2 鬼のぷーさん
これは何かの災いなのか?認識できることは目の前の主様が私を復活させたこと
それが原因で、はちみつ色でできたクマのアレそのものになってしまった。
私は泣いた。
「主様、これはあんまりだ」
あとは何かを言いながら、赤いチョッキと獣の皮で出来たパンツを履く。
名前はぷーさんに決まった。魔法生物となり新たな体と名前を得たことで世界の理が動き出す。地球の理から外れ 幻日世界の理が彼を強く引き付ける。
空間が歪み誰も何もしていないのに穴が出来上がる。
その穴に向かって ぷーさん は吸い込まれていった。
ドスン!バキン!ドカン!ガッン!ゴン ゴロン
ここではないどこか遠い砂浜に飛ばされてしまった。
幻日世界の海は概念であり時間そのものである。力のある領主や王、皇帝がいれば陸が出来上がり人が住める。都市クラスの地形魔法を使えば潮の満ち引きに関係
なしで生活ができたりする。だが、都市の周りにも当然のように海がある。
潮が引いた瞬間その巨大な海岸線は都市の防衛最前線に早変わりする。
都市の四方には要塞と港、現実世界では存在しない農場と伯爵の城船がある。
海が張り出し満潮となった時、海は子供たちの物になるなる。練習用のヨットとフロート付きボートが勢い良く海へ漕ぎ出す、教官たちは大型フロートを展開して模擬港を作成した。海の世界の教室である。もちろん、周囲には警戒網も構築してあり安全だ。 サメは来ない!魚族も来ない!海賊は来るかもしれない!
魔人エドワルド・ルトック伯は海岸線に打ち上げられたまっ黄色の鬼についての報告書を読んでいた。一息つくために紅茶を口にして従者に尋ねる。
「ふむ、発見したのは海兵幼年学校教官騎士と学生たちか、さぞ面妖な物に見えたのだろうな鬼は東方地域の出身者で滅多にこちらに来ることはない」
「さようでございます。傭兵や冒険者であれば可能性は0ではございませんが」
エドワルドは報告書を見ながらつぶやく
「にしても、発光色の黄鬼とは珍しい。見てみたいものだ」
決済承認の刻印魔法を使った後に使用人に命じる。
「尋問官にこの鬼を冒険者になるよう命令せよ。ならないようなら殺せ」
この世界には明確な目標がある。それは、干潮時に干上がって出来上がる蜃気楼の大地その中から真実の海を探し出し、深き者どもに止めを刺さなければならない。
天使だろうが悪魔だろうが魔人だろうが敵対はしながらも全員が、この洪水の海に決着をつけることを第一目標に動いている。人類側の冒険者は極端に少ない。
理由は簡単、深き者どもとの戦争に皆が熱狂しているからである。
ぷーさんはは牢屋の中で浮いていた。拘束用重力魔法により浮かせられ符呪の巻物でぐるぐる巻きにされている。空から落下して怪我を負ったはずだが寝て起きたら治っていた。主様により人間でなくなったのを実感した。
「そこの監視の人 お願いアル。縄?を解いて欲しいアル」
監視者は首を傾げて言った。
「○○アルってなんだ?方言か?今世界は魔力言語化されて方言以外標準語化されているのだぞ。」
「知らないアル、共和国が断言語が多かったからかもしれないアル、国民性ネー」
「ネーってまあいいや、今日は尋問がある。覚悟せよ。」
ぷーさんは動揺した。反重力を操る人間?たちの尋問である。前世でのあんなことやこんなことあるいは、ばれてはいけない機密まで喋ってしまうかもしれない。
「おい!そこの黄色いの、先ほど伯爵家の先触れがあった。失礼のないように」
牢屋の前室の扉が開かれ5人の完全武装をした兵士が入ってくる。一人は扉が閉まらないように押さえ部屋の中の全員が跪く。
「ロビキャス・ルトック子爵 御成り」
栗毛のおかっぱ頭でいかにも中世の貴族の服装をした6歳くらいの少年が入って来た。入りきると扉を押さえていた兵士が扉を閉め扉の前に陣取る。
「ご苦労である。楽にせよ、今月の尋問担当は私だ。牢の中へ入らせてもらう。」
少年は鉄格子の前に立って手をかざす、変形して入口になる。「ありがとう。」なぜか、鉄格子に声をかける。
少年と3人の兵士が牢の中へ入り鉄格子は元に戻る。
ぷーさんは何をされるのか言われるのかドキドキして様子をうかがう。しかし、少年はぷーさんに見向きもしないで浮いているぷーさんの下になにやら図形を描きだした。上級解析魔法陣は結晶プレートに情報の刻印までできるすぐれもの、通常の解析魔法では個人がその情報を見れるだけだが、その情報も幻惑魔法や洗脳魔法トラップ、嘘大袈裟紛らわしいまで危険がいっぱい。しかし、魔法陣化することで被害は結晶プレートの中だけで完結する。
「あのー」 「だまれ」 「あっはい」
黙々と文字を書き、魔法を発動させる。プレートを片手に一言
「バグってやがる。0歳 魔法なし 出身地不明 カルマ数値も初期化されてら」
プレートを兵士に手渡し空中から椅子を取り出して腰掛ける。
「所見を述べよ。」
「はっ 魚族の送り出したまがい物であれば、先ほどの解析で判明しますので違うと確定しました。また、食事の巻物や排泄の巻物も通常の鬼種族と同様の減り方をしていますので鬼で確定だと思われます。しかしながら、体色が通常の鬼とは違い例えるならはちみつ色もしくは発光色の黄色でありますので何者かが作成した鬼である可能性がございます」
「では、鬼に尋ねる。お前の親もしくはマスターは誰だ」
「私、主様に作られたアル、嘘は言っていないアルネ」
「変わった語尾を使う鬼だな、もしかして魔力言語が安定していないのか?プレートの反応はどうだ?」
「嘘の反応はありません」
「今後反応があったら教えよ。主とは誰か?」
「正直に言うネ、私も分からないアルよ」
「では、出身地はどこか?答えよ」
「共和国アル」
「なんだって??共和と言う名前の国家か??」
幻日世界では君主がいなければ国を維持することは不可能である。なので共和制国家は存在できない。もし、独裁者がいて共和国だったならその独裁者はその国の君主になってしまう。この世界には神がいて無理やりでも君主を作る、大統領であったとしてもまったく同じ理由で無理やりでも介入し君主を作る、全員が悪魔であったなら大魔王の介入を受ける、でないと深き者どもの侵攻を呼び込むのである。
ロビキャスとぷーさんは長時間話し合う。もう尋問ではない。
「反応が出ました。本人も事実だと思っていません。」だとか
「反応あり、自己保身のための嘘です。」など、もう意味のない嘘をつきながら
「嘘発見器を付けながら話すのがこんなに大変だったとは思わなかったアル」
「話を聴いている限りでは、あちらの世界にある機械は発展途上だな」
「アイヤー解析魔法は恐ろしいアルヨ。閣下は天才で努力家アル」
「時間減速部屋で英才教育を受けていたからな、貴族なら出来て当たり前だ」
政治の話、歴史の話そして共和国人が大好きな経済の話つまり金の話になる。
「政治は全否定されてしまったアルが、お金の話は任せるアルヨ」
「さっき歴史の話で出てきたがこの世界の通貨は魔力通貨だ。単位は
金貨・銀貨・銅貨だが金や銀とは無関係だからな」
「アイヤー金の先物を作って大儲けできると思っていたアルが、失敗だったネ」
「普通の金や銀、銅などの鉱物は植物から取れるし変異地形から探知魔法で探せばザクザク掘れる。物量ではこの世界では生きられない、欲しいものがあるなら自分で作り修理し採りに行く、たとえそれが竜の頭であろうと。」
「著作権はどうアルか?共和国人民はそれを無視して大儲けしていたアルよ」
「一つ聞いていいか。著作権を無視したあちらの世界で何があった?」
「流石は閣下鋭いアル、技術的暴走と崩壊、人民の民度の崩壊で粗悪品乱造の挙句文化水準の低下が起こり、海外企業の撤退で大混乱になったアル、その責任を海外に擦り付けるために軍備拡張し軍事技術も模造品だらけになり制御不能アル
最終的に訳の分からない監視技術を乗っ取られ私は殺されたアルヨ」
「ふふっまあろくな事にはならないのは分かっているじゃないか。
この世界では偽造は禁術並みに規制されている。自作で自分個人で楽しんだり利用したりする部分には寛容だが魔力通貨が関わってくるので上級天使や大悪魔を呼び込むことになる、はっきり言ってしまえば即死だ。」
「ってなわけで」と言って壁に目をやり手招きする、一呼吸おいて二人の影が牢屋の壁を通過して入ってくる。
「監視役ご苦労、こちらの天使と悪魔は私の戦艦の船員だ。
この世界の禁則にも詳しい、それにこいつらの親が上級天使と大悪魔だ。
先ほどまでの会話で気になった点を述べよ」
「まず、わたくしから言わせていただきます、オルガナイザーや政治的洗脳は新たな宗教を広めるきっかけに成り得るので危険です。解析魔法に引っかかるように調整を行います」
「わしも同意見ですが、それに加えるならば出版物の禁則も必要でしょう。確実に詐欺に利用できる宗教のような思想は問題が多すぎます。その思想の原点を聴いてみれば宗教の分裂などという理解不能意味不明が原点です」
結晶プレートを持っていた兵士が手を挙げる。
「この報告書は魚族との戦闘最前線ポセイドン王に送付されたほうがよろしいかと思われます。」
「!そうか、魚族は共和制国家の可能性があるのか!!」
噂話と推測であるが魚族研究家ミスターサカナの論文で魚族は君主を持っていない可能性が高いと書かれている。
「すまんなぷーさん話に置いてけぼりにさせてしまって
では本題に移る、この世界での生活は限られている。これを拒めば君は処刑される
君は恵まれた体の鬼に転生したそれを使い冒険者にならないか?
本来これは命令事項であり、拒否権はない。だが強制転生の理不尽は理解できる。
返答はいかに」
「冒険者になるアルヨ」
ぷーさん冒険者組合に入る。