第1章6 『呪い』
毎週水曜日と土曜日更新です、よろしくお願いします。
零士達3人は一日の授業が終わると夕暮れの街を歩きながら会話をする。いつもの他愛の無い話、発売されたゲームの内容を語る正輝に、ファッション雑誌に載っていた洋服が可愛いと話す千影。
2人が仲良く談笑している輪に何故かとけ込めずにいる零士は、あの夢の内容を思い出していた。夢の中に現れた謎の声、その主が話していた事で気になることは『復讐』『囲いの中にある力』『その土地に眠っている』の3つ。
あの夢を見てから胸騒ぎが止まらない、悪い意味での胸騒ぎなのか良い意味での胸騒ぎなのか、今の零士には到底理解できないのが現状だった。
それでも3つのヒントを何とか解読し答えを見つけたいと、零士は思わず深い溜息を吐く。
「って、零士聞いてるのかよ?」
「え? あー悪いなんだ?」
「零士さん、今日はずっとその様な感じですが大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
2人は零士の返答を聞くが首をかしげてしまう、微妙な空気を作り出してしまったと零士も気づくが、ここで変に話題を振ったりすれば余計に心配されると思い、2人より数歩前に出て振り返りながら、
「悪い、今日は先に帰るわ」
「え?」
「いやちょっと待てよ、さっきゲーセンに行く約束をしたじゃねーか」
「そうだったな、でも用事があったことを思い出したんだよ。本当ごめん、じゃあまた明日な」
「え!? いやおいっ!!」
ゲームセンターに行く約束すらした事を覚えていない、それくらい今は夢の内容が気になって仕方が無い、もしかしたらそれはただ自分に言い訳をしているだけで、本当は今の2人とは天と地の差くらいある優劣から逃げ出したかっただけなのかもしれない。
力がある者とそれの反対にいる者、2人をそんな風に見ているうちは友達として失格だ、距離をあけるつもりはない零士だが2人と居ればボロが出てしまいそうになる。それだけは避けたいと零士は小走りから全力で走っていく、思わず振り返りそうにもなるが変な意地を張ってしまう。
息を切らしながら茜色の空の下を走り続ける、汗も吹き出てくる、喉もカラカラになってしまう。それでも、
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
いずれは体力の限界が来てしまい立ち止まってしまう、両膝に手をついて身体は酸素を要求してくる。今までこの生活をしてきて優劣の事なんか考えたことも無かった零士、だがあの晩の日に2人に守られながら帰宅することになった時、正輝は邪魂を追いかけて千影は恋人である零士を守るために護衛を務めていた。
そんな2人を見ているとやはり自分には力が無いと、自分が居れば足でまといになっているんじゃないかと、考えたくもないワードが思考回路を巡って行ってしまう。
「はぁはぁ…………」
ゆっくりと身体を真っ直ぐに態勢をを整える、立ち止まっていた場所はアパートの前だった、呼吸も整えながら門を潜り中庭へ入っていく。なぜ中庭に入ったのか、それは『その土地に眠っている』モノを探すためだ。お世話になっている場所で生活をしてきた零士、そんな所で夢を見て言われたのならここにあるのかも知れないと、あてずっぽで行動を開始する。
次に『囲いの中にある力』のこと、あの声の主が話していた『オニガリ』は何かに囲まれた物の中に隠されているようなのだが、
「まさか、こんな物置の中にある訳ないよな」
中庭の一番奥に設置されている古びた倉庫、真妃が使っていたようだが今ではほとんど手がつけられていない。倉庫に近づいて扉を見てみるとそこには、
「南京錠か、でもこれ開いちゃってるよな……」
錆びてボロボロになった南京錠は施錠も上手くできなくなっていて、ロックをしようとしてもビクともしない。ただ不思議に感じたのは南京錠のデザインだ、難しくて読めない字が沢山掘られている。その時の零士は『変な趣味でもあるのかな姉さんは』と、呟きながら古くて開けずらい引き戸を両手で押して開ける。
勢い良く開いた反動で中に溜まった埃が舞い上がってしまう、数回むせ込んだあと零士は異様な空気に襲われる。
「なんだ、この感じ……胸が締め付けられるようなこの感じは」
この状況は夢を見ている時に味わった感覚だ、息苦しく呼吸が上手くできない、海で溺れているような状態。少しずつ体力を奪いながら意識を持っていく闇の空気。
倉庫の中に足を踏み入れると目に飛び込んできたのはガラクタやゴミ、だがそれらを山積みにされた一番奥に歪に光る木箱を見つけた零士。
「これは、なんだ……」
ドス黒いオーラを漂わせている細長い木箱、なんの力も持たないはずの零士でもその黒い光を目視で見れていた。木箱には大量のお札や墨で書かれた難しい漢字で異様さを放っている。自ずと呼吸が早くなるのがわかる、全力で走った後の乱れた呼吸と大量の汗、手汗もひどく考えるよりも身体が動く。
だが頭の中でも警告アラートがずっと鳴り響く、『開けてはいけない!!』『そこから離れるんだ!!』と脳内の自分が訴えてくる。でも止められない、もう自分ではどうすることもできない。その時だった―――
―――フクシュウを、フクシュウを果たせ
あの夢の中の主が脳内で命令してくる、復習? フクシュウ? 復讐? 復讐。
(復讐、復讐をしないといけないのか)
一体誰に復讐をしないといけないのかわからない零士、それでも復讐を果たさなければいけないと頭で無理矢理納得してしまう。綺麗な黒い瞳は、木箱から取り出した長い刀を手にした瞬間、濁った灰色の瞳へと変わっていく。
そして、
「な!? ぐぁぁぁぁあ!!」
左の手の甲が焼けるように痛い、極限にまで熱されたナイフを突き刺された痛みが零士を襲う。握っていた刀を落として床に倒れ込む、あまりの痛さに意識が飛びそうになる零士にまた話しかけてくる。
―――バレてはイケナイ、バレナイヨウニしろ
痛みに耐えていると目の前に狐のお面が落ちてきた、それがお面だと認識できたのは痛みが無くなってからだった。目の前を渦巻く闇が消え去った後、零士は焼けるように痛かった手の甲を見る。
「これは…………」
見た事のある印、紫色になった痣のようなそれは『霊滅師』であることを証明するモノだった。