34話
「下級…貴様…」
カポエイラ。この世界における唯一の使い手、悪魔ガエル。
「なぜ…ですか」
捉えた。確実に下腹部に直撃したはずの廻し蹴り、だが邪神は微動だにしていない。
「ドラ!」
それならばと全力で振りかぶった投石も同じ。銃器並みの威力があるはずだが直撃したのに微動だにしていない。躱そうとする様子すら見えなかった。
「ありえないでしょう、どんな防御力ですか」
「我に貴様如き下級の攻撃など通ると思っているのか!愚物が、弁えろ!」
ダッ!
邪神が間合いを詰めた。言い終わるかどうかというタイミングでの大鎌による連続攻撃。
シャ、シャ、シャ。
「準備が出来ていればなんてこともないですね」
生まれたのは鎌が空気を切る音だけだった。
しゃがみ込むような動き、ココリーニャ。カポエイラの回避技は高速で放たれる斬撃の全てを躱し得意げな表情を浮かべた。
「調子に乗ってんじゃねぇえぜ、カエルぅううう!かすり傷で気絶してたビビりがよぉおお!」
飛んできたピエロがぬいぐるみの様な手で悪魔ガエルの頭をポカポカと殴った。
「うるさいですねぇ、かすり傷なんかじゃありませんよ。本当に死ぬところだったんですから」
「んなわけねえだろカエルぅう!俺に嘘は通じねえ」
「愚物が!」
余裕をもって斬撃を躱し何事もなかったかのようにピンピンしている悪魔ガエルを見てか、あるいは戦場で不要な会話をしている二人を見てか、邪神は明らかな苛立ちを見せた。
「暗黒乱堂…」
「はぎゃ!これは」
ザバッ!
地面から数十本の黒い手が生え悪魔ガエルの足に絡みついた、と同時にまたしても突進してきた死神の大鎌が円の軌道を描き斬り付けた。
「ぐぎぎぎぎ…」
ぽたっ、ぽたっ、ぽたっ。
滴り落ちる鮮血。
「馬鹿が!油断しやがって馬鹿が!馬鹿ガエルが!」
「あなたが余計なことを喋りかけれてくるからです、痛っ」
「何言ってやがる、お前のせいだ!100%な!しかも大した事ねえかすり傷じゃねえぇかよお、カエルぅう!そんなんで情けねえ声出してんじゃねえよ!」
「どこに目ぇつけてるんですか、痛たたた。相当深いでしょ、これは」
「なんだと…」
深さ1㎝にも及ばぬ傷、それが悪魔ガエルの受けたダメージだった。
ガードした両腕から滴り落ちていた鮮血、それが地面を打つ際の静かな音の頻度がだんだん落ちていき、そして止まった。
「ふんぬ!」
お返しとばかりに体を回転させ蹴りを放つ。カポエイラの蹴り技アルマーダ。足元には力づくで引き千切った黒い腕が絡みついている。
ザバッ!
「う、ぐぅううう…痛…なんでですか、なんで効かないんですか」
だが効かない。直撃した蹴りをものともせずに受け止め、カウンターで繰り出された斬撃に両腕から再び血が滴り落ちた。
「カエルカエルカエルぅううう!当たりめえだろ、相手は邪神だぜぇえあいつは物理攻撃無効、そして魔法攻撃無効の特殊スキル持ってんだよぉお!当然だろそんなもんはよぉお!」
「あり得ないほど反則!そして先に言ってください!めっちゃくちゃ痛いじゃないですか!」
「反則はお前の方だカエルぅう、あんな残りカス大したことねえだろ。あんなもんなあ…」
「黙れ愚物が!暗燈舎利」
「ぎょぼぼぼぼーー!体が千切れるぅうううーー」
黒い球体がピエロを包み込み雑巾のように体を絞り上げる。それはデスゲームを作り上げた死刑囚たちの最後と同じ光景だった。
「下手な芝居はいいですから続きを話してください」
「ひょほぉおお、そうかぁあ?でも可哀想だろうがよ、何回いっても俺様に攻撃は通じねえって理解できねえ馬鹿邪神がよぉおお」
「それはいいですから」
腕をさすりながら話すカエル。そこにはもう血は流れていない。それも当然の事でそこには傷一つなかった。
「確かにおめえじゃあ、あいつには傷一つつけれねえ、腐っても神ってわけだ!」
「駄目じゃないですか!」
「馬鹿ガエルよく聞けぇえ!確かに攻撃は当てられねぇが、お前にもまともに攻撃する能力をもってねぇええんだよ!」
「ふぇ?」
「鎌だ!あれは武器自体が特殊スキルを持ってるっつうレアな一品だぁ!つまり、だ、」
「鎌!?」
「愚物が黙れ!黙れ!黙れ!」
激高した邪神が大鎌を振り回そうとし、悪魔ガエルが大鎌を奪い取ろうとしたその時だった。
ゴーン。
鐘の音が響いた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
清らかな鐘の音だった。体を震わせるほど間近で、何度も、そして雄大に鳴り響いた。




