選択
『貴方は生きたいですか?それとも、もうここでリタイアしますか?』
――貴方はどちらを選びますか?――
女は喉奥で絡まる声を絞り出して答えた。
「――生きたい……っ!」
青年の腕にしがみついて、女は言った。
はっきりと言った。
その眼は本当にもう一度生きることを望んでいた。
それを確認した青年はにんまりと口角を緩ませ、ほくそ笑む。
そして、
『では、ここで一服したあとお帰りくださいませ。用意した紅茶もちょうどいい頃合いですから』
ひとり楽しんでいたアフタヌーンティーブレイクに客をひとり招き、再開させた。
『どうですか?セカンドフラッシュのダージリンなのでファーストフラッシュより少し渋みがきついかもしれませんが…』
「美味しいですよ、とても」
本当に美味しい。
思わず笑顔が零れてしまうくらいに青年の入れた紅茶は美味しかった。
香りもとても爽やかで楽しめる紅茶だ。
女は口をつけていたティーカップをテーブルに置くと、青年を見た。
改めてみるとやはり、相当な美少年だ。
首にはチョーカ…というより、これは首輪に近いものがはめられており、手首にも同様な鈍い光沢を放つ黒の手枷がはめられている。
首輪にはないが手枷には鎖がついてあり、それがどこかへ繋がっているのは確かなのだろうが、途中で途切れているようにみえる。
女はしばしの間、青年を見つめて頬を薄いピンクに染めると、その熱をはぐらかすように上目に青年を窺いながら青年の言う『セカンドフラッシュ』などの紅茶用語について訊ねてみる。
「あの、セカンドフラッシュとかファーストフラッシュってなんですか?」
さっきまでは黙って聞いていたが、実のところ、自分は紅茶に全く詳しくないのでセカンドだ、ファーストだと言われてもさっぱりなのだ。
『ああ…すみません。そうですよね、いきなりそんなこと言われても分かりませんよね…すいません。では説明させていただきますが、ファーストフラッシュと言うのは春に摘まれる茶葉、一番摘みのことを言うんです。セカンドフラッシュとは夏で二番摘み、オータムナルとは秋の三番摘みをさします。ダージリンは紅茶のシャンパンとも呼ばれてるんですよ』
青年が楽しそうに話す姿に女の頬も緩んでいく。
その時だった。
扉がゆっくりと開かれた。
『シルクー、来てやったヨ。客はどこネ?』
扉の向こうに現れたのはチャイナ服を身にまとい、愛らしく小首を傾げた美少女だった。