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九鬼零士の霊滅師  作者: 双葉
第1章 『霊滅師編』
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第1章23 『目覚める力』







「気分はどうかな、零士れいじ君」


「今までは身体が重かったです、でも今はビックリする程に軽いです」


「それはそうのはずです、君の中にはずっと別の邪魂じゃこんが取り憑いてたのですから」


「取り憑いてた?」


「ええ、生まれながらにして何かの霊魂に」


「それがあの、九鬼信長くきのぶながだった訳ですか?」


「いいえ、本当はもっと別のモノだそうです。真妃しんきから聞いた話ですがね」



 ずっと悪い夢を見ていたのもその霊魂が影響していたもので、零士の身体に長く居座りながら負のエネルギーを吸収していたようだ。それを霊魂は上手く自分のモノにする為、零士に悪夢を見せたり力を与えて独立する準備をしていた。


 簡単に言えば利用されていた、だが今回は中途半端な状態で分離したため霊魂は巨大な力を手に入れる事ができなかった。もしそれを手にしてしまったら今頃零士の身体は滅びていたと。美鈴みすずは話す。


 分離した事により零士の身体から『霊滅師れいめつし』に必要な霊力を失い、手の甲から印が消滅した。



「皆は無事なんですか?」


「わからないです、街に居た霊滅師達も応戦しているようですが、相手は霊鬼れいきの中でも上位クラス。下手をすれば、最悪の話になります」


「そんな…………」


「それくらい今回の相手は強い、そういう事になります」



 静かに語る美鈴は冷静な対応を零士に取っている、自分の娘が死ぬかもしれない、もう帰ってこないかもしれない、それなのにどうしてそこまで落ち着いて居られるのか零士はわからなかった。


 最愛の彼女が死ぬかもしれない、それだけで零士は落ち着いて居られなかった、だから美鈴に対して強い言葉をぶつけてしまう。



「どうしてそんなに落ち着いてるんですか!?」


「彼女達は霊滅師です、任務遂行の為に動いているのです」


「そうじゃないですよ! 千影ちかげが死ぬかもしれない! 母親の貴女がどうしてそんな冷静にいるんだ!!」



 強く握りしめた拳を畳に叩きつける、怒っちゃいけない、当たってはいけない、そんな事はわかっているはずなのにこうするしか他無かった。美鈴が一番そうしたい筈なのに、そうしないのは『母親』だから。


 自分の娘を信じてやるしか無いのだ、帰りを待ち続けるしかできないから、だから親として毅然な態度で心を落ち着けている。零士は『すみません、出過ぎた真似をしました』と謝る。




「零士君は誰かの為に怒れます、ですが私はできないのです」


「それは、どうしてですか?」


「私は自分の娘が可愛いからです、それ以外の為に動く力は持っていない。でも千影は霊滅師に選ばれた、あの子も誰かの為に怒れる人間です」


「美鈴さん……」



 視線を美鈴の膝にやると、ギュッとスカートを握りしめている。何かに耐えているのがわかってしまった、それでも決してわかったことを口にはしない、言ってしまったら傷つける事になるかもしれない。


 しばらく無言の空気が流れる、お互い何かを考えている雰囲気でも無く、探り合いをしている訳でもなく、ただ静かな時間の中に居る。その後美鈴は手に持っていた細長い何かを零士の目の前に置く、その時に重みのある音がした。



「これは」


「零士君、貴方は誰かの為に命を賭けられますか?」


「俺は…………」


「貴方は大切な人の為に、死ねますか?」


「大切な人の為に…………」



 霊力なんて持たない人間が戦いに出ればきっと直ぐにやられてしまう、それでも大切な人を、助けたい人の為に戦えるのか? そう伝えてきている。紫色の細長い袋に入ったそれを持てば帰って来れなくなるかもしれない、それでも戦えるのか。


 震える手を零士は強く握りしめる、今の自分に残された事は『皆を助けに行く』か『このまま行かずに生き残る』のか。皆は零士に取り付いていた霊鬼を倒す為に傷ついている、そんな状況で安全な場所に居られる訳が無い。


 零士はゆっくりと手を伸ばし、その袋を掴み立ち上がる。




「俺、皆に迷惑掛けたままとか無理です」


「零士君…………」


「霊力なんて無い、倒す力は無いけれど」



 強く、喉から自分の覇気を出すように、




 ―――必ず、皆を連れて帰ってきます




 自分でもわかるくらいに身体中から何かが湧き上がってくる、強く決心したせいなのか負ける気が一切してこない。零士には見えていなくとも美鈴には見えていた、零士と手に持つ刀が同調し白い光のオーラが湯気の様に湧き出てくるのを。



「そうですか、やはり貴方は九鬼の末裔なのですね」


「何か言いました?」


「いえ。その刀は『大蛇丸おろちまる』です、元ある場所に返しておきます」


「元ある場所に?」


「それもこちらの話です。それより急いでください、場所は街の中央にある展望台です」


「わかりました、行ってきます」



 刀を持った零士は走って部屋を飛び出して行った、この戦いに終止符を打つために、苦しめられてきたこの数年間の全てを終わらせるために、赤い夜の中を走って行く。


 不思議と疲れない上に身体がかなり軽い、刀を握る前よりも軽く飛べそうな気分になる。脳内麻薬がドパドパ溢れているのか、それとも刀の力なのか。



「姉さん、正輝まさき、千影。今行くからな!!」



 自ずと走る足のスピードが加速していく、もっと、もっと、もっと、速く、速く、速く、速く!!!





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