第1章2 『険悪』
初回なので2話まで上げました、よろしくお願いします
今日から2年生として新たな1年が始まる、朝から騒がしい食事の時間を過ごした後、零士は千影と一緒に通学路を歩いて学校を目指す。
2人の通う学校は一般校とは少し違っていて、授業の中に『霊鬼』や『霊滅師』についての教科も一環として学んでいる。もちろん他校でも2つの事について教えられるが力の入れ具合が全く違っていて、他では無い実技なども行っている。
座学と実技をすることにより、霊能力が無くてもある程度自分の身を守れるだけの力を付けることができる。最近では無能力者の為にと『ゴーストレンズ』と言われる眼鏡を発売され、一般人はそれを付けることにより『邪魂』を見つけることが出来る。
しかしまだこれも完全なものではなく、強い邪気にしか反応しない為、まだまだ改良の余地が必要とされている。つまりゴーストレンズを付けて発見した場合はすぐに霊滅師を呼ぶ必要がある、その間は邪魂に刺激を与えないように距離を取るか、神様が宿っている何かを持って守りに入らないと大変なことになる。
これは無能力者が行う事だが、2人が通う学校の生徒達は配られた『霊魔吸印』のお札を使用して消滅させている、使用した後のお札は霊滅師に渡しそれを霊脈に流し込む。
この作業が何百年と続いているのだが、終わりを見せる気配は全くない。
「零士さん、待ってください」
「ん? どうした?」
「ネクタイが曲がっています、こっちに向いてください」
カバンを地面に置いて零士のネクタイを結び直す千影、このやり取りも高校生になってからずっと続いている、この夫婦のような空気に誰も近づこうとしない、ある一人を除いてだが。
「おはよーっす! なんだよまたイチャついてんのかよ」
「おはようございます、愛染さん」
「正輝か、おはよう」
ゴツイ身体をした彼は『愛染正輝』
1年生の後半くらいに友達になってから、こうして朝の通学路を3人で歩くのが当たり前のようになっていた。
そして彼の左手に巻かれている包帯の向こうには、霊滅師を証明する印が刻まれている。愛染家も由緒ある霊滅師の一族で彼はその子孫になる。
「今日からまた学校かー、本当ダルイ」
「いけませんよ愛染さん、単位を取らないと卒業できませんし」
「朝からお小言をありがとう千影ちゃん…………」
他愛の無い会話をしながらも3人は学校を目指し歩いていく。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
学校に着くと3人はそのまま体育館へ向かう、始業式の後に昇降口の掲示板に新しいクラスが発表される、1年生の時は千影と一緒のクラスで正輝だけは別クラスだった。後から選択授業で一緒になって以来、休み時間には屋上でゆっくり過ごすのが定番になった。
体育館の中に入ると3人は『2年生は真ん中の列を自由に座りなさい』と先生に言われ、真ん中の適当なパイプ椅子に腰をかける。この学校はネクタイの色で学年が見分けられている、白が1年生、赤が2年生、青が3年生となっている。
「今年はお前らと同じクラスだといいよな」
「暑苦しいのと一緒だと、夏は大変だけどな?」
「なんだと、零士」
「二人共静かにしてください、始まりますよ」
しっ! と人差し指を唇にあてながら男2人を黙らせる千影、最後の生徒が体育館に入ってきたのを確認した後、入口は閉められ校長が舞台に登壇する。
深々とお辞儀をした後設置されたマイクを手に取り、ゆっくりと左右を見渡したあと話を始める。
「皆さん、おはようございます。今日から新学期なので新しい仲間も沢山増えることでしょう」
ここの校長は女性で生徒からも厚い信頼を得ている、そして何よりビックリすることがある、校長の名前は『千花音美鈴』で、名前の通り千影の母親なのだ。
生徒、教師陣、保護者からの人望もあり昼休みになると『美鈴相談室』と言われるお悩み教室が開催されている。
零士と千影は利用したことが無いが、正輝はしょっちゅう通っているとかで他の生徒の中で有名になっているらしい。
「そして明日からは新しい1年生もやってきます、先輩らしい行動と今まで教わった事を後輩達に伝えて行きましょう」
美鈴校長は『長話はしません、皆さんより良い生活を』と告げてから降段、生徒全員が割れんばかりの拍手を送り始業式は無事に閉式。
体育館を出て3人は昇降口にある掲示板を見にやってきた、2年生のクラスは全部で8クラスあり、正輝が『あ!』と声を上げて指をさして、
「見ろよ! 俺達同じクラスじゃねぇか!」
「はい、やりましたね!」
「夏は暑苦しくなるの確定になっちまった…………」
「サマーゴッドと言われた俺の力を見せつける時が来たな」
「サマーゴッド?」
「触れてやるな千影」
本当にどうでもいい事で盛り上がる3人は、今までより絆メーターが上昇したように見える。掲示板を見たあと新しい教室を目指し歩き出す、周りの生徒達もウキウキした表情を浮かべながら歩いている。
そして教室に辿り着くなり扉を開け放ちズカズカ中へ入る正輝、それに続いて2人も中に入ると黒板に『名前のある席に座りなさい』と書かれていた。正輝は教壇の目の前と最悪なポジション、2人は隣同士で窓際に零士が座る。
そこでやっと気がつく、何か冷たい視線と会話の内容が目や耳に入ってくる。
―――あれって九鬼だよな
その一言で何なのか理解した零士、黒板に書かれた名字を見た瞬間から呟きが教室中に広まる。この学校に九鬼と言う名前は零士しかいない、と言うよりも今この日本に九鬼の名を持つのは零士ただ1人。
1年生の時に味わった嫌な空気をまた味わう時が来たのだろうか、零士は何も聞こえないフリをしながらトイレに行くために立ち上がるが、
「霊鬼の根源が…………」
「…………」
聞こえる声ですれ違った零士に悪口を吐く、そんな彼の手の甲にも包帯が巻かれている、霊滅師なのはすぐわかったがこんな風に言われればさすがに零士も我慢の限界だった。今まではなんとか耐えてきて周りに助けられてきた、だがもう限界だ。
零士がそいつの胸ぐらを掴もうとすると、先に間を割って入ってきたのは正輝だった。
「テメェに何がわかるんだよ、おい」
「なっ!? 何をするんだよ離せ!」
「テメェに零士の何がわかるんだって聞いてんだ」
「正輝…………」
力いっぱいに胸ぐらを掴んでいる正輝は、力強い瞳と覇気でクラスメイトを圧倒する。そうだった、正輝は零士が『九鬼一族の末裔』だと知っていても何一つ悪口は言わなかった、むしろ面白おかしく話を振ってくれていた。
気がつけば強く握りしめていた手を包むようにギュッと握ってくれる千影、零士は『ありがとう』と千影と正輝に小さな声で伝える。
「コイツはな、そんな一族の話とは関係ねぇんだよ」
「だが九鬼一族は日本を壊滅させたじゃないか!」
「そんな何百年も前の話を未だに信じてるとはな、事実無根だろが」
「君がなんと言ってもこれは事実だ、九鬼一族はさっさと滅びろっ!!!」
「じゃあまずはテメェから滅ぼしてやるよ」
男子の叫ぶ怒りの声に他のクラスの生徒まで見物にやってきてしまった、このままでは良くないと零士は『もういい、離してやれ』と肩を叩くと正輝は力を緩め突き飛ばした、床に叩きつけられた男子は立ち上がると零士を睨みながら、
――――いつか消してやる
と、台詞を吐き捨てて自分の席へと戻った。