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31話

 


 暗闇に黒い線が斜めに走った。


 斬撃。


 その軌道は見とれるほどに無駄が無くただ対象を効率的に切り裂くための軌道だった。



「ぎゃーーーーーー!!」



 斬られた。


 熱い、体が熱い。


 振るわれた軌道そのままの血飛沫。いや寒い、背筋が寒い。熱かったはずの個所が何も感じなくなっていた。わからない。自分の体の感覚がわからない。何が起こったのかわからない。


 誰が、何故、斬った。


「あぼ…ば…」


 異形。


 目の前の存在。足元まで完全に隠れる長さのローブを着た異形の者がそこにいた。


 違う。


 金色の目。まるで鉱物のような温度のない目。それ以外は全てが黒い。ローブも、顔も、首も、手も、鎌も、全てが黒い。闇を煮詰めたような黒さ。


 袈裟斬り?左肩から右腰にかけて一直線に体を切り裂かれた。


 体に力が入らない。



 骨格、両目、鼻、口。人間のようでいて絶対に異なる。生き物にすら見えぬ存在、その存在は死を纏った黒き存在。悪魔?わからない。こんな異形の者の記憶は死体たちも持っていない。


 死んだ。


 一体自分の体はどうなってしまったんだ。真っ二つに切り裂かれたのか?致命傷は間違いないだろう。ああ、まずい、体に力が入らない。景色がスローモーションのように落ちていく。


「ごふぁっ」


 信じられないほど大量の血。粘度の高い血が体の中からせり上がってきて吐いた。ああ、なんで見ていたんだ。なんで避けなかったんだ。なんですぐに行動を起こさなかったんだ。


 視界が白い靄に覆われていく。



 歪む闇を見ていた。闇が歪なんていうのは今までに見た事が無い、それもあった。しかしそれには何か目を引き付けるものがあった。どれくらいの時間だろうか、それほど長くは無かったはずだ。


 いつの間にかその存在は突然そこにいた。悪意に満ちた金色の眼に目を奪われていた。これはあの歪み闇から現れたのか?そんなことを考えていた。


 その眼の持ち主は大鎌を振りぬいた。スローモーションのようなその動きを夢でも見るかのように眺めていた。


 理解が出来なさ過ぎた。現実感が無く躱すなどという考えはなかった。



 斬られた。



 黒は悪意満ち溢れる金色の眼で、何の躊躇もなく、元々そうすると決めていたかのように、そうするのが当然とばかりに、斬った。冷たい眼だった。大嫌いな眼だ。


 害虫を見る眼だった。


 息が出来ない。


 殺された。


 考えるのはあの瞬間の事。斬られた時、無意識のうちに出た声、多分「あぼば」だったと思う。嫌だ。あれが最後のセリフだなんてあまりにも酷い。死にたくない、死ぬにしてもこのまま死にたくない。


 語れ、自分らしく、自分の言葉を最後に語れ。


「俺氏、死にました・・・」


 出なかった。


 発したつもりの言葉、その声は自分の耳にも届かなかった。喉がギュッと縮こまって声が出なかった。情けない。肺ごと切り裂かれたのか?終わりなのか?たったさっき生まれたばかりだというのに。


 視界にあの美しい星はない、最後の目に映したかった。美しいものを見ながら死にたかった。ローブだ、黒いローブと地面。ゆっくり、ゆっくり、視界が落ちていく。


 足も腰も力が入らない。嫌だ。誰だ、アイツは。一体誰に殺されたんだ。



 死にたくない、、あ、、あ、駄目だ、嫌だ、死にたくない、、、、、、


 ダン!


 視界はついに地面を映しそして真っ暗になった。


 悪魔ガエルは倒れた。





「アッカーーー!!!」



「下級悪魔の分際で我の路を穢した報いだ」



 ドン!!



 叩きつけた。駆け寄ろうとする獣人少女の動きを制するように、うるさいとばかりに、鎌を振り下ろし柄を地面に叩きつけた。


「!」


 獣人少女の体にまで振動が響き動きが止まる。いったいどれほどの力でそれを行えば可能な行為だろうか。


 脅し。


 地面を伝い、体を震わせる威力。目の前で巨体の悪魔を一撃で切り裂いた。


 それは脅しだった。


「声も出せんか、脆弱な。如き殺すにも値せん」


 興味を無くしたように目線を外した。脅しに屈した弱者、金色の眼は少女を見下していた。


「面倒な、また探さねばならぬ・・・」



「シャア!」


 それは少女の声。


 破壊力とスピードを伴い放たれた一撃。


「亜人!」


 獣人少女が放った右のフック。ぶち当たる直前、黒い存在は消えるように躱した。


「うー」


 低い唸り声。耳はピンと立ち毛も逆立っている。口から覗く牙、姿勢を縮め、今にも飛び掛からんばかり。少女の心は脅しになど屈してはいなかった。押さえきれぬ怒り。明らかに戦闘状態だった。


「うー」


「勇者、だと!」


 光。


 唸る少女の右手は白い光に覆われていた。



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