えるのだが、久美は全然気にしていないようだ。

 むしろ〈あれ?〉って感じで、加賀見助教授の顔をのぞきこむ。


「コンタクトしてないの?」


 そう、彼女は近眼でかなり重度のものだった。


「今日は乾燥しているからな、使わないと思い置いてきた」


 そう言うと、机の引き出しからケースを取り出し、研究用のVR・ARメガネを取り出す。

 このメガネは天野が掛けていたものより古い、かなり無骨な印象を受ける。

 それを彼女は掛けると、スイッチを押した。

 いきなりレンズ越しに彼女の目が、虫眼鏡で見たように特大化される。

 久美はこうなる事を予測していたが……


「プッ」


 思わず吹き出してしまった。


「笑うな」


 やや頬を赤らめ、拗ねたように久美に言う。

 その目は叙々に普通の大きさに戻っていった。


「それで? どのような感じだ?」


「うん、普通の大きさに戻ったよ」


 笑顔で久美は答える。

 それを聞いて、加賀見助教授はため息交じりに言った。


「私の目の大きさのことではない。(学生達)の研究の進捗(しんちょく)状況(じょうきょう)だ……見てきた順番で良い」


「えーとね、システム課だと臼井君は目にクマ作ってやつれていたけど、目標の70%は達成してるって。小戸くんは、その出来たのを後輩と順次組み立てているよ。郁美ちゃんは生物育成プログラム上の動作と現実世界での差異や、足らない物をデータ化して(まと)めてるけど、どこまで細分化すればいいにか悩んでたな。あとの人もそれなりに順調に悩んでる」


「はは、そうか。それでAI課だとどんな…… 」


「あのねー聞いてくれる? トナチムってホントにデリカシー無いのー」


「いや、だから私が聞いているのは研究の進行状況を…… 」


 そのタイミングで、加賀美の掛けているメガネのLEDランプがチカチカと点滅をする。


「ちょっと待ってくれ」


 彼女はそう言うと、机に置いてある将棋盤のようなボードを立て掛けた。

 一つ一つの升にICタグが貼り付けられている。

 それを見て、久美も胸ポケットからメガネを取り出し、それを掛けるとフレームのスイッチを押す。

 するとボード上に立体的に人物像が浮かび上がる、それはアシカビだった。

 そしてそのアシカビは顔を伏せ、えっぐえっぐと泣いていた。

 その姿を見て久美は声を上げた。


「ど、どうしたの?」


「えっぐ……ポ…ポン…えっぐ、ポンコ……ズビィイ!!」


 久美が心配そうに様子を見ている横で、加賀美助教授は冷めて目でそれを見ている。


「ポンコツって言われた…… わぁ〜〜〜ん」


「ええと、誰に? 何処で?」


 久美はなだめるように優しくアシカビに問う。


「AI課とシステム課の二人組……ガイアで…… 」


 それを聞いて浮かび上がる人物は二人しかいない。


「それってトナチムとタッキー。ああ、天野君と立木君?」


「……うん」


 久美の中で黒くモヤッとしたものが、ボウッと燃える。

 それまで黙って聞いていた加賀美助教授は、ここで口を開いた。


「いまいち要領を得んな、それで結局ガイアで二人は何をしていたのだ?」


 久美とアシカビは、お互い向き合っていたが、その周りが歪んで見えてくる。

 黒いオーラを(まと)いながら『ゴゴゴ!』といった、効果音が聞こえてきそうだ。

 二人はゆっくり加賀美助教授に向き合うと、不自然な笑顔と共に答える。


「「ガイアで裸の女の人作っていました」」


 加賀美助教授は変わらず冷めた目で見ていたが、その言葉を聞いて一瞬眉毛の端をピクッと動し、目つきを鋭いモノに変えた後。


「ほう…… 」


 そう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ