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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
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第1章7 『幕開け』

お待たせしました、最新話です。


毎週水曜日と土曜日更新です。








 落ち着きを取り戻せたのはアレから一時間後だった、零士(れいじ)は倉庫の扉を背もたれにして、脱力したように地面へ座り込んでいる。


 倉庫の中で起きた『怪異』を何度も頭の中で再生される、自分の意識とは無関係に動く身体、目の前に広がっていた闇、夢の中で聞こえたあの声。それら全てを意識がある状態で体験した事を今でも信じられないで居た、しかし零士の隣に置いてある『刀』と『お面』が全て現実で起きていた事を教えてくれている。


 何より手の甲に印が刻まれているのが証拠だ、これをじっと見ていると『力を手に入れた』と実感してしまう、ただこの力は本当に霊滅師(れいめつし)としての力なのだろうか、変な違和感を感じられずには居られなかった。


 今は考えていてもわからないままだと頭を切り替えて、刀とお面を持って部屋へ帰ることにした。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 空は茜色から月夜の空へと変わった頃、零士は真妃(しんき)の部屋で晩御飯を食べる為に部屋へやって来た、手の甲には包帯では無く大きめの絆創膏を貼り付けて印を隠すことにした、包帯でも怪しまれる心配は無いだろうが念には念をと、部屋にある救急箱の中から絆創膏を取り出して使った。


 最初それを見られた時に『なんだ? 怪我でもしたのか?』と真妃に聞かれたが、




「うん、本棚を整理してた時にぶつけちゃってさ」



 などと嘘をついた零士、あの声の主は『バレないようにしろ』と零士に言っていたのだが、どうしてバレちゃいけないのか、バレると何かあるのだろうか、この部屋に来るまで少し考えていたがわかる訳もなく考える事をやめた。真妃の作った料理を食べていると、




「こんばんは零士さん、真妃さん」


千影(ちかげ)、珍しいなこんな時間に」


「はい。今日の零士さんはなんだか元気が無かったようですし、少し気になっちゃいましたので」


「破局間近か」


「違います!!!」




 真妃の茶々入れを寸分狂わずツッコミをする千影、咳払いを軽くした後零士の目を見つめながら何かを言い出そうとしている、喋るのを待っていると、




「明日の放課後、お時間はありますか?」


「もちろん大丈夫だよ、何かあるのか?」


「その、で、デートを…………」


「え? あ、あぁーなるほどな、デートな」



 お互いに顔を赤く染め上げていると真妃は箸を置いて立ち上がる、実際口には出来ないが『トイレかな』と考えていると、エアコンの設定温度を『ピピピピピピ』とボタンを連打して下げていき、よく使用している扇子でパタパタと大袈裟に振りながら、




「あぁぁぁあ!! アッツイアッツイ!! 迷惑極まりないねぇー!!!」


「な、な!? 迷惑ってどういう事ですか真妃さん!」


「家の中に暖房器具が二つもあると邪魔だなって」


「誰が暖房器具ですか! 誰が!」



 2人が激しくデッドヒートしていく中零士はご飯を食べ進めていく、たまにはこんなうるさい晩御飯も悪くないなと思っている零士。そこから騒がしいのが落ち着くまで少し掛かったが、別に本気で喧嘩をしている訳じゃないので落ち着いて見ていられる、慣れってのは恐ろしい。


 小学校の時にこのアパートへ千影を連れてきたのが最初で、その頃から千影と真妃のデッドヒートは繰り広げられていた、小学生に大人気が無い真妃だが『年齢なんざ関係ない、喧嘩上等』とか言っていた時期もある。それくらいこの2人は仲がいいのかもしれない、零士と付き合うと中学生の時に真妃へ報告したら、




「ははははははははっ!!! そうかそうか!!」



 と、大笑いしてバカにしていた時期も少なからずある。それでも親のように姉のように慕っていた零士は、付き合う事を否定されなくてよかったと思っていた。


 そんなに古くは無い記憶を懐かしく感じるくらいには成長したと、真妃と千影の顔をチラッと見ながらこれからの事を思い描いていると。



(なんだ、手の甲が熱いぞ)



 不意に絆創膏を貼っている手の甲が熱くなる、あの時に味わった酷く焼けるような熱さでは無く、冬に使うカイロを当てられている感覚に近い。そして絆創膏越しではあるが淡く光を放っているのもわかる、2人にはバレないようにもう片方の手で絆創膏を包むように隠す。


 そこから数秒後に2人も何かを感知したように頷きあい、立ち上がる。




「千影、お前は正輝(まさき)と現場に来い。私は先に邪魂(じゃこん)を見つけてくる」


「はい、わかりました」


「零士、お前は―――」


「大人しく待ってるよ、気をつけて」


「いい子だ。行くぞ千影」


「はい!」




 零士を1人残し2人は飛び出すように部屋を出ていった、零士は絆創膏を剥がすとゆっくりと目を瞑る、すると頭に映像が流れ込んでくる。その映像は昔あった古いテレビのような白黒で表現されているが、よく知っている場所だとすぐにわかった。


 自分の部屋に一度戻ると押入れの奥に隠してあった『刀』と『お面』を取り出す、服も零士だとバレないように黒いズボンと2人の前では着たことが無い黒いコートに身を包み、狐のお面を被る。


 そして細長い刀を手にすると、




「なんだこれ……身体中から力が湧き上がってくる」



 黒い何かが頭の中に広がっていく、考える事を強制的にやめさせられて、ただただあの言葉だけが思い浮かび上がってくる。






 ―――フクシュウを、フクシュウを






 その言葉が頭の中で響き渡る、不快だと思っていてもやらなければならいと変な義務感に駆られてしまう。窓際に置いてある全身鏡で自分の顔をお面越しに見てみる、視野を確保するために空いた隙間から見える瞳は灰色にくすんでいて、異様な光を放っている。


 心臓が暴れるように鼓動する、爆発してしまうのではないかと不安になる。だがそんな気持ちもすぐに打ち消されてしまい、零士は窓を開け放つとそこから屋根へと乗り移り、夜の満月が照らす街の中を屋根から屋根へ飛び移りながら姿を消した。


 高速で動く影は誰からも認識されず、ただただ闇に溶け込んでいく、これが新たな幕開けの合図だとは誰も知るよしもなかった。





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