第1話 馬鹿たちの生態と気になる事件
缶ビールを飲みながら興味なさそうにニュースを見ているのは、もうすぐ大学三年生の終盤を迎えようとしているのに、酒ばかり飲んで講義にも行かず、単位もギリギリという、自他ともに認めるクズ大学生の野崎仁であり、俺だ。
「何この子!めちゃくちゃかわいい!死んでしまう前に俺の童貞を捧げたかった。」
同じニュースを見ながら、倫理観を捨て、性欲だけを詰め込んだような発言をしている男は石原康太といい、大学に入って間もない頃からの悪友だ。康太は運動神経抜群で、容姿も整っているが、中学、高校と男子校だったことが祟り、絶望的に童貞をこじらせている。おまけにヤニカス、酒カス、女好きと三拍子揃っており、残念という他ない。
「えっ、まじかよ。この人俺の客じゃん。」
困惑した声をあげたのは星野一郎だ。一郎は切れ長の目をした今風のイケメンであり、大学に通いながらホストをしている。しかし、その目的は学費を自分で稼ぐためであり、決して女好きというわけではなく、むしろ硬派な男だ。そんなところもあってか、一郎はかなりモテており、そのせいで康太にきつくあたられている。
「はぁ!?なんだそれ!?お前こんなかわいい子といちゃつきながら金稼いでたのか!?ふざけんな!飲め!」
康太は何とも理不尽でみっともない怒号あげながら、唯一マウントをとれる酒の強さを生かし、一郎に酒の入ったグラスを押し付ける。
「お前の客ってまじ?薬やってたってことは、やっぱやばい感じの人だったの?」
「いや、普通に美人で良い人だった。俺のこともすごくかわいがってくれて、ほとんど毎週来てたよ。」
華麗に康太をスルーし、俺と一郎は事件について話し始めた。行き場を失った酒は、何故か康太の口の中に消えた。
一郎によると、亡くなった女性は西園寺由奈といい、聞けば誰でも知っているような名家のお嬢様らしい。お嬢様らしい気の強さはあったものの、明るくて品のある素敵な女性だったという。
「そんなお嬢様が薬中で死ぬなんて、お嬢様なりの重圧とかあったのかね。」
俺が興味なさそうに呟くと、
「否定ばかりで悪いけど、そんな風には見えなかったよ。先週だって、いつになったら私の男になるんだ~なんて、笑いながら言ってたし。」
と、一郎が落ち込んだ顔をして言った。
「お前が中途半端にたぶらかしたりするから、あの子は薬でストレスを解消してたんだ!俺がお前ならそんなことにはならなかったね!」
康太の野次が飛ぶ。
「お前なあ、投票にも行かず、サウナでひたすら政治の文句を言ってるようなじじいになるぞ?」
と、呆れた声で俺が言う。
「康太の言うことを完全に否定できないのは辛いな。後味が悪いよ。」
さらに落ち込んだ様子の一郎を見て、康太に冷ややかな視線を送ると、
「冗談じゃん…飲むよ…」
康太は囁くように言い、誰も勧めていない酒を一気飲みした。