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26話

 




「お腹空いた」



「え…」



「食べ物」



 寝起きの獣人少女は言った。左側の髪の毛にだけ寝癖が付いている。目は半分くらいしか開いていない。


「なにも持っていませんよ」


 できるだけ丁寧に、優しく答える。


 怖いから。



 暗闇の中の少女。寝ていた時と同様になにか妙な圧を感じる。強い。戦うな。その言葉のイメージが頭の中に湧いてくる。どんどん強くなっていくアンデット、そして死刑囚、どちらと戦った時にもこんなことは無かった。


 勝てるんじゃないか?向こうは胡坐をかいているのに対し、こちらは立っている。体勢ではこちらが有利。アンデットとの戦いで得た圧倒的なステータス。この世界の常識で考えるのならば相当なものだ。


 ごしごし。


 ヨダレを拭った。


「うそ!」


 圧を感じた。心臓がドッと高鳴る。


「ごはっ!」


 変な咳が出た。確信をもって嘘と断定している目だった。


「何を言って…」


 初対面でいきなり嘘つき扱いするとは。しかもこっちは人間じゃない、かなりガタイのいい悪魔だ。それなのに怯むどころか怯ませてくるとは。どんなメンタルだ?それほど自信があるという事か?


 いや、こっちが感じているように、向こうも感じ取っているのか、力の差を。だとすればこの強気の姿勢にも納得がいく。


「うそはダメ」


 圧に体がすくむ。強いのか?勘は正しいのか?そんなはずはない、体格差を考えてみろ。ボクシングがなぜあれだけ階級分けされているか。それは骨格でパンチ力も耐久性も違ってくるから、だ。


 理屈で勘を否定しようとする、けど無理だ。納得できないのだ。理由はない、だが強い気がするのだ、勝てない気がするのだ。


「嘘など…」


 息が詰まり体が硬直した感じがした。悪いことをしている気がしてきた。けどそれはおかしい話だ。見ず知らずの他人に食べ物をくれてやる必要はない。向こうが無茶を言っているのだ。


 それなのになぜか、悪いのはこっちある気がしてしまっている。取り調べを受けている犯人になったような気がする。カマかけか?それにしては上手すぎる。こんな少女にそんな芸当が出来るのだろうか


「さっきから言っているではないですか」


 だが何も持っていないのは事実。それは事実だ。はっきりと言ってやりたい。事実なのだが少女の目は全てを見透かしているかのようにこちらを見ている。だから言えない。


「出して」


「むぐ、、、」


 強盗。俺氏は今、たった今、強盗に遭っています。誰か、誰か、ヘルプミー。


「ぃしょ」


 立ち上がった。


 くだらないことを考えている間に少女は立ち上がりってしまった。まずい、体勢が五分五分になってしまった。座っている時に攻撃すればよかったか?気が焦る。逃げるか?追いつかれるんじゃないか?逃げ切れない気がする。追いつかれたら背後から攻撃をくらう事になってしまうぞ。


「う…」


 それだったら真正面から、いや、駄目だ。勝てない、どうしても勝てない気がする。どうしたらいい。生まれて早々になんでこんな目に会わなくちゃいけないんだ。どうしたらいいんだ。


「お腹空いた」


 距離を詰められた。もう息がかかるくらいの距離。


 悪魔ガエルの身長は2m20cmほど、それに対し少女は耳の高さを入れても165cmほど。大きな対格差があるにも関わらず力関係は真逆。悪魔はじっとりと汗をかいていた。


 ずず、、


 密着しそうなほどさらに距離を詰めた少女。


「食べ物は持っていません、それは本当です」



 屈するのか私は?


 段々と闘志が湧いてきた。



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