第3話 人の手本と反面教師
風呂に入ってラーメンを食べた俺たちが病室へ到着すると、
「来てくれてありがとう。面倒なこと頼んでしまって申し訳ない。」
と、困ったような笑顔を浮かべた一郎が言う。
生まれ変わったらこいつのような人間になりたいな。
「おい!お前のせいで講義出れなかったんだぞ!反省しろ!」
生まれ変わらずともこんな人間にだけはならないでいよう。
「それは全然いいけど、大丈夫か?頭打ったみたいだな。」
一郎の頭に巻かれた包帯を見て俺が言う。
「うん、大丈夫。打ち所が良かったみたいで、軽い怪我で済んだよ。ただ、落ちたときに意識を失ったことと、打ったのが頭だからってことで、念のため詳しい検査を受けてなさいって言われちゃってね。」
「それならよかった。にしても、階段から落ちるなんて、お前には珍しい事故だな。」
俺は自分の推理が当たっているのかを確かめたくなり、できるだけ自然に自白させようとした。
「かなり酔ってたんだ。昨日はすごく気前のいい美人なお客さんが来たから、その人が由奈さんと重なってね。出来るだけサービスしてあげたいと張り切ってしまってさ。」
ビンゴだ。寸分違わぬ推理に俺は気分を良くしたが、場の雰囲気に反すると思い、得意気な顔をするのを我慢した。
「まったく。ホストならこんなこともあるだろうと、普段からお前を鍛えてやろうとしている俺の言うことを聞かないからこんなことになるんだ。」
人の形をしたアルハラがわざとらしくため息をつく。
「今回ばかりは康太のアルハラ特訓を受けておくべきだと思ったよ。」
一郎が頼りない笑顔で言った。
「今回ばかりじゃないんだよ!反省しろ!」
お前は全てを猛省しろ。
「まあ何にせよ無事でよかった。とりあえず頼まれていたものを取りに行きたいから、鍵を渡してくれ。」
「ああ、悪いな。世話になるよ。」
一郎から鍵を受け取った俺たちは、特にすることもないので、すぐに一郎の家に向かった。