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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
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第1章8 『月下』








 闇が深くなり始め、月は不気味な色で街を明るく照らす、千影(ちかげ)はとてつもないスピードで街の中を走り抜けていく、霊能力を持つ霊滅師(れいめつし)は常人離れした身体能力を身に付けることができ、車の様に最高速度で走ったり、トランポリンがそこにあるかのように高くジャンプが出来たり、鉄の様に身体が硬くなったりと魔法の力を引き出すことが可能。


 その力のおかげでちょっとやそっとで怪我をしたりはしないが、そんな能力があっても邪霊に負けてしまう事もある。こちらに力がある様に霊側にもそれなりの力を保持している、皮肉な事に霊を倒すために霊を利用している部分で何度か議論されていた事もあった。


 しかし霊能力以外で勝つ手段は今の所存在しない、霊滅師に選ばれるのは生まれた時に手の甲にある痣の様な印で決まる、その一族の遺伝が一番強かったり、全く霊滅師とは関係のない家庭でも先祖に霊滅師をやっていた繋がり等で、印があったりと様々な要因がある。




「―――愛染(あいぜん)さん!!」


「わりぃ! 待たせたな!」



 屋根を走りながら飛び地面に着地すると千影と合流を果たした正輝(まさき)、2人は走りながら先に到着している真妃(しんき)の居場所へ向かう。忍者さながらの走る姿は目では追えない、黒髪をなびかせながら千影はスマホを手に取り真妃へ連絡をする。




「もしもし、千影です!」


『合流は出来たみたいだな、敵さんはかなり多いから早く来い!』


「わかりました!」



 耳にあてたスピーカーの向こうから聞こえた声、そして微かに聞こえた何かのうめき声は『邪魂(じゃこん)』から既に『霊鬼(れいき)』へと姿を変えた事を意味している、正輝と千影は頷き合うとさらにスピードを上げて目的地へと目指した。


 刀を握る手に力が入るこの瞬間はいつまで経っても慣れない、恐怖よりも先に自分が死んでしまう未来が思い浮かんでしまう、恐怖で何も出来ないまま死ぬより相手を殲滅して死んだ方が良い、それは千影だけでは無く正輝や真妃も同じ様に考えている事だ。


 2人が現場である公園に到着すると、何人かの霊滅師がグッタリと倒れているのを見つける。




「お、来たか2人共!」


「この方々は?」


「私が来る前にやられちまった見てぇだな、何死んでない」


「姉御、俺はコイツらを避難させます」



 地面に倒れた数人をせっせと安全な場所に移動させていく正輝、千影は鞘から刀を引き抜き構える。真妃も同じ様に構え目の前に居る5メートル近くある巨大な霊鬼と睨み合う、簡単に吹き飛ばせる手、歩く度に浅く地面を陥没させる足。


 悪魔とも言えるそいつは2人を見ながら咆哮(ほうこう)し、その後すぐに飛び掛るように襲いかかる。




「右へ飛べ!!!」


「はいっ!!」



 真妃の合図に合わせて左右に飛んで避ける、霊鬼はそのままジャングルジムに突進してしまう。ぶつかった衝撃でジャングルジムはグチャグチャになったが、知恵の輪の如く複雑に霊鬼の身体に絡みついていく。


 それを嫌がっているのか暴れ回りながら真妃を狙ったり、千影を狙ったりと闘牛状態に陥っている。一連の動作を簡単に回避し2人は少し距離を開けていく。




「ありゃまだ未熟な霊鬼だな」


「それでも油断はダメです」


「わかってる、正輝!!」


「わかってます! 準備できてるっす!」



 避難をさせていた正輝は手の甲の包帯を解き構える、霊鬼に一太刀浴びせればそこから漏れ出す邪魂を吸引することが出来る、2人で切り刻み出てきた邪魂を正輝が吸引し、それを霊脈へ流していく。これが霊滅師の一連の作業となる、ジャングルジムからまだ解放されない今がチャンスと真妃は考えた。


 だが無闇に突出(とっしゅつ)すれば暴れ回っている霊鬼の動きに巻き込まれてしまう、そこで真妃は相手を確実に動きを止める為にまず先行して斬り掛かる、足さえ封じれば動きは一度だけ止まるはず。


 作戦を簡単に説明した後真妃は暴れる霊鬼に向かって走り出す、千影は霊鬼の動きに注意しながら集中力を高めていく、正輝は刀を地面に突き刺し、印のある左腕を伸ばして構える。




「グオオオオオオッッッッ!!!!」


「全く、厄介な野郎だな!!! ハァァァぁぁぁあ!!!」



 霊鬼の周りを縦横無尽に走り回る真妃、霊鬼はそれを目で追っていくがそのせいか目を回してしまい転ぶ、その瞬間を見逃すはずがない真妃は高くジャンプして、空中で刀を地上に向けて猛スピードで落下していく。




「消えろこの世の不穏分子がぁぁぁぁぁああああ!!!!」



 刀を逆さにし落下した真妃、見事霊鬼の太ももを貫通させて足を『く』の字に折れ曲がらせる、その為刀の先は足首にもヒットする。そこから少しだけ黒いオーラが舞い上がるがこれではまだ足りない、真妃は刀が抜けないように馬鹿力で押さえつけ、




「千影今だッ!!!」


「承知です!! はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」



 地面を軽く蹴っただけで急加速した千影、刃先を相手の心臓部分に向けて真っ直ぐに突き進む、霊鬼は必死になって腕を振ったり腰を捻ったりして真妃を払おうとする、しかしジャングルジムが邪魔となり悲しいことに手が届かない。


 そして、千影の刀は、




「消滅せよ!! 霊鬼除爆(れいきじょばく)!!」


「グァァァアアアアアアアッッッッッ!!!」



 見事心臓を突き刺した千影、最後に悪あがきと言わんばかりに跳ね除けようと暴れる、それを回避するために真妃と千影は刀を引き抜き、距離を取る。そこから大量に黒いオーラが噴水の様に吹き出した、正輝は『霊鬼吸引!!』と叫ぶ。


 黒いオーラは掃除機に吸引されていくように手の甲へ消えていく、霊鬼と言う形を保つことが出来なくなり大量の邪魂がその場に出現する、それも全部正輝の手の甲へと吸い込まれていき全てを回収した、そして左手で刀を掴み浅く刺した刀をさらに深く刺すように力を入れる。


 手の甲に溜まっていた邪魂は刀を通して地層へ降りていく、手の甲の光が無くなった事を確認すると刀を引き抜き、




「よっし! 終わり!」


「良くやったぞお前達」



 さっきまで騒がしかった公園はいつも通りの静けさを取り戻した、3人は勝利の風を浴びながら地面に座り込む。この作業がヘタをすれば1日に数件発生する、霊滅師も無限に活動することは不可能で、こうして能力を使うのにかなりの体力を消耗する。


 気が抜けきった3人は消耗した体力を回復させてから帰るつもりだった、気が抜けていたせいで気配を感じることができなかった。




 ―――グオオオオオオッッッッ!!!



 ついさっきまで聞いていた咆哮が背後から聞こえる、3人はすぐさま後ろに振り返る、しかし油断していたせいで回避が上手くできなかった、3人は同時に吹き飛ばされる。伸びてきた巨大な腕は鋼のように硬く、人間の身体なんて余裕で弾き飛ばすことが出来る。


 3人は数メートル先まで飛ばされ地面に叩きつけられる。




「ゴホッ!? はぁはぁ、私が霊鬼に気づけないだと……」


「そんな……アレだけ大きければ足音で……」


「姉御、もしかしたらその場で形成されたとかか!?」


「有り得ん、邪魂の気配になら気づくはずだ。そんなことはいい、どうにかしないと死ぬぞ!!」



 3人は何とか立ち上がるものの、先の戦いで体力を消耗してしまっている、この騒ぎに気づいた霊滅師が居れば助かるかもしれない、だがそれを待つ余裕など一切生まれては来なかった。


 だがそのピンチは一瞬にして切り替わる、ジワジワと近寄ってくる霊鬼に真妃は力を振り絞って立ち向かおうと刀を構えた時だった。




「なっ!?」


「ギャァァァァアアアアア!!!」



 もう2メートルとない近さで霊鬼は消滅してしまう、大量に溢れ出す黒いオーラは邪魂となり、3人では無い別の場所に吸引されていく。3人は目の当たりした、霊鬼の心臓を貫いてきた刃先を。


 そして黒いコートに狐のお面を被った人物を。3人はあまりの急展開に理解が追い付いていない、だがハッキリと見えたものがあった。お面を付けていて顔はわからないが、二つの穴から見える灰色でくすんでいる瞳、同じ霊滅師とは思えないくらいの妙なオーラ。


 狐のお面は刀を鞘に戻し去ろうとしていた、真妃はハッとし思わず、




「誰だお前」



 同業者にしては異端すぎる、狐のお面から放たれているオーラは霊鬼と同じ様な不気味な空気を感じている。正輝や千影は金縛りにあったかのように動けなくなり、真妃も何とか踏ん張っている。


 真妃の呼び止める声に狐のお面は振り返らずに、こう答える、




 ―――俺はオニガリ



 名乗った瞬間彼は黒く激しいオーラに包まれ、気がつけばその場に姿は無かった。



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