32話
シャ!、シャ!、シャ!
がむしゃらに金眼に飛び掛かり両手を振るう。
「ウゥウーー」
攻撃する度に白い光が両手から発せられる。
「まがい物ではない…まさかこんな所で出会うとは」
バックステップで躱し続ける金眼は獣人少女を観察していた。
「アッカーをよくも」
シャ!、シャ!、シャ!、シャ!、シャ!
白い光。それは金眼を構成する黒と対極にある。
「気でも狂ったか勇者!あれは悪魔だぞ、何故悪魔の肩を持つ」
「ウウウー!」
シャ!
勇者の光。
「己に都合の悪いことは語らぬか」
楽々と避けられた攻撃。今までにないほどに崩れたフォームが少女の揺れる心情を表す。
ブン!
大鎌が空気を切る音。
「う、」
「躱すか。悪くない」
はらりと髪の毛が落ちていく。
シャ!、シャ!、シャ!、シャ!、シャ!
ギリギリだった。だが少女は怯えなかった、逃げださなかった、諦めなかった。それどころか前に出て腕を振るい続けた。次は躱せないかもしれない。けれど少女から発せられる光は闇を照らし続けた。
「だが未熟」
ダッ!
バックステップで躱し続けていた邪神が一転、土煙を上げながら一気に間合いを詰め、大鎌を振るう。
血が滴り落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
ダッ!!
「っぐ!」
更に又、しかも先ほどよりも早い速度での踏み込み。石突を少女の腹部に叩き込んだ。
「未熟な勇者…」
ダッ!!
「ぐぐ…」
「楽に死ねるなどと思ってはいないだろうな」
さらに2発、同じ個所へ叩き込む。
シャ!
大きくめり込んだ。
怯まぬ少女が反撃に転じた動きに合わせてカウンターの一撃。打突が少女の動きを止める。前に出た勢いが繰り出された打突と重なり、いままでで最も強い衝撃だった。
「ぅ!」
「予想外とは悪いことも良いことも起こる」
血を吐いた。
仮面のように動かぬ黒い顔。表情に変化はない。ただそこにははっきりとある悪意、残虐性、喜び。
打突。
打突。
打突。
刃を振るう事をしない。
「偽善の屑、勇者に生まれ落ちたことを恨め」
叩き込む。
「勇者の資格を与えた神を恨め」
叩き込む。
「悪魔に心を許した自分を恨め」
叩き込む。
口から溢れ出る血液。打突は筋肉を通り越し臓器にまで損傷を与えている。激痛に顔が歪む。
「許さない…よくも…アッカーを…」
衰えぬ闘志。
まさしく勇者。
「1000年は殺さん。餓鬼共に喰われながら生きるがいい」
意志の篭った少女の目は邪神の怒りを増幅させる。
グロテスクな金色の輝き。それは勇者にも負けぬほどの意志があった。今にも崩れ落ちそうな少女に金眼が間を詰める。
一瞬で殺してなるものかと石突を、苦しませるために、喜びのために、腹部に、同じ個所に、恨みを込め、叩き込む。
邪神。
慈悲など欠片もない。
鉱物のような眼。
1000年の拷問、可能。神だから。
金色の眼が再び動こうとしたその瞬間だった。
「ヒョエッホーイ!どしたどしたどした、勇者ちゃん!絶体絶命のピンチじゃねーかよぉおおおお!」
耳障りな声が割り入った。




